「岸田政権」2年間の“不祥事と炎上”を振り返る 「息子は優遇」「庶民は増税」を涼しい顔でする宰相の素顔

内閣改造後、記者会見する岸田文雄首相 政治・経済

「岸田政権」2年間の“不祥事と炎上”を振り返る 「息子は優遇」「庶民は増税」を涼しい顔でする宰相の素顔(AERAdot. 2023/10/04/ 17:31)

岸田政権の発足から4日で2年となった。一時期は内閣支持率が59%(朝日新聞世論調査)まで上がったこともあったが、閣僚などの不祥事が続いた上に、重要政策を強引に推し進めたことなどから支持率が下落。現在も低い支持率にとどまっている。政治ジャーナリストの角谷浩一さんはこの2年について「良くても100点中30点」と落第評価だ。改めて岸田政権の2年間を振り返ると、岸田文雄首相の“本性”が浮き彫りになってくる。

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「政権として力強さを感じることはないが、低空飛行でしぶとい印象です」

政治ジャーナリストの角谷浩一さんは岸田政権の2年をこう振り返る。

安倍政権、菅政権と続いた“強権政治”とは違い、一見、岸田首相は穏健派に映る。だが、その実、防衛増税も含めて政策決定は乱暴で、民意を顧みないことも少なくない。一体、岸田政権とはいかなるものなのか。政権支持率と主な出来事を突き合わせながら、振り返ってみたい(肩書はすべて当時のもの)。

岸田政権は2021年10月、菅義偉首相から引き継ぐかたちで発足した。政権スタートの支持率は45%(朝日新聞世論調査、以下同)だった。この数字は01年以降の新政権発足時で過去最低の支持率だった。

岸田首相は総裁選でも、自身の長所として「聞く力」を掲げていた。それを発揮していた(と思われた)当初は、国民の支持率が上がる局面もあった。

たとえば、21年12月。18歳以下への10万円の給付方法を現金とクーポンで別々に給付するとしていたが、世論や自治体からの反発を受けて、全額を一括で現金で給付することも可能とする方針に転換した。

こうした対応を受けて、同年12月の世論調査では支持率は49%に上昇した。当時の世論調査でも、岸田首相の「聞く力」については、「発揮していると思う」が48%とおよそ半数を占めるほどだった。

22年に入ってからは、ロシアのウクライナ侵攻に対し、岸田首相は「認めることはできない。強く非難する」などと述べ、欧米各国と歩調を合わせながら経済制裁を実施した。一連の対応は国民から評価され、同年3月の支持率は50%、4月は55%、5月は59%と3カ月連続で上昇した。ここが岸田政権の支持率の“ピーク”だった。

その後、支持率は減少に転じることになるが、ポイントとなったのは、同年7月の参院選後だった。

参院選の終盤に安倍晋三元首相の銃撃事件が起こり、それ以降、旧統一教会と自民党議員との深いつながりが次々と明るみに出た。

旧統一教会との関係を含めて、生前の安倍元首相は政治家としての評価が二分されていたが、岸田首相は、党内の保守派や保守層を意識し、安倍元首相の国葬の実施を決定した。世論の半数以上が反対の意向を示しながらも、9月27日に国葬を強行した。

国葬後に実施された世論調査では、支持率は40%まで下落。この後、炎上や不祥事のオンパレードとなっていく。

10月には岸田首相の息子・翔太郎氏が首相秘書官に就任することが発表され、「公私混同」などと強い批判を浴びた。

その後、山際大志郎経済再生相が旧統一教会との関係を相次いで指摘され辞任。

11月も葉梨康弘法相が死刑執行に関して軽んじるような発言をし、辞任。

さらには寺田稔総務相が、政治資金をめぐる問題が複数発覚し、辞任した。

極め付きは、12月に決まった防衛政策の転換だ。岸田首相は12月に防衛費の安定した財源確保に向け、増税を検討すると表明。さらに、国会での議論を経ずに、敵基地攻撃能力の保有などを盛り込んだ安保関連3文書の改定を閣議決定した。

閣議決定だけで、国民の生活や国のあり方を変えてしまうような重要政策を決めてしまうことに世論は反発。閣僚の不祥事が重なったこともあり、世論調査でも支持率31%と最も低い数字をたたき出した。

23年に入ってからもスキャンダルが相次いだ。1月には息子・翔太郎氏が首相の外遊に同行した際に観光をしていた疑惑が報道され、SNSなどで炎上した。

さらに、荒井勝喜首相秘書官が性的少数者らに対して「隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」などと差別発言をしていたことが発覚し、更迭された。

一方で、5月に「G7広島サミット」が控えていたことから、政権運営としては“安全運転”が続き、5月の政権支持率は46%にまで回復した。

角谷さんはこう語る。

「岸田首相の支持率が上がるときは、選挙やサミットがあり余計なことを何もやらないときです。反対にそうしたイベントが終わると、キャッチーだけど中身のない政策をぶち上げて、ガクッと支持率が落ちる。また、閣内や党内の不祥事が多く、支持率を下げる要因が毎月のように起こっています」

岸田政権の炎上、不祥事はサミット後もとどまることはなかった。

サミット後の5月下旬、息子・翔太郎氏が首相公邸で忘年会を開き、記念撮影などをしていたことが発覚。岸田首相は息子をかばう態度も見せたが、批判の声を抑えきれず、翔太郎氏は更迭された。

6月には、マイナンバーをめぐり個人情報が漏洩していた問題などが続々と発覚したことを受けて、「総点検本部」が設置された。この問題を巡っては河野太郎デジタル担当相は当初「マイナンバーカードの信頼性に影響するものではない」などと強弁していたが、デジタル庁から行政指導されることになった。

7月には木原誠二官房副長官が妻の元夫の不審死をめぐり、刑事事件の捜査に介入した疑惑を週刊文春が報道。8月には秋本真利外務政務官が風力発電会社から賄賂を受け取った疑惑で外務政務官を辞任、自民党も離党した。

さらに、自民党女性局長の松川るい参院議員が、フランス研修中にエッフェル塔前で塔をまねたポーズを写真に撮りSNSで投稿したことが、「不適切」として大炎上した。研修がどういったものだったのか、報告書の公表を求める声が強いが、いまだに公表されていない。

一方で、物価高騰は止まらず、庶民の生活は圧迫されていく。ガソリン価格の高騰を受けて、ガソリン税を軽減する「トリガー条項」の発動を求める声が多くあがっていたが、鈴木俊一財務相は「発動は見送る」と述べ、批判が殺到した。

9月13日には支持率回復を狙った内閣改造・党人事を実施したが、過去に自身の政治団体で不明朗な会計処理が問題になった小渕優子衆院議員が選対委員長に就任したことで、「説明責任が果たせていない」などと批判が再燃。事件当時、検察が押収したパソコンのハードディスクがドリルで壊されていたという事実があり、“ドリル優子”と揶揄する投稿がSNSにあふれた。

直近の世論調査では8月は支持率33%、9月の改造後の支持率も37%と低い水準にとどまっている。

こうして振り返ると「不祥事と炎上のオンパレード」と言ってもいいような政権だが、岸田政権はなぜここまで持ちこたえているのか。角谷さんはこう説明する。

岸田首相は『自分に責任がある』とは言うが、責任は取りません。普通の感覚では『責任がある』と言えば、辞任してけじめをつける話なんですが、そうはなりません。これは『安倍論法』と言われ、安倍元首相が多用した手法です。旧統一教会とのスキャンダルについては『関係を断つ』と言いながら、関係が深いとされる議員が閣内や党内の要職に就いています。メディアはこうした事態に厳しく対峙する必要があるのですが、受け入れてしまっている。その結果、低空飛行で政権が維持される結果になっているのだと思います」

また、岸田首相の“見た目”の印象も影響を与えていると見る。

「麻生(太郎)氏が岸田首相について『リベラルそうに見えるあの顔が世の中に受ける』と言っていましたが、実際そういった側面がしぶとさにつながっていると思います。岸田首相は宏池会なのでリベラル、ハト派のような印象がありますが、実際はそうではない。メディアも野党も岸田首相のイメージを正確につかみ切れていないため、のらりくらりと岸田政権を生かすことになっています。このまま政権を維持し続けることもあり得ます。岸田首相を改めて“解剖”し、正確に理解する必要があると思います」

ちまたでは、10月に解散かという声も出始めている。この国のかじ取りをこれからも岸田首相に任せていいのか、われわれはよく考える時期を迎えている。

(AERA dot.編集部・吉﨑洋夫)