菅義偉首相は1月4日、首相官邸で年頭の記者会見に臨み、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、東京、千葉、埼玉、神奈川の1都3県を対象に緊急事態宣言の再発令について「検討に入る」と明言した。また、今年の東京オリンピック・パラリンピックについて、予定通りの開催を目指す考えを示した。
菅総理の年頭記者会見(全文)と質疑応答(要旨)を以下に掲載する。
菅義偉内閣総理大臣記者会見(全文)
新年に当たり、一言御挨拶をさせていただきます。
例年であれば、五穀豊穣と人々の幸せを祈る伊勢神宮へ参拝した後に年頭の記者会見を行っておりましたが、今年は現在の新型コロナウイルスの状況を踏まえ、参拝をしかるべき時期まで延期し、ここ官邸において会見を行うことになりました。
新型コロナウイルスについては、引き続き1日の感染者数が3,000人を超え、重症者数も高い水準で推移しており、非常に厳しい状況だと認識いたしております。
まずは、年末年始も最前線で闘っておられる医療、介護を始めとする関係の方々、そして外出や帰省を控えていただいている国民の皆様に、心から感謝を申し上げる次第です。
政府としては、こうした厳しい状況を踏まえ、改めてコロナ対策の強化を図っていきたいと思います。まずは感染対策、さらに水際対策、医療体制、ワクチンの早期接種、この4点で強力な対策を講じることにいたしました。
第1に感染対策です。12月の人出は多くの場所で減少しましたが、特に東京と近県の繁華街の夜の人出はあまり減っておりませんでした。昨年以来、対策に取り組む中で判明したことは、経路不明の感染原因の多くは飲食によるものと専門家が指摘いたしております。したがって、飲食でのリスクを抑えることが重要です。そのため、夜の会合を控え、飲食店の時間短縮に御協力いただくことが最も有効ということであります。1都3県について、改めて先般、時間短縮の20時までの前倒しを要請いたしました。そして、国として緊急事態宣言の検討に入ります。飲食の感染リスクの軽減を実効的なものにするために、内容を早急に詰めます。さらに給付金と罰則をセットにして、より実効的な対策を採るために、特措法を通常国会に提出いたします。
第2に水際対策です。年末にウイルスの変異種が帰国者から見つかり、外国人の新規入国を原則として拒否することにし、入国規制を強化しています。また、いわゆるビジネストラックについても、相手国の国内で変異種が発見された際には、即時停止とすることにいたします。
第3に医療体制です。特に東京を始めとする幾つかの都市でひっ迫する状況が続いております。各地域において新型コロナウイルス感染者を受け入れる病院、病床の数を増やしていただく必要があります。国として、看護師などスタッフの確保、財政支援を徹底して行うとともに、各自治体と一体となって病床確保を進めてまいります。必要ならば、自衛隊の医療チームの投入も躊躇いたしません。医療崩壊を絶対に防ぎ、必要な方に必要な医療を提供いたします。
第4にワクチンです。感染対策の決め手となるワクチンについては、当初、2月中に製薬会社の治験データがまとまるということでしたが、日本政府から米国本社に対して強く要請し、今月中にまとまる予定であります。その上で、安全性、有効性の審査を進めて、承認されたワクチンを、できる限り2月下旬までには接種開始できるように、政府一体となって準備を進めております。まずは医療従事者、高齢者、高齢者施設の従事者の皆さんから順次開始したいと思います。私も率先してワクチンを接種いたします。
それまでの間、国、自治体、そして国民の皆様が感染拡大を減少に転じさせるために、同じ方向に向かって行動することが大事です。これから新年会のシーズンを迎えます。引き続き不要不急の外出などは控えていただきたいと思います。
従来のウイルスも変異種も対策は同じです。マスク、手洗い、3密の回避を是非お願いをいたします。今こそ、国民の皆様と共に、この危機を乗り越えていきたいと思います。是非とも皆様方の御協力をよろしくお願い申し上げます。
まずは、新型コロナウイルスの感染を収束させ、その上で新たな時代において我が国経済が再び成長し、世界をリードしていくことができるように、就任以来100日余り、これまでの発想にとらわれない改革を続けてまいりました。できるものから実現し、国民の皆さんに成果をお届けする。私は、令和3年をそんな年にしたいと思います。
携帯電話料金については、大手が相次いで現在の半分程度となる大容量プランを実現すると発表し、本格的な競争に向けて大きな節目を迎えました。
また、地方の活性化については1兆5,000億円の交付金を用意し、地域社会の立て直しを進めていただきたいと思います。また、5年間で15兆円規模の国土強靱化にも取り組んでいきます。農産物の輸出については、新たな野心的な計画の下で、米や牛肉などの重点品目の産地をしっかり支援していきます。
さらに、次の時代の成長の原動力となるのがデジタルとグリーンです。今年の9月にはデジタル庁をスタートさせ、いよいよ改革を本格化させます。有能なデジタル人材が国や地方の現場で、また民間でも活躍し、同時に全ての国民の方々が恩恵を実感することができるデジタル社会を目指してまいります。また、2050年カーボンニュートラル、ここを目指して年末に取りまとめましたグリーン成長戦略を更に具体化し、できるものから実行に移していきます。2兆円の基金、税制を活用して、再生可能エネルギーの鍵となる蓄電池を筆頭に、大規模な設備投資や研究開発投資を実現します。このような成長志向型の政策をこれからも展開していきます。
長年にわたり最大の課題とされる少子化問題についても大きく歩みを進め、これからの世代が希望を持てる年にしたいと思います。不妊治療の保険適用を来年4月から開始します。現行の助成制度も、所得制限を撤廃して2回目以降の助成額を倍にした上で、予算成立後、1月1日に遡って適用いたします。さらに、今後4年間かけて14万人分の保育の受け皿を整備し、待機児童問題の最終的な解決を図ります。加えて、40年ぶりの大改革として、長年の課題でありました35人学級を本年から実現し、生徒一人一人に行き届いた教育を進めてまいります。このような少子化対策、若者の皆さんのための政策をこれからも続けていきたいと思っています。
コロナが世界の対立を生み出し、修復の兆しがいまだ見えない中だからこそ、私は多国間主義を重視し、ポストコロナの秩序づくりにリーダーシップを発揮していきたいと思います。その上で最も重要なパートナーが米国です。バイデン次期大統領が就任されたのち、できる限り早くお会いして、日米同盟の絆をより強固なものにしたいと思います。そして、最も重要な拉致問題や国際社会が直面する課題の解決に緊密に協力をしていく関係を築き上げていきたい、このように思います。この日米同盟を基軸にしながら、豪州、インド、欧州、ASEAN(東南アジア諸国連合)など、様々な国、地域と連携を深め、自由で開かれたインド太平洋の実現に取り組みます。また同時に、中国、ロシア、近隣諸国との安定的な関係を築いていきたいと思います。
当面は、新型コロナウイルス、その克服に全力を尽くします。一日も早くこれまでの日常を取り戻し、皆さんに安心と希望をお届けしたいと思います。
夏の東京オリンピック・パラリンピックは、人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として、また、東日本大震災からの復興を世界に発信する機会としたいと思います。感染対策を万全なものとし、世界中に希望と勇気をお届けするこの大会を実現するとの決意の下、準備を進めてまいります。
今年は、改革の芽を大きく育て、国民の皆さんにその果実を実感していただきたいと思っています。そして、後に令和3年を振り返ったとき、その年が新たな成長に向かう転機となった変革の年であった、こう言われる年にしたいと思います。そうした思いで、国民のために働く内閣として、今年も全力で取り組んでまいります。
私からは以上です。
記者との質疑応答(要旨)
記者(幹事社・テレビ東京) 週内にも緊急事態宣言の発令が検討されているとの報道があるが、スケジュール感は。「GoToトラベル」の全国停止が11日までだが、停止の解除をどう考えるか。
首相 政府として(基本的対処方針等)諮問委員会で考え方を聞き、飲食のリスクを軽減する実効的なものを詰め、表明したい。緊急事態宣言となれば、「GoToトラベル」の再開はなかなか難しい。
記者(幹事社・時事通信) 今月召集の通常国会で目指す成果は。9月が任期(満了)の自民党総裁選や衆院解散への対応は。
首相 国会では補正予算と来年度予算の早期成立を図り、コロナの特措法改正案を早期に提出する。デジタル庁設置、35人学級、行政手続きのはんこ廃止などの法案を提出し、国会で説明したい。衆院解散は、秋のどこか(終了後に官邸側が「秋までのどこか」に訂正)で衆院選を行わなければならず、時間の制約も前提にしながらよく考えた上で判断する。総裁選はまだ先の話で、まずは目の前の課題に取り組むことが大事だ。
記者(読売新聞) 緊急事態宣言の経済への打撃を和らげる対策は。
首相 最優先に行うべきは、リスクがかなり多いと言われる飲食を中心に対応すべきだと思っている。
記者(フリーランス・江川紹子氏) 教育、文化、スポーツなど経済活動全てを止めた昨年4月の緊急事態宣言とは今回は違うのか。(香港紙)リンゴ日報創業者が拘束され、周庭氏が重大犯罪を収容する刑務所に移送されたとの報道があるが、中国の一連の問題をどう考えるか。
首相 緊急事態宣言は限定的、集中的に行うことが効果的だと思う。また、中国が民主国家であってほしいということを日本政府も発信していきたい。
記者(産経新聞) 緊急事態宣言をしなければならない状況に至った原因は。
首相 東京都と近県で12月の人出があまり減らなかったということだ。この約2週間、1都3県だけで(感染者が)全国の半分になっている。4知事の要望も判断の1つの要素ではあるが、首都圏だけが抜きんでて多くなっていることを危惧する中で判断した。
記者(フリーランス・大川豊氏) 強度行動障害の子どもが暴れ医療従事者に負担をかけるため、緊急事態宣言で病院から出されるという現実があるが、国の指針は。
首相 それぞれの場所によって対応も違うので、国としてしっかりと指導し、障害者の方が安心できるよう支援をしていく。
≪時間内に質問できなかった報道機関が、会見後に提出した質問に対する首相の回答≫
朝日新聞 緊急事態宣言の実効性はどの程度上がるか。
首相 感染拡大を抑えるためには、飲食での感染リスクの軽減を図る対策が重要で、実効的なものとする観点から宣言の内容を早急に検討する。特別措置法は給付金と罰則をセットで、より実効的な措置がとられるよう、改正案を通常国会に提出する。
北海道新聞 感染拡大が止まらず、宣言検討に至った政府のコロナ対策の自己評価を。
首相 感染拡大の背景は気温の低下の影響に加え、飲食の場面が主な要因とされる。これまでも全国で飲食店の営業時間短縮を進めており、北海道、大阪などしっかり行った地域では効果が出ている。
西日本新聞 政府の要請が届きにくい現状をどう考えるか。
首相 東京とその近県では3が日も感染者数は減少せず、極めて高い水準となっている状況を深刻にとらえ、より強いメッセージが必要と判断した。
中国新聞 核兵器禁止条約発効の所感を。締約国会議へのオブザーバー参加の検討は。
首相 抑止力の維持・強化を含め現実の安全保障上の脅威に適切に対処しながら核軍縮を前進させることが適切だ。条約に署名する考えはなく、オブザーバー参加は慎重に見極める必要がある。
共同通信 「桜を見る会」前日の夕食会を巡り、安倍晋三前首相は説明責任を果たしたと考えるか。
首相 前首相はできる限りの説明をしたと思うが、説明が十分かどうかは国民が判断することだ。
フリーランス・畠山理仁氏 羽田雄一郎参院議員はPCR検査を受ける前に亡くなった。政府は何を学び、対策を講じるか。
首相 検査が必要な方が迅速かつスムーズに検査を受けられるようにすることが重要だ。今後も検査体制の拡充を図っていく。
ラジオ・フランス 症状があってもPCR検査を受けられない事例が多数ある。政府は検査を制限しているか。
首相 症状がある場合、抗原検査キットによる検査が可能。季節性インフルエンザの流行期に約2000万件の需要に対応できる検査能力を確保し、全国約2.8万か所の診療・検査医療機関を指定するなど、体制整備を進めている。