年3.5兆円増の少子化対策の財源を示せないのに…防衛費11兆円増額は確定 結論は年末に先送り

こども未来戦略会議で発言する岸田文雄首相=2023年5月17日 政治・経済

年3.5兆円増の少子化対策の財源を示せないのに…防衛費11兆円増額は確定 結論は年末に先送り(東京新聞 2023年6月2日 06時00分)

政府は1日に公表した少子化対策の素案で、岸田文雄首相が「異次元」と位置づけた少子化対策の財源の具体案を示さず、結論を年末に先送りした。防衛費は2027年度から関連予算を含め倍増の11兆円と確定させ、所得税をはじめとした増税などの財源も決定済み。少子化問題は出生率を反転させる「ラストチャンス」と強調しながら、防衛費優先の姿勢が際立っている。

◆社会保障費の削減、どうやって?

「わが国の子ども・子育て関係予算は画期的に前進する」。首相は1日、自らが議長を務め、素案を提示した有識者らの「こども未来戦略会議」で対策の内容を自画自賛した。

素案では、今後3年間は年3兆5000億円を積み増すとして、児童手当拡充などの給付メニューを羅列。しかし、財源は当面の不足分を借金で賄い「2028年度までに確保」と記すにとどめた。検討段階では、医療保険料の上乗せや主に医療・介護・年金に充てる社会保障費の歳出削減などが挙がったが、明確に打ち出さなかった。

防衛費の大幅増への対応は対照的だ。政府は昨年12月、関連予算を含め、27年度に国内総生産(GDP)比で2%相当の約11兆円に引き上げることを決定。所得税などによる1兆円強の増税や、社会保障費を除く予算の「無駄削減」などで捻出すると詳細を固めた。

◆痛みを強いると「選挙で負ける」

少子化対策の財源を巡っては、防衛費優先が影響しているとの見方

少子化対策の財源を巡っては、防衛費優先が影響しているとの見方がある。

当初は消費税増税が有力視されたが、首相は早々に「消費税引き上げは考えていない」と封印。医療など国民が支払う社会保険料からの拠出も浮上し、自民党の茂木敏充幹事長が「検討しなければならない」と言及していたが、最近になって「現時点で考えていない」と打ち消した。

いずれも国民の負担増に直結する施策で、防衛増税に続いて「痛み」を強いる。このため、自民党内では衆院解散をにらみ「選挙で負ける」(中堅議員)などと反発が広がっており、政府の先送りの判断に影響した可能性がある。予算の無駄の削減でひねり出そうにも、相当部分を防衛財源に当て込んでおり、具体策を見つけられなかったとみられる。

共産党の志位和夫委員長は「軍事費にお金を使うことを決めているから、袋小路に陥っている。出そうとすれば、新たな国民負担か社会保障費削減しかないから示せない」と指摘する。

◆財源も道筋も不明、怒る野党

素案は財源だけでなく、対策の根拠や効果も曖昧で、数値目標もない。例えば経済支援の柱と位置づけ、年約1兆2000億円の費用を占めるとみられる児童手当の拡充は、どんな効果があるかの説明はない。

東大大学院の山口慎太郎教授は「必ずしも少子化対策に有効でないと言われる現金給付に中心的な予算を割くのであれば、何を目指すのか丁寧な説明が必要だ」と求める。

本来、少子化対策の議論を深めるべき国会は会期末が21日に迫る。立憲民主党の長妻昭政調会長は「結局、財源の確保策は年末まで持ち越し、倍増の道筋すら分からないと言う。これほど国会をばかにした話があるのか」と憤った。