処理水24日にも海洋放出へ 政府、漁業者との約束果たさぬまま(東京新聞 2023年8月21日 21時45分)
東京電力福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)の汚染水を浄化処理した後の水の海洋放出計画を巡り、政府は24日にも放出を開始する方向で最終調整に入った。22日に関係閣僚会議を開き、正式決定する。政府と漁業者が結んだ「関係者の理解なしに、いかなる処分もしない」との約束は実質的に守られず、放出に突き進む。
◆首相「数十年にわたろうとも全責任持つ」 漁連側、反対崩さず
岸田文雄首相は21日、全国漁業協同組合連合会(全漁連)と面会して理解を求めたが、全漁連側は反対の姿勢を崩さなかった。
「約束は破られてはいないけれど、果たされてもいない」。首相官邸での面会後、全漁連の坂本雅信会長はそう話した。
東電は2015年、原発の汚染水発生量を抑えるため、原子炉建屋に入る前の地下水を井戸でくみ上げ、浄化処理後に海へ流し始めた。この際、県漁連は汚染水を浄化した処理水は、漁業者や国民の理解がないまま放出はしないよう要求。政府と東電が受け入れる形で、約束の文書となった。
しかし、政府は21年4月、漁連側が反対する中で処理水を海洋放出する方針を決定。その後、閣僚らは「約束を順守する」との発言を繰り返したが、関係者の理解をどう判断するのかは明らかにせず、「特定の指標で理解の度合いを判断することは難しい」と説明を避け続けた。政府の関係資料には「理解醸成」の言葉が増え、「丁寧に説明する」という行為自体に重きが置かれた。今年1月には放出開始を「今年春から夏ごろ」と示し、スケジュールありきで進んでいった。
面会で岸田首相は「漁業者が安心してなりわいを継続できるよう、たとえ数十年にわたろうとも全責任をもって対応することを約束する」と強調。終了後、坂本会長は「処理水の科学的安全性への理解は進んできた」とした一方、「風評被害の懸念があり、決して安心できない」と述べた。
福島第一原発の汚染水の処理方法
1〜3号機の溶け落ちた核燃料(デブリ)に触れた冷却水は高濃度の汚染水となり、建屋に流入してきた地下水などに混ざって増える。建屋からくみ上げた汚染水は除染設備で放射性セシウムとストロンチウムを低減した後、多核種除去設備(ALPS=アルプス)で大半の放射性物質を除去するが、トリチウムは取り除けない。ALPSは稼働初期の性能が悪く、原発構内にたまる処理水のうち、約7割は浄化が不十分。もう一度ALPSで再浄化しないと放出できない。