電力フェイクに騙されるな…古賀茂明

山中伸介原子力規制委員長の国会答弁を聞く岸田首相 政治・経済

電力フェイクに騙されるな 古賀茂明(AERAdot. 2023/05/16 06:00)

古賀茂明

「ドイツは脱原発を達成したが、EUでは送配電網が繋がっているため、再エネ不稼働時に電力が不足しても原発大国のフランスから電力を輸入できる。日本は全く状況が異なるから、脱原発はできない」という話を聞いたことがある人は多いのではないか。

これは、原発推進派が良く使う宣伝だが、客観的事実を見ると相当無理のある主張だ。

まず、ドイツは、統計でわかる2008年以降21年まで一貫して電力の純輸出国だ。21年も電力輸出54兆Wh、輸入39兆Whで、その差(四捨五入)の14兆Whの純輸出国となっている。

また、21年のドイツの対仏輸出は11.2兆Wh、フランスからの輸入は4.7兆Whで、ドイツの圧倒的輸出超過である。

さらに、電力市場における自由で公正な競争が確保されているドイツでは、各供給業者が、その時々で一番安い電力を調達して供給する。その結果、ドイツの電力輸入では、デンマークがダントツで、21年は11.6兆Whを輸入している(ドイツのデンマークへの輸出は2.6兆Wh)。

22年末~23年の冬はウクライナ危機により、ロシアの天然ガスへの依存度が高いドイツは最も深刻な打撃を受けた。一方、フランスは平時の原発依存度が70%で、ロシア産ガスへの依存度が低かったため、普通に考えると最も打撃の小さな国のはずだった。

しかし、現実には、フランスでは、主力であるはずの原発が、老朽化による事故や故障などで半数が稼働停止に陥り、停電の危機に陥った。意外かもしれないが、実はこの状況下でドイツはフランスに大量に電力を供給してフランスの電力危機回避に大きく貢献した。

ちなみに、ドイツの昨年(22年)の総発電量に占める再エネ比率は約46%で、原子力は約6%でしかない。政府は30年までに電力消費の8割を再エネで賄うという高い目標を掲げている。

前述のとおりドイツがフランスの電力を買うのはより安い電力を消費者に提供するためだが、これは日本とは全く逆だ。

日本は再エネ発電量が増えて電力卸売価格が激安になる時でも再エネ電力を捨て、高い原発や火力発電を動かしたまま消費者から高い料金を取り、しかもカルテルまでやって料金を高くしている。

こんな状況であれば、仮に他国、例えば韓国と電力網がつながっても、日本の大手電力会社は、常に自社の原発や、LNGや石炭の火力発電を優先するので、電力網は宝の持ち腐れとなるだけだろう。他国との電力網は、今の日本の不公正な市場の状況ではあまり関係ないのだ。

フランスの原発依存度は70%と高いが、原発の多くは老朽化で稼働できなくなるものが多く、この比率はどんどん下がる見通しである。フランスの例を見れば原発は老朽化すると危ないことがわかる。日本は地震大国なので、特にリスクが大きいが、仮に事故が起きなくても、故障などで原発が止まれば、巨大な供給力が落ち、この冬のフランスのような電力危機を招くだろう。

日本では、老朽化しても危ないとは言えないと原子力規制委員長が強弁し、60年を超えても動かせる法律を国会で審議中だが、これがいかに非常識かがわかるのではないか。電力フェイクに騙されてはいけない。

※週刊朝日  2023年5月26日号

古賀茂明(こが・しげあき)
古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『官邸の暴走』(角川新書)など