プーチン大統領の「勝利宣言なし」 逆に際立った“弱気と限界” 現実味おびる「右腕」への権力禅譲

プーチン大統領、ロシア「戦勝記念日」に演説 国際

プーチン演説は拍子抜け 逆に際立った“弱気と限界”…現実味おびる「右腕」への権力禅譲

プーチン演説は拍子抜け 逆に際立った“弱気と限界”…現実味おびる「右腕」への権力禅譲(日刊ゲンダイ 公開日:2022/05/10 13:50 更新日:2022/05/10 13:50)

ウクライナ戦争の節目とされたロシアの対独戦勝記念日は、拍子抜けの展開だった。

有力視されたプーチン大統領による「戦争宣言」も、核戦争時に大統領が乗り込んで指揮を執る軍用機「イリューシン80」が飛ぶ予定だった航空ショーもなし。むしろ、パンパンにむくみ、かつての精気は見る影もないプーチン大統領の老体ぶりが際立った。ロシア軍よりも先に“戦線離脱”する可能性が浮上している。

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モスクワの中心部「赤の広場」で行われた9日の式典で、プーチン大統領は約10分間演説。

「昨年12月、われわれは安全保障に関するさまざまな提案を行ったが、すべてムダだった。NATO(北大西洋条約機構)は耳を傾けなかった」

「キエフ(キーウ)は核兵器取得の可能性を明らかにしていた」

「われわれにとって受け入れがたい脅威が国境につくり出された。米国や同盟国が肩入れしたネオナチとの衝突は避けられないものになっていた」

などと、虚実入り交じった持論を展開し、「NATO加盟国から最新兵器が提供される様子を目の当たりにし、危険は日増しに高まっていた。ロシアは侵略に対して先制的な対応を取った。必要かつタイムリーで、唯一の正しい判断だった」と独自のロジックでウクライナ侵攻を正当化。「勝利のために。万歳!」と演説を締めくくったが、勝利を最も不安視しているのは他ならぬプーチン大統領かもしれない。

筑波学院大教授の中村逸郎氏(ロシア政治)はこう指摘する。

「演説の最大の焦点は、ロシア軍の犠牲に言及した点です。負傷兵や遺族の暮らしを保障する大統領令に署名したとも言っていました。『特別軍事作戦』の失敗を認めた事実上の敗北宣言と言っていい。戦況が好転する見通しもなければ、国内基盤も揺らいでいるためでしょう。プーチン大統領は非常に弱気になっている印象を受けました」

右腕のパトルシェフ安全保障会議書記なら路線維持

「体調悪化が深刻な上、体制を支えてきたオリガルヒ(新興財閥)の離反も相次ぐ。肉体的にも精神的にも限界に達したプーチン大統領が、右腕のパトルシェフ安全保障会議書記に禅譲し、引退するシナリオが現実味を帯びています。パトルシェフ氏は対欧米強硬派。『特別軍事作戦』を推奨した人物で、路線は維持される。体面を保つギリギリの線と言えるでしょう」(中村逸郎氏)

パトルシェフ氏もKGB(ソ連国家保安委員会)出身で、後継組織FSB(ロシア連邦保安局)の長官ポストをプーチン大統領から引き継いだ。さかのぼれば、アル中悪化や親族の不正蓄財で進退窮まったエリツィン元大統領は、裏切りそうにないプーチン大統領に権力を譲って逃げ切った。

世界を敵に回したプーチン大統領に同じ手が通用するのか。

プーチン大統領の「勝利宣言なし」 専門家が分析「19万の軍隊で2カ月半で2都市では難しい」

プーチン大統領の「勝利宣言なし」 専門家が分析「19万の軍隊で2カ月半で2都市では難しい」(スポニチ 2022年5月10日 18:32)

EU、ロシア関係などの外交政策を中心に研究している、筑波大の東野篤子教授が10日、日本テレビ系「news every.」(月~金曜後3・50)にリモートで生出演し、9日にロシアのプーチン大統領が対ナチス・ドイツ戦勝記念日の式典で行った演説や、今後の戦況について見解を語った。

演説の中でプーチン大統領は、事前に予想された勝利宣言、戦争宣言、核使用の示唆について発言をしなかった。東野氏は「戦争宣言をしてしまうと、一定の戦果を求められると思います。ところが今まで2カ月半、戦ったのにはっきりと制圧ができたとロシア側が主張できるのがマリウポリ、南部のヘルソン、この2つだけになります」と指摘。「19万の軍隊を投入して、2カ月半でこの2都市だけを戦果として上げるのは、なかなか難しかったということで、今までやった戦争、これから必ず戦果が得られるのかといった自信がなくなっているんだと思います」と分析した。

プーチン大統領はスピーチの中で、ウクライナの国名を1度も発しなかった。東野氏は「多くの西側諸国に嫌悪感をもたらしたようですね」とし、「たくさん土地の名前は出てくるんですけど、たとえば『我々の歴史的な土地であるドンバス』とか、『祖国ドンバス』といった形で。特に東部について、まるでロシアの領土のように言及していました」と説明。「このようなことから、ロシアは東部を奪還することをまったくあきらめていないことが伝わってきますね」と、プーチン大統領の意図を推測した。

東野氏は演説全体を通して、「2月24日の開戦時に出した演説の内容と、非常に似ています。それだけ使い古された演説だということも言えるのかもしれません」と印象を語りつつ、「その時から決意が全然揺らいでないんだと思います」とも指摘した。今後の戦況については「どういう状況になったら落としどころなのか、やめるのかというところは伝わってきません。満足するまで戦い続けるということしか言えません」と、長期化を懸念した。

5月9日「戦勝記念日」式典でのプーチン大統領演説(全文)

5月9日「戦勝記念日」式典でのプーチン大統領演説(全文)