中国はGDP2位でも覇権国になれない?習近平に立ちはだかる“成長の天井”(DIAMOND online 2026年9月9日 18:00)
山中俊之 著述家/グローバル理解&人材開発コンサルタント
西側主導の国際秩序に正面から対峙する中国。習近平政権の長期化で「豊かな国」より「強い国」へと舵を切る一方、その成長モデルには弱点も見え始めている。「強い中国」は、世界の覇権を握れるのか。※本稿は、元外交官の山中俊之『世界のエリートが学んでいる教養としての超現代史』(SB新書)の一部を抜粋・編集したものです。
習近平政権で中国は 「豊かな国」より「強い国」へ
2010年、中国が名目GDPで世界第2位の経済大国となると同時に、米中対立は本格フェーズに入りました。以降、中国は国際政治、経済のあらゆる場面で避けて通れない存在になってきましたが、この流れをさらに大きく変えたのが、2012年に発足した習近平政権です。
習近平は、鄧小平時代に導入された集団指導体制から、習個人が指導する、豊かな国よりも強い国を目指す国家体制に国家のあり方を変えてきています。また、それまで以上に「西側諸国がメインアクターとなって構築してきた国際秩序に正面から対峙していく」という姿勢をはっきりさせました。西側が描いてきた世界地図の上に、自らの論理で線を引き直そうとし始めたのです。
さらに、本来はあり得ないはずだった習近平の「3期目続投」が決まったのは2022年のこと。70歳を超えてなお権力の座にとどまり、死ぬまで指導者の座に就いている可能性すら見えてきました。ロシアのプーチン大統領とは年齢が近いこともあり、「長期政権を前提にした個人支配型の指導者」として比較されることも増えています。
習近平体制になってから 接待や会合の規制が強化
私は、これまでに、天安門事件前年の1988年に訪問して以来、出張や調査で25回ほど中国に足を運んできました。その皮膚感覚からも、この20年ほどの中国社会の変化、特に「習近平体制になってからの締めつけ」を強く感じています。
たとえば、2010年代前半であれば、中国に行くと地方自治体の主催で盛大な会食を開いてくれたものでした。
2012年に稲盛和夫さんの盛和塾の視察で青島に行ったときも、私は下にも置かぬもてなしを受けました。当時は尖閣諸島問題で日中の政治関係は緊迫していましたが、ビジネスは別との考えが中国側で強かったのです。
日本の経営者の対中投資拡大を期待して、中国の役人たちが税金を接待に投じ、高級料理と酒がふんだんに振る舞われる。そのような光景が当たり前でした。
ところが、2010年代後半になると様子は一変します。
2018年に別のビジネス関係の視察団の一員として深圳を訪れた際にも市の共産党幹部主催の夕食会に招かれたのですが、お酒がいっさい出なかったことに驚きました。腐敗防止のための規制が厳しくなり、アルコール類を出せなくなったそうです。さらに最近では、「公務員は3人以上で外食をしてはいけない」というルールが定められた地方自治体もあります。
こうした締めつけの強化には、接待や会合の場で起こりやすい汚職・談合を防ぐという狙いに加えて、「多人数が集まって話し合う場」そのものに対する警戒もあると感じます。ビジネスの会合であっても、「一定人数が集まる場」に対して、中国政府は警戒感を強めてきました。
かつてはビジネスセミナーや講演会が大歓迎され、私自身も日本総研勤務時代にはホテルでの講演などを問題なく行ってきました。しかし現在は、「規模が大きく、熱気を帯びた集まり」ほど当局の目が厳しく向けられるようになっているのです。
このように、腐敗防止と統治の安定を名目とした監視社会への移行が、2010年代以降の中国の大きな特徴と言っていいでしょう。
中国に優秀な人材が 集まらない理由
中国の未来を考える際に鍵となるのは、「人口減少」と「人材確保の難しさ」です。
中国はすでに少子高齢化のフェーズに入っており、若年人口が増え続けているインドやアフリカ諸国とは異なる人口構成になっていくことは必至です。一方、国内の政治的制約や将来への不安から、優秀な人材がアメリカなど海外に渡る動きも加速しています。
今や中国は世界第2位の経済大国。しかし、アメリカのように世界中から優秀な人材が集まるという状況にはなっていません。シンガポールやインドから見ると、アメリカより中国のほうが距離的には近い。しかし、こうした国々の優秀な人材が起業や留学先として選ぶのは、中国もゼロではないのでしょうが、やはり圧倒的にアメリカなのです。
これに加えて、中国からアメリカへと渡る人も、第2次トランプ政権で陰りは見えるもののこれまでは増えていました。今や世界第1位と第2位の経済大国は、今後のアメリカの移民政策などにより左右される面はありますが、片や「優秀な人材が集まるアメリカ」、片や「優秀な人材が流出する中国」と、人材確保の点では違いがあります。
そう考えられる理由は単純かつ明白です。
アメリカはもともと移民がつくった国です。トランプ政権によって排外的になったと見られている節もありますが、さまざまな出自の人々が暮らしているという元来の多様性自体は損なわれていません。
中国が海外から起業家や留学生を受け入れる器となるには、そうした「国としての多様性の受容」が欠けているのです。東アジアの漢字文化圏の人を除き、習得が相当に難しい中国語の存在や共産党一党支配の政治体制も大きな障壁になります。
中国は人口も世界第2位の巨大国家ですから、人口減少といっても、すぐに問題になるわけではないでしょう。14億もの人口に支えられて、今後しばらくはアメリカに次ぐ経済大国であり続けるはずです。ただし長期的に考えると、優秀な人材の流入が少ないことが、中国の成長の天井になっていく可能性は十分に考えられます。
レアアースが中国に集中 国際社会に新たな不安
となると、中国は、どういう形で世界に影響力を及ぼしていくのでしょうか。
今後、いくら経済力をつけても、おそらく中国が「世界全体の覇権国」になることはありません。その代わり、自らの勢力圏の内部や、いくつかの分野では主導権を握る「部分的覇権国」になり、アメリカなどと覇権を争う国になると考えられます。
たとえば、ここ10年あまりで急速に進んだEV化、再生可能エネルギーなどの環境分野では、世界トップレベルの競争力を持っています。環境問題という「人類共通の課題」でリーダーシップを発揮することは、国としてのメンツを保つためにも、中国にとっては非常に魅力的な道です。
その反面、レアアースなど重要な資源の産地が中国などに集中していることは、国際社会にとって新たな不安定要因ともなります。どこまでいっても西側の価値観や国家体制とは相容れない国に、世界中の産業に欠かせない資源を握られていること自体が、外交上の火種になると見ざるを得ません。
レアアース採掘現場での環境破壊や人権侵害も指摘されているため、中国は「環境大国」として称賛されながらも、利害・利権が絡む裏側では「環境破壊」「人権軽視」がまかり通っているという、表の顔と裏の顔を同時に持ち続けていくでしょう。
また、「一帯一路」や対外援助を通じて、アフリカやラテンアメリカ、中東、東南アジア、南太平洋など「グローバルサウス」における中国の存在感は、今後もさらに高まっていくはずです。
現に多くの国にとって、「最大の貿易相手国は中国」という状態が当たり前になりつつあります。「アメリカやヨーロッパに代わり、中国に買ってもらうことで経済が成り立つ」という世界がすでに現れており、それは今後も進行していくでしょう。
そして世界の目が中国に向けられる中、日本人は、中国伝来の漢字を用い、中国古典や儒教に多少なりとも親しみと理解があるという点で、それなりにアドバンテージがあるとも言えます。
中国を過小評価も 過大評価もしてはいけない
では、今後、私たちは中国とどう向き合っていき、同時に世界とどう渡り合っていくべきでしょうか。
それは、「中国を過小評価も過大評価もしない」ことです。
監視社会であることや人権侵害だけを見て「危険な国」と決めつけるのでもなく、経済規模やEVの普及状況だけを見て「何もかも中国が先を行っている」と無条件に称賛し、ひれ伏すのでもない、というバランス感覚を持つということ。
中国には、すでに巨大な人口と資本力を背景とした高い技術力がある。アメリカが構築したプラットフォームを転用している面もあり、まだ真のオリジナリティは発揮できていません。それでも歴史上、画期的な発明品を生み出してきた「DNA」のようなものが復活すれば、非常に大きな可能性を秘めていると言えます。
また、EVインフラ整備や再生可能エネルギーの取り組みには日本も学ぶべき点が多い一方、人口減少や多様性の欠如といった弱点も抱えている。裏側での環境破壊や人権問題も無視できない。どの国を見る場合もそうですが、特に中国については、このように多面的に捉えることが重要です。


