【抜粋・参考記事】
米国流行の変異株 日本人6割「免疫」発揮できない可能性(産経新聞 2021.4.19 16:00)
米で流行の変異ウイルス 日本人に多い免疫の効果弱まる可能性(NHK 2021年4月13日 18時38分)
カリフォルニア州で急速に広がる変異株、重症化率が高い可能性も(Newsweek 2021年2月25日 16時30分)
米国流行の変異株 日本人6割「免疫」発揮できない可能性
米国で感染が急拡大している新型コロナウイルスの変異株について、日本人の6割が持っている免疫細胞で排除できない可能性があるとの解析結果を、東京大や熊本大などの研究チームが明らかにした。
この変異株は国内でも沖縄県での感染例が報告されている。日本で感染が拡大した場合、他の変異株より脅威となる可能性もあるという。
新型コロナウイルスの表面には、人の細胞に取り付く足掛かりとなる「スパイクタンパク質」と呼ばれる突起がある。米国の変異株はこの部分に「L452R」という変異を持ち、2種類がカリフォルニア州を中心に拡大している。
研究チームは、白血球の一種がウイルスなどの異物を排除する「細胞性免疫」という働きに着目。白血球の血液型である「ヒト白血球抗原(HLA)」を調べたところ、日本人の6割が持つ「HLA-A24」というタイプの白血球が、スパイクタンパク質の一部をよく認識できることを突き止めた。
ところが、さらに研究を進めると、カリフォルニア変異株は、「HLA-A24」がウイルスを認識する箇所が変異していることが分かった。細胞実験でも、HLA-A24が変異株を認識できず、細胞性免疫がウイルスを排除する仕組みが働いていないことを確かめた。
免疫の働きには、細胞性免疫のほかに、抗体を作ることで異物に対抗する「液性免疫」がある。液性免疫の効果もカリフォルニア変異株で低下していることが、米カリフォルニア大などによる研究で指摘されている。このことはワクチンの効果が低下する可能性を意味する。
チームの実験ではL452Rの変異により、ウイルスの感染力が高まっていることも分かった。
チームを率いる佐藤佳・東大准教授(ウイルス学)は「液性免疫からも、HLA-A24による細胞性免疫からも逃げる上に、感染力も上がっており、かなりやっかいだ」と指摘する。日本人にとって他の変異株よりも危険な変異株であるかもしれないという。
ただ、1人の人間が持つHLAは複数あり、HLA-A24以外のタイプが変異株を認識して排除できる可能性がある。今回の結果は、日本人の6割が変異株に弱い体質であることを示すものではない。
今回の研究成果は正式な査読を受ける前の論文である「プレプリント」を公開するサイトに掲載された。
【解説】「免疫」、「自然免疫」と「獲得免疫」、「細胞性免疫」と「液性免疫」
「免疫」とは、外部から侵入する異物の他、死んだ細胞や老廃物、がん細胞などといった体内で発生する異物やゴミの除去を行うシステムである。
異物は数限りないため、どんな異物が来ても対抗できるよう、「自然免疫」と「獲得免疫」という2段構えで体を守っている。
「自然免疫」とは、生まれたときから体に備わっている免疫で、体内に異物が侵入した時、真っ先に反応して異物を排除する。また、抗体を作るために、侵入した異物の情報を、獲得免疫で働く免疫細胞に伝える役割も担っている。
「獲得免疫」とは、体内に侵入した異物に対する抗体を作り、次に同じ異物が侵入した場合に効率的に排除する仕組みを作る免疫で、抗体を作るよう指令を出すT細胞や抗体を作るB細胞といったリンパ球などである。
獲得免疫は、役割によって「細胞性免疫」と「液性免疫」の2種類に分けられる。
「細胞性免疫」は、T細胞という免疫細胞が主体となって働いており、抗体を産生するのではなく、免疫細胞自体が異物を攻撃する。
「液性免疫」は、B細胞が主体となって抗体を作ることで異物に対抗する免疫で、産生された抗体は体液を介して全身に広がり、食細胞を活性化したり、異物の毒性や感染力を失わせたりする。
その後、活性化されたB細胞の一部は「メモリーB細胞」となり、次に同じ異物が入ってきたときに効率的に抗体を産生できるように備える。
細胞性免疫と液性免疫で大きく異なる点は、異物に対する攻撃方法で、細胞性免疫では免疫細胞が直接異物を攻撃するが、液性免疫では抗体を作って異物に対抗する。