ロシア産離れや温暖化対策で注目 「夢の燃料」バイオコークスとは(毎日新聞 2022/5/3 14:00 最終更新 5/3 14:00)
脱炭素社会に向け、植物原料の廃棄物から作る固形燃料「バイオコークス」に注目が集まっている。2005年に近畿大が開発し、二酸化炭素(CO2)排出量がほぼゼロとされる「夢の固形燃料」だ。石炭コークスの代替燃料として、外食産業などのほか、伝統産業の工房でも導入を模索し始めた。一方、コスト抑制や大量生産に向けた研究が進められている。
岩手県の伝統的工芸品・南部鉄器の工房「及富(おいとみ)」(同県奥州市)で4月、鋳鉄を溶かす際に使う燃料・石炭コークスの一部をバイオコークスに置き換える実験があった。使用したバイオコークスの原料はリンゴのしぼりかすと樹皮。実験で制作した鉄瓶や風鈴、文鎮について、菊地章専務は「石炭コークスだけよりも火の粉は多かったが、品質に差はなかった」と評価する。
及富の石炭コークスの年間消費量は約20トン。バイオコークスの試験導入は、50年までにCO2など温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする国の目標「カーボンニュートラル」を見据えているからだ。植物を燃やした際に発生するCO2は、もともと植物が空気中から取り込んだものなので、温室効果ガスの排出量にカウントされない。このため、バイオコークスからはCO2がほぼ排出されないとされており、地球温暖化防止への貢献が期待されている。
製造方法は、数ミリ程度の大きさに砕いて乾燥させた植物性原料に圧力をかけて体積を圧縮し、約180度で加熱。円柱状に成形する。燃焼温度は1000度以上で、石炭コークスに匹敵するという。
製鉄で、大量のCO2を出す石炭を避けるには電気炉へ転換する方法もあるが、導入に数億円、維持に年間数千万円程度かかり、小規模な工房や事業所にとって現実的ではない。菊地専務は「電気炉に変えても、CO2を排出する主体がうちから電力会社に代わるだけ。温室効果ガス削減のための根本的解決にはならない」。植物由来の燃料に可能性を見いだす大きな理由だ。
国際情勢の変化も、バイオコークスに目を向ける契機になったという。日本は石炭のほとんどを輸入に頼っており、21年の輸入量(速報値)は約1.8億トン。うち約1割はロシア産だ。21年以降石炭価格は跳ね上がり、高止まりしているところにロシアによるウクライナ侵攻が起きた。岸田文雄首相はロシア産石炭の輸入を段階的に廃止すると表明し、さらに値上がりする可能性がある。バイオコークスは化石燃料に比べて国際情勢の影響を受けにくく、及富はコストバランスを見ながら、実験を続ける計画だ。
大手企業でも導入の動きが広がる。モスバーガーを展開するモスフードサービス(東京都)は3月、バイオコークスで焙煎したコーヒー豆を使ったドリンクを「モスバーガー&カフェ」48店舗で販売開始した。使った燃料の原料はコーヒー殻。同社は「コーヒーのリニューアルを検討する中、環境に配慮した商品を採用したいと考えた。拡大も検討したい」と説明する。
米国系コーヒーチェーン、スターバックスコーヒージャパン(東京都)も16~17年、近畿大や神戸市と連携し、スタバ店舗から出るコーヒー殻などの廃棄物を再利用してバイオコークスを作る実証実験を行った。
ネックは製造コストだが、近大バイオコークス研究所の井田民男所長(燃焼工学)は「技術革新と石炭価格の高騰で、バイオコークスは『とんとん』になってきている」と指摘。製造過程で最もエネルギーを消費するのは、「乾燥」「粉砕」など原料の前処理だ。水分量が少ないそば殻や小麦の表皮部分の「ふすま」、粉砕の必要がないコーヒー殻・茶殻など、原料を厳選することでコストを抑えられるという。
バイオコークスを製造する企業は現在3社。本格的な利用拡大には大量製造が必要で、研究所は製造技術の開発とともに、発熱量向上といった燃料の性能を向上させる研究に取り組んでいる。井田所長は「地域で出た廃棄物をその土地でバイオコークスにして消費するという、循環型のサプライチェーン(供給網)の構築にも取り組みたい」と語る。