なりたくない病気1位「認知症」の実像 在宅看取り年間200人の名医が語る

認知症は誰にでもなり得る病気 社会

なりたくない病気1位「認知症」の実像 在宅看取り年間200人の名医が語る(日刊ゲンダイ・ヘルスケア 公開日:2022年10月28日 更新日:2022年10月28日)

認知症は最もなりたくない病気だという。2021年に太陽生命が実施した「最もなりたくない病気は何か」というアンケートでも、2位の「がん」(28%)を引き離し、ぶっちぎりのトップ(42%)だった。しかも、この結果は20~70代のどの世代においても順位は変わっていない。

日本人の死因1位のがんよりもなりたくない病気、認知症の実際を、年間200人超の看取りを行う「しろひげ在宅診療所」(東京都江戸川区)の山中光茂院長に聞いた。

病院に行けない人への診察を行う在宅診療の現場では、患者のほとんどが高齢者で、初診の段階ですでに「認知症」という診断名がつけられている人が少なくない。ただ、生活と密着した在宅診察をしている立場から見ると、「最もなりたくない病気」とのイメージとは大きくかけ離れている実態もあるという。

「認知症を怖がるのは、『徘徊』『おかしな言動』『自分らしくいられなくなる』『家族や周りの人たちに迷惑をかける』などのイメージがあるからです。そうした事例があることは否定しませんし、認知症で苦しむ本人や家族の現実があることは間違いありません。

ただ、認知症になり、その症状が進行したから必ずしも不幸になるというものではありません。その時々に応じた適切な医療的な対応、介護環境の整備など、現実的に対処することで解決する事例がほとんどと言えますし、認知症と幸せに共存している方が多いとすら言えます」

認知症は、その状態を3段階に分けて考える必要があるという。最初は、「記憶障害」「見当識障害」「判断力障害」などいわゆる「中核症状」が出る段階。具体的には「覚えられない」「時間や場所がわからなくなる」「物事を計画したり実行したりすることがうまくできない」といった症状だという。

「本人や家族からすると、『以前できたことができない』のはつらいことです。ただ、それは認知症だから起こることではなく、加齢に伴い誰もが少しずつ受け入れながら生きていく『人としての衰え』の問題です。脳や血管系の疾患をベースにした脳血管性の認知症でなければ、急激な認知機能の低下はほぼなく、その症状は緩徐なものがほとんどです」

次が「行動・心理症状」の段階。「徘徊」「夜間の不穏」「幻覚妄想」などの症状で、中核症状が進行したときに出てくる。これらは個人差があり、症状があるから「不幸せ」というわけではないという。

「いつも幻覚妄想が見えていて、夜に窓の外から人がこちらを見ているとか、子供がベッドの周りに集まってくるなどという話は診察においてよく聞きます。家族はその言葉により不安になるのですが、本人はそれをうれしそうに話します。『子供が来てね、明日はゴミの日だってことを教えてくれるのよ』などは、『幻覚』なのですが、本人にとっては実際に見えている『真実』です。それを周囲が否定してしまうと、認知症の方が不穏になったり、人への不信感が高まってしまいます。しかし、受け入れてあげると、投薬治療などをしなくても問題が起こらないことがほとんどです」

■「治療する」ではなく「対応する」ことが大事

認知症が問題となるのは、その「行動・心理症状」が自傷・他害行為につながったり、家族や施設での生活に影響が出るなど、「環境への影響」が表れるときだ。

「症状による徘徊や夜間の不穏などは、適切な薬物コントロールで解決することも少なくありません。認知症は『治療する』ではなく、その症状に対してきめ細かく『対応する』ということが大事です

認知症初期であっても、記憶障害や見当識障害が出て、周りとの意思疎通がうまくいかなくなったり、夜間の不眠などが続いてしまうケースがある。そのことで、本人が自信がなくなったり、日常生活が面白くなくなってしまう場合もあるという。

それは、認知症というより『老年性うつ病』のケースが多い。実際にうつ病患者全体の約4割は60歳以上の方であり、高齢者の加齢に伴うさまざまな生活背景によるうつ症状は、そこに対して寄り添う周囲の配慮が不可欠な問題です」

認知症治療薬を長期服用している人の中には認知症ではなく、うつ症状や行動における課題を持つ人であることが多い。

「認知症治療薬は、副作用として感情失禁や性格変化につながることもあり、かえって怒りっぽくなったりすることで認知症状が増悪する場合もあります」

認知症は「予防しよう」「治そう」というものではなく、誰もが訪れる加齢に伴う変化と受け入れながら、症状に合わせた細かな周囲の対応が必要となる。

「画像や検査で『認知症』がわかるだけでは解決につながる服薬調整をすることは困難です。家族が医師に対して『今、何が問題で、何が困っているのか』を伝えることが大切です」

自宅でもその症状に対応した服薬や介護環境の調整をすることで、本人も家族も認知症とともに「幸福に生きる」ことも可能だと山中医師は言うのである。