次世代電池の大本命 全固体電池、開発に期待 リチウムイオン電池の弱点改良

全固体電池の構造 科学・技術

次世代電池の大本命 全固体電池、開発に期待 リチウムイオン電池の弱点改良(東京新聞 2022年6月19日 07時53分)

電気自動車(EV)普及の鍵として、次世代電池の開発が注目を浴びています。本命候補と言われるのが液体を使わない「全固体電池」。リチウムイオン電池の弱点の発火の危険性を大幅に抑え、大きなエネルギーを蓄えられると期待され、研究機関や企業が協力して開発を進めています。

電気自動車の時代が来る、といわれますが、まだ街で見ることは多くありません。割高なことに加えて、長距離では電池切れの不安があり、充電に時間がかかります。また使ううちに電池の性能は落ちていきます。

この弱点、現在のリチウムイオン電池の能力の限界によるもので、解決には大きな技術革新が必要です。その可能性が全固体電池にあるというのです。

トヨタ自動車が昨年、全固体電池を積んだ試作車の映像を公開しました。日産自動車も2028年までに実用化を目指します。温暖化対策として二酸化炭素を出さない車が求められ、ロシアのウクライナ侵攻で燃料の価格も上昇する中、メーカーはよりよいEVのために電池開発を競い合います。

液体を使わない「全個体電池」

発火

全固体電池とは、どんな電池なのでしょうか。リチウムイオン電池の中には「電解液」という液体が入っているのです。スマートフォンの小さな電池にも数ミリグラム使われています。この液体がとても燃えやすいのです。電池はエネルギーの缶詰のようなもの。そこに燃えやすい液体があると、落として壊れたり、高熱になったりした場合に、発火する危険性があるのです。

この電解液の役割を固体の材料で置き換えるのが全固体電池です。燃えにくく、高温の場所でも使えます。電池を冷やす仕組みも簡単にでき、同じ大きさ、重さで、リチウムイオン電池より多くのエネルギーをためられます。

電池は大きいほど、内部にこもる熱も多くなりますが、全固体電池は熱に強いので大きくしやすいのです。太陽光や風力の発電は、お天気次第で安定しない弱点がありますが、大きな電池にためておければ補えます。また、電池が劣化する原因となる化学反応も全固体電池では起きないため、寿命を延ばせると期待されます。

リチウムイオン電池は吉野彰さんらが開発し、2019年にノーベル化学賞を受賞した、日本が世界に誇る技術です。この電池を超えようと世界中の研究者が目指してきましたが、かないませんでした。今もリチウムイオン電池が世界最強なのです。

その発明が時代遅れになると思われるかもしれませんが、心配はいりません。全固体電池の基本の仕組みはリチウムイオン電池と同じで、弱点を大幅に改良する技術といえます。

探索

こう説明すると理想的な電池のようですが、狙い通りの全固体電池ができれば、の話です。乗り越えるべき壁がたくさんあります。

少し詳しく、リチウム電池の仕組みを見てみます。電池には正極(+極)と負極(−極)があり、−極から電子が送り出されて電流が流れます。同時に、電池の内部でも電気を持った物質(リチウムイオン)が−極から+極に向かって流れます。

このイオンの流れがよければ電流も大きくなります。電池の中で、リチウムイオンがすいすいと動き回れることが大切なのです。すいすいと動くのに液体が向いているのは当然です。ですが、この役割を果たす液体が「有機溶媒」といって、油に近い性質で燃えやすいのです。その部分を固体にできないか、というわけです。

リチウムイオンがすいすい移動できる特別な内部構造の固体を探すことが鍵です。

最も可能性がありそうなのが硫黄を骨組みにした素材です。東京工業大のグループがすでに、液体のようにイオンをよく通す物質を探し当てていて、開発も進んでいます。ただ、硫黄は水に触れると有害な硫化水素が発生するため、別の安全性の課題が出てきます。

次の候補は、酸素を骨格にする固体です。高温で焼き固めて作る陶器などのセラミックの仲間で、自動車部品に使われ日本に高い技術のある分野です。安全性も高いのですが、うまく均質につくらないと、内部にちょっとした境目のような構造があるだけでイオンが流れなくなってしまいます。まだ理想的な物質は見つかっていません。

今月、国立研究開発法人の物質・材料研究機構(茨城県つくば市)は、よりよい物質を探すためトヨタ自動車や、自動車部品、化学メーカー10社との共同研究を始めると発表しました。同機構のチームリーダーを務める高田和典さんは「電池開発は日本が伝統的に強い分野。各社に共通する課題を一緒に克服していい素材を見つけたい」と語ります。米国や韓国、中国などでも研究が進んでいます。世界で競い合うことが、温暖化抑制につながるかもしれません。