<社説>軍拡財源法案 「専守」堅持という詭弁…東京新聞

「反撃能力」の名の下に安保政策を大転換 政治・経済

<社説>軍拡財源法案 「専守」堅持という詭弁(東京新聞 2023年4月7日 07時10分)

おおむね国内総生産(GDP)比1%程度で推移してきた防衛予算を関連予算を含めて2%に倍増する軍拡財源を確保するため「防衛力強化資金」を新設する特別措置法案が衆院で審議入りした。

倍増する軍拡予算は、長射程の巡航ミサイルなど他国を直接攻撃できる「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の整備などに充てられる。岸田文雄首相は「非核三原則や専守防衛の堅持、平和主義としての歩みを変えるものではない」と説明するが、詭弁ではないのか。

岸田政権は昨年十二月に改定した国家安全保障戦略など安保関連三文書で、歴代内閣が憲法の趣旨ではないとしてきた「敵基地攻撃能力の保有」を一転容認。二〇二三年度から五年間の防衛費総額を約四十三兆円とし、関連予算を含めて二七年度にはGDP比2%に増やすことを盛り込んだ。

政府は新たに必要となる財源のうち、四分の三は決算剰余金など税外収入で捻出し、残りを法人、所得、たばこ三税の増税で賄うとしている。審議入りした特措法案はこのうち税外収入を積み立てて複数年度かけて使う「防衛力強化資金」を創設するものだ。

しかし、東日本大震災の復興特別所得税の「流用」を含む財源確保の妥当性はもちろん、なぜ防衛費を倍増させる必要があるのか、敵基地攻撃能力を保有することは憲法九条に基づく専守防衛を逸脱するのではないかなど、問うべき問題が山積している。

今、最も懸念されるのは、台湾などで紛争が起きた場合、日本の存立が脅かされる明白な危険がある「存立危機事態」に該当すると認定し、集団的自衛権を行使して他国を攻撃する可能性を、政府が否定していないことだ。

それは、日本が直接攻撃されていない段階で、他国同士の戦争に加わることを意味する。それでも憲法九条に基づく専守防衛を堅持し、他国に軍事的脅威を与えない平和国家としての歩みを続けていると、胸を張って言えるのか。

中国の台頭など東アジアでの緊張の高まりに軍事で応じては、地域の軍拡競争を加速する「安全保障のジレンマ」に陥る。今、必要とされるのは冷静な判断と粘り強い外交努力にほかならない。

特措法案は後半国会最大の対決法案だ。防衛費倍増や軍拡増税の妥当性、専守防衛の意味を根源から問う論戦となるよう求めたい。