プーチン大統領らに逮捕状、ウクライナ侵攻めぐる戦争犯罪容疑 国際刑事裁判所

プーチン大統領(左)と、ロシアのマリア・リボワ・ベロワ大統領全権代表(子どもの権利担当)の会談の様子(2月16日) 国際

プーチン大統領らに逮捕状、ウクライナ侵攻めぐる戦争犯罪容疑 国際刑事裁判所(BBC NEWS JAPAN 2023年3月18日)

オランダ・ハーグに本部を置く国際刑事裁判所(ICC)は17日、ウクライナ侵攻をめぐる戦争犯罪容疑で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領らに逮捕状を出した。

ICCは、ロシアが占領したウクライナの地域から子どもたちをロシアへと不法に移送しており、プーチン氏にこうした戦争犯罪の責任があるとしている。

また、ロシアが全面的な侵攻を開始した2022年2月24日から、ウクライナで犯罪が行われていると指摘している。

ICCは声明で、プーチン氏が直接、また他者と連携して犯罪行為を行ったと信じるに足る合理的な根拠があると説明。また、プーチン氏が大統領権限を行使して子どもたちの強制移送を止めなかったことを非難した。

ロシア政府は、戦争犯罪疑惑を否定し、逮捕状は「言語道断」だとしている。

ICCには容疑者を逮捕する権限はなく、ICC加盟国内でしか管轄権を行使できない。ロシアは非加盟国のため、この動きが何か大きな影響をもたらす可能性は極めて低い。

しかし、海外への渡航ができなくなるなど、プーチン氏に何らかの影響を与える可能性はある。

ICCは当初、プーチン氏らに対する逮捕状を非公開にすることを検討していたが、これ以上の犯罪を阻止するために公開を決めたと説明した。

ICCのカリム・カーン検察官はBBCに対し、「子どもたちを戦争の戦利品として扱うことは許されず、子どもたちを国外へ移送することを許されない」と語った。

「この種の犯罪がどれほど悪質なものか、弁護士でなくても理解できる。人間なら、どれほど悪質なものか理解できる」

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、「国家による悪」を追及すると決定したカーン検察官とICCに感謝していると述べた。

同国のアンドリイ・コスティン検事総長は、「ウクライナにとって歴史的」な決定だとした。アンドリー・イェルマク首席補佐官は「まだ始まったばかりだ」と称賛した。

アメリカのジョー・バイデン大統領は、逮捕状は「正当だと思う」と述べた。アメリカはICCに加盟していないが、ICCは「非常に強力な主張をしていると思う」、プーチン氏が「戦争犯罪を犯しているのは明らかなので」と述べた。

連れ去った子どもを洗脳か

ロシアで子どもの権利を担当するマリア・リボワ・ベロワ大統領全権代表にも、戦争犯罪容疑で逮捕状が出された。

リボワ・ベロワ氏は過去に、ロシアに連行されたウクライナの子どもたちを洗脳する取り組みについて公然と語っていた。

昨年9月には、ロシア軍に占領されたウクライナ南東部マリウポリから、「(ロシア大統領の)悪口を言い、ひどいことを言い、ウクライナ国歌を歌った」一部の子どもたちを排除したと主張した。

また自分自身が、マリウポリ出身の15歳の少年を養子にしたと主張している。

ロシアの反応

逮捕状が出されてから数分後、ロシア政府は即座に戦争犯罪疑惑を否定した。

ロシア政府のドミトリー・ペスコフ大統領報道官はICCの決定はいずれも「無効」だと主張。ドミトリー・メドヴェージェフ前大統領は、逮捕状をトイレットペーパーに例えた。

メドヴェージェフ氏は、「この紙をどこで使うべきかなんて、説明する必要もない」と、トイレットペーパーの絵文字付きでツイートした。

一方で、ロシアの野党指導者たちはICCの発表を歓迎した。刑務所に収監されているアレクセイ・ナワリヌイ氏の側近イワン・ジダーノフ氏は、「象徴的な一歩」だが、重要な一歩でもあるとツイートした。

プーチン氏が裁かれる可能性は

ICCの逮捕状は、プーチン氏を逮捕するための非常に長いプロセスの最初の一歩に過ぎない。

ロシアはICC加盟国ではない。そのため、プーチン氏やリボワ・ベロワ氏がオランダ・ハーグで出廷する可能性は極めて低い。

ロシア国内で揺るぎない権力を享受しているプーチン氏を、ロシア政府がICCに引き渡す見込みもない。

つまり、プーチン氏がロシアにとどまる限り、逮捕のリスクはないということになる。

国際的な制裁により、プーチン氏の移動の自由がすでに大きく制限されていることを考慮すると、同氏を裁判にかけようとする国に自ら現れることはまずないだろう。

2022年2月にウクライナに侵攻して以降、プーチン氏が訪れた国はわずか8カ国。そのうち7カ国は、同氏が「旧ソ連諸国」とみなす国だった。

「旧ソ連諸国」ではない訪問先は、昨年7月に訪れたイランだった。プーチン氏はイランの最高指導者アリ・ハメネイ師と会談した。

イランは無人偵察機などの軍用装備品をロシアに提供し、ウクライナ侵攻を支援していることから、同国を再び訪問したとしてもプーチン氏に危険が及ぶことはないだろう。

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【解説】 戦争犯罪とは? プーチン大統領を裁くことは可能なのか(2022年4月記事)

プーチン氏を裁くには少なくとも2つの大きな障害がある。

ICCの設置法「ローマ規程」は、国際犯罪の責任を負う者に対して自国の刑事裁判権を行使することが、すべての国の義務だと定めている。ICCが介入できるのは、国家が捜査や加害者の訴追を行えない、あるいは行おうとしない場合に限定される。

ローマ規程は現在、123カ国が批准しているが、ロシアは含まれない。ウクライナなど、署名はしているが批准していない国もあり、ICCの法的地位がすでに揺らいでいることがわかる。

もう1つの障害は、ICCが容疑者不在の欠席裁判を認めていないことだ。

ウクライナでの戦争にとって何を意味するのか

ICCの逮捕状は、ウクライナで起きていることは国際法違反だという、国際社会からのシグナルだと捉えられている。

同様の犯罪が現在も続いていること、そしてさらなる犯罪の発生を抑止することを理由に、今回の発表に踏み切ったと、ICCは説明している。

しかしロシアは今のところ、逮捕状は無意味だと一蹴している。ロシア政府はそれどころか、自軍による残虐行為はないとの主張を変えていない。

英語記事 Arrest warrant issued for Putin over alleged war crimesWill Vladimir Putin ever face a war crimes trial?