戸建てからタワマンに買い替えた老夫婦の絶望。幸せな老夫婦の「憧れのタワマン生活」がわずか3ヵ月で破綻。こんなタワマンはやばい。

「憧れのタワマン生活」がわずか3ヵ月で破綻 社会

60歳からのマンション学

戸建てからタワマンに買い替えた老夫婦の絶望。こんなタワマンはやばい(講談社+αオンライン 2023.03.15)

日下部 理絵 マンショントレンド評論家/住宅ジャーナリスト

いまの60代は、気力・体力ともに充実したアクティブシニアが多い。趣味や再就職など社会的活動をする一方で、そろそろ老後はどこに住むのが望ましいのか、所有している住宅はどうしたらいいのか、といろいろと模索しはじめる人も多いのではないだろうか。

「高齢」と「高経年マンション」に立ち向かうさまざまな事例と、そこから「わかること」を解説した、『60歳からのマンション学』から、きっとあなたの役に立つ事例を紹介します。

事例:戸建てを売ってタワーマンションを購入

山崎夫妻は26年間住んだ戸建てを売って、人生初の分譲マンション、しかもタワーマンション(タワマン)住まいをしている。

マンションにした理由は、まずは利便性である。戸建て住まいの時は駅から遠く車での移動が必要であった。徒歩6分ほどのところに路線のバス停もあったが、バスの便数も少なくあまり利用はしていなかった。とにかく何をするにも駅に行くまでが一苦労であった。

また戸建ては2階建てで、いまは元気だからいいが、将来足腰が弱った時に2階まで階段をスムーズに昇り降りできるか、階段から落ちてケガなどしないか、それに昔、空き巣に入られセキュリティが気になっていたこともある。また夫婦二人で住むには広すぎて、智子さんも掃除が大変だという。

そして買い替えたのが、いま住んでいるタワマンである。購入を検討する際、コンシェルジュや警備員がいる24時間の有人管理のところを探した。防犯カメラやオートロック、エレベーターも非接触キーを持っている人だけが乗れ、最寄り階や共用施設がある階にのみ停止するなど、セキュリティ対策も万全。鞄などから鍵を取り出さずにオートロックを通過できる「ハンズフリーキー」の採用はすごいと思った。

コンシェルジュカウンターではクリーニングや宅配便の集荷などのサービスがありホテルライクな住まい。

それに宅配ボックスやスポーツジムもあり、ゲストルームに安価に泊まれるのも魅力的。モデルルームも豪華で最寄り駅からも3分とすべてがキラキラして見えた。

感動のタワマン暮らしだったが…

ようやく引き渡しになり、はじめてみた豪華なエントランスには感動し夫婦とも言葉が出なかった。高い天井にシャンデリア、一面のガラス窓からは陽が差し、豪華なソファセットが並ぶ。コンシェルジュカウンターからは、ビシッと制服を着た女性陣から「お帰りなさいませ」と声をかけられ、恥ずかしさと一気にセレブになったような気分になった。

老後にこんな豪華なタワマンに住めるなんて戸建てから買い替えて本当に良かった。まさに友人知人を呼びたくなるような自慢のわが家だ、タワマンライフが楽しみ、と住み始めの頃は充実したタワマンライフを送っていたのだが……、3ヵ月もしないうちに現実に引き戻されることになる。

かさむ電気代、腰への負担…

近くにこのタワマン以外、高い建物がないので抜け感があるという点も決めた理由のひとつだったが、眺望にはすぐに飽きてしまった。それどころか、全面ガラス張りの部屋は陽射しが強烈でまさに温室状態。晴れた日はエアコンをつけないといられず、思った以上に電気代がかさむ。まぁカーテンを引けばいいのかもしれないが、だったらなんのための眺望なのかと思ってしまう。

また智子さんは料理好きだが、IH調理器の火力が弱く料理のレパートリーが減ったと嘆いている。特に中華料理などの炒め物が美味しくできないという。当初は、オール電化はガス代の節約にもなるし、火事も発生しにくく良いなと思っていたのだが、使用できる調理器具もIH対応に限られてしまう。それに、スーパーなどで激安フライパンを見つけても対応しておらず使えないという。ガスコンロより調理に手応えを感じず、「ガスコンロだった前のわが家が懐かしいわ」とことあるごとに言う始末である。

そのうえ、智子さんからすると、落下防止などの理由から、ベランダの手すりに洗濯物や布団などが干せないのも気になるという。当初は、憧れの浴室乾燥機にドラム式洗濯機もあるから大丈夫と思っていたが、やはり天気がいい日はシーツとかお日様にあてて干したいと嘆く。それに物干し用の金具の位置も決まっていて、干せる丈が限られたり腰にも負担があるという。

しかし夫婦の「誤算」はそれだけにとどまらなかった…。

◇  ◇  ◇

記事後編【幸せな老夫婦の「憧れのタワマン生活」がわずか3ヵ月で破綻してしまった理由】に続きます。

26年間住んだ戸建てを売って、人生初の分譲マンション、しかもタワーマンション(タワマン)に移り住んだ山崎夫婦(仮名)。憧れのタワマン生活でしたが、3ヵ月もしないうちに現実に引き戻されることに…。いったい何が起こったのでしょうか。

悪臭、エレベーターの待ち時間…

さらに最近になって、部屋でドブや吐しゃ物のような悪臭がするようになった。特に風呂場や、洗濯機置き場がひどく、臭すぎて寝られない時もある。管理会社に聞いたところ、いま理事会で初めての雑排水管清掃について検討中だという。

一般的に築2年を超えたあたりから、定期的に雑排水管清掃を実施するそうだが、せっかく管理組合で実施することになっても不在などで清掃を受けていない部屋や、人が一定期間住んでいない部屋では排水溝から逆流し、臭いがするそうだ。またこのタワマンは、ホテルのような内廊下の構造のため、一定の換気をしていても、臭いがこもってしまうことも原因のひとつだという。それに内廊下は高級感があり素敵だと思っていたが、絨毯は水洗いの掃除がしづらくホコリや臭いのもとになってしまうケースもあるという。

しかも物件選びの条件にしていた、エレベーターの待ち時間でイライラすることもある。朝の5分は当たり前、ひどい時は10分近く待たなければならないこともある。もし川崎・武蔵小杉のタワマンのようにエレベーターが止まったら(2019年10月の台風による浸水被害で長期間電源が止まった影響)、階段で昇り降りできる自信はなく、いまさらながら高層階にしたことを後悔している。

その他にも、宅配ボックスが1階にしかなく重い荷物を部屋まで運ぶ時、非接触キーをいたるところでかざすのがとても大変である。それに、強風が吹いたり地震があったりすると「長周期地震動」によって大きく揺れ、智子さんのほうがひどいのだが、乗り物酔いのような症状になる。それに頑丈で壁が厚いと思っていたのに、子供の泣き声、水が流れる音、ドアの開閉音など生活音が気になることもある。

ステータスという魅力

一般的には、「成功者の証」などとも言われ、憧れとともに語られることもあるタワマン。実際に住んだとしてそのメリットはなんだろうか?。

まずはステータスがあげられるだろう。タワマンは再開発エリアに建てられることが多く、街並みの変化とともにニュースで取り上げられたり、駅や街に大きな広告が出たり、そのエリアのランドマーク的な存在として注目を集めることもある。誰もが知る「あのマンション」にお住まいというわけだ。

完成後も豪華なエントランスや共用施設、高層階にあるラウンジやゲストルームからの眺望など、タワマンだからこそ得られるステータスがある。

全国的にタワマンが増え過渡期とはいえ、ランドマーク性やステータス感、駅近タワマンは将来の売却時にも大きなアドバンテージになる。

特にいまは新築のタワマンが高値で推移しており、中古でも高値で売ることができる。つまり立地にもよるが、タワマンは資産価値が落ちにくい物件ということになっている。

特に利便性の高い都心部、都心から離れていても駅近など利便性の高い立地、駅直結タワマンや基幹駅(新幹線や快速が停まるなど)の駅近はおすすめである。

多少割高になっても値崩れしにくく売却する時も有利である。もし購入時の価格から、大きく下がらない価格で売却できれば、住宅ローンも完済しやすく住み替えがスムーズ。何かの理由で一時的に転居が必要になった場合、貸しやすさもメリットとなる。

タワマンは最寄り駅をはじめとして大規模な再開発エリアに誕生することも多いので、飲食店やクリニック、買い物できる各種ショップなどが入ったテナントビルなどが新設されたり、予定されるなど、入居時から生活環境が整っていることが多いのも魅力のひとつだ。人が集まることでより周辺環境が発展し利便性が高まり、サービス面も充実していく。

タワマンの大規模修繕は困難

タワマンの大規模修繕は、おおよそ15~18年の周期といわれるが、これから首都圏では多くのタワマンで大規模修繕が予想される。

一般的なマンションの大規模修繕の相場は国土交通省の「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、1回目は1戸当たり約100万円といわれるが、タワマンの場合はそれよりも高くなることが多い。たとえば次のような実例がある。

○エルザタワー55(埼玉県川口市)
1998年築、地上55階建て、高さ185m、総戸数650戸、1回目の大規模修繕費約12億円(1戸当たり185万円)

○センチュリーパークタワー(東京都中央区)
1999年築、地上54階建て、高さ180m、総戸数756戸、約17.7億円(1戸当たり231万円)

○ザ・ガーデンタワーズ(東京都江東区)
1997年築、地上39階建て、高さ134.3m、サンライズタワーとサンセットタワー2棟で構成、総戸数470戸、約8億円(1戸当たり170万円)

工事金額の総額が大きいため、長期修繕計画の試算が甘いと修繕積立金不足が起きやすい。特に物価上昇や消費税の増税を組み込めていなかった管理組合は、近年の工事費上昇についていけず、一時金の徴収や計画より遅い築20年前後で1回目の大規模修繕を実施するなどの対応をしている。

ただし、一般的なマンションの大規模修繕が10~15年周期に対して、タワマンは15~18年周期と後ろ延ばしが多く、1戸当たりは高くみえても実質的に安い場合もある。

こんなタワマンは要注意

私はタワマンすべてがダメとは思わないが、次の特徴があるタワマンはやめておいたほうが無難だ。

■細長いなど戸数が少ないタワマン
■デザイン性が高いなど歪な形状をしている
■戸数の割に維持費がかかるスパやプール、カラオケ施設などがある
■タワー式などの機械式駐車場があり、しかも空きが多い
■24時間有人管理でスタッフ数が多い

これらは金食いタワマンである。このように、タワマンと一言でいってもいろいろある。老後にババタワマンを引くと老後破産しかねないため注意したい。

『60歳からのマンション学』には、大規模修繕、滞納金問題、空き駐車場問題、ペット問題…など、さまざまな事例をもとに安心できるためのヒントを探る。

事例1 一人暮らしになって分譲マンションから賃貸へ
事例2 夫婦二人になり、駅近マンションに買い替え
事例3 あわや負動産。バリアフリーマンションへの引っ越し
事例4 買い替えよりもフルリノベーションを選択
事例5 終の棲家として買ったはずの住居で思わぬトラブル
事例6 空き駐車場問題に理事長として奮闘
事例7 戸建てを売りタワマンを購入したものの……
事例8 大規模修繕のお金がない?!
おわりに マンションを終の棲家にする時の正解とは

日下部 理絵 マンショントレンド評論家
第1回マンション管理士・管理業務主任者試験に合格。管理会社勤務を経て「オフィス・日下部」を設立。管理組合の相談や顧問業務、数多くの調査から既存マンションの実態に精通する。また、穴場の街ランキングや新築マンション情報など、マンショントレンドにおいても見識が深い。ヤフーニュースへの記事掲載は300回以上。テレビ・ラジオなどのメディア、講演会・セミナーでも活躍中。主な著書等に『すみません、2DKってなんですか?』(サンマーク出版)『マイホームは価値ある中古マンションを買いなさい!』(ダイヤモンド社)『「負動産」マンションを「富動産」に変えるプロ技』(小学館)『60歳からのマンション学』(講談社+α新書)ほか多数。