世界初の生体ロボット、自己複製可能な世界初の生きている機械「ゼノボットMk3」

生きている機械「ゼノボットMk3」 科学・技術

【元記事】世界初の生体ロボット、「生殖」が可能に 米研究チーム(CNN 2021.12.01 Wed posted at 06:54 JST)

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史上初の生体ロボット「ゼノボット」を作製した米国の研究者らがこのほど、ゼノボットは今や「生殖」が可能だとする論文を発表した。その生殖方法というのは、動植物では見られない異例のものだった。

ゼノボットは名前の由来となったアフリカツメガエル(学名ゼノパス・ラエビス)の幹細胞から形成され、幅は1ミリ以下。実験の結果、動く、群れで協力する、自己修復するといった能力を持つことが判明し、2020年に初公開された。

そして今回、ゼノボットを開発したバーモント大学やタフツ大学、ハーバード大学ビース研究所の研究チームは、科学的に知られているどの動植物とも異なる全く新しい生物学的な生殖形式を発見した。

「これには仰天した」。タフツ大学アレン・ディスカバリー・センターの責任者で、論文の共同筆頭著者を務めたマイケル・レビン教授(生物学)はそう驚きを語る。

「カエルには通常使う生殖方法があるが、(幹細胞を)胚の他の部分から解放して、新たな環境で生きる方法を模索するチャンスを与えると、新しい動き方だけでなく新たな生殖方法も考え出すようだ」(レビン氏)

C字形のゼノボットが幹細胞を集めて圧縮する。それが子孫へと成熟していく/Douglas Blackiston & Sam Kriegman

ロボットか生命体か

幹細胞とは、様々なタイプの細胞に発展する能力を持つ未分化の細胞のことを言う。研究者はゼノボットを作るため、カエルの胚から生きた幹細胞を摘出して培養した。遺伝子操作は行っていない。

「ロボットといえば金属製かセラミック製だと思っている人が大半だが、重要なのはロボットが何で作られているかではなく何をするか、つまり人間のために自力で行動するかどうかだ」。論文の筆頭著者を務めたバーモント大学のジョシュ・ボンガード教授(コンピューターサイエンス)はそう説明する。

その意味ではこれはロボットだが、遺伝子未改変のカエルの細胞から作られた生物であることも明らかだ」(ボンガード氏)

生体ロボット「ゼノボット」は「生殖」が可能だとする論文が発表された/Douglas Blackiston/Sam Kriegman

ゼノボットは当初は球形で、約3000の細胞から作られていた。ボンガード氏らはゼノボットの複製が可能なことを突き止めたが、こうした複製は特定の状況下でまれにしか発生しない。ゼノボットが使った複製プロセスは「キネティック・レプリケーション」と呼ばれ、分子レベルで起きることが知られているものの、細胞全体や生物のレベルで以前に観察されたことはないという。

研究チームは人工知能(AI)の助けを借りて、ゼノボットがこの種の複製をより効果的に行えるよう数十億種類の形状を試した。最終的にスーパーコンピューターが考案したのは、1980年代のビデオゲームに登場する「パックマン」に似たC字形だ。この形であればペトリ皿の中の小さな幹細胞を発見して、口の内側の部分で数百個の細胞を集めることができる。数日後、細胞の集まりが新たなゼノボットになった。

「AIがこうしたマシンをプログラムする方法は、我々が通常考えるコードの書き方とは異なる。形を整えたり刻んだりして、このパックマンのような形状をたどり着いた」とボンガード氏。「本質的には形状がプログラムだと言える」と話す。

C字形の親(中央上)が大きな幹細胞の集まったかたまりを回転させる。これが新しいゼノボットに成熟する/Douglas Blackiston & Sam Kriegman

ゼノボットは40年代のコンピューターのようなごく初期の技術であり、今のところ実用的な用途はない。しかし研究者によると、こうした分子生物学とAIの組み合わせは、潜在的に人体や環境内の様々なタスクに活用できる可能性がある。海洋マイクロプラスチックの収集や植物の根系(植物の地下部全体)の調査、再生医療などに使われる可能性もあるという。

自己複製するバイオテクノロジーの出現に懸念の声も上がりそうだが、研究者らによると、ゼノボットは生分解が可能で、倫理の専門家によって規制されているため、研究室内に閉じ込めておき簡単に消滅させることができたという。

この研究は軍用技術の開発を監督する国防高等研究計画局(DARPA)が一部の資金を拠出した。研究結果は査読付きの科学誌「米科学アカデミー紀要」に11月29日に発表された。

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