旧統一教会の被害救済 新法の成立へ議論急げ

岸田文雄首相は衆院予算委員会で「今国会を念頭に、できるだけ早く提出させる」と強調したが・・・ 政治・経済

旧統一教会の被害救済 新法の成立へ議論急げ(中國新聞 社説 11月6日(日) 06:50 最終更新: 06:53)

霊感商法や宗教団体への高額献金に苦しむ人は多い。そうした人たちを救うための法律づくりをなぜ急ごうとしないのか。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の被害救済法案を巡る与野党の協議が難航している。

与党は、検討課題が多過ぎるとして高額献金を規制する新法について先送りを提案。霊感商法による契約の取り消し要件を緩和する消費者契約法改正のみを、先行させる構えだ。野党は強く反発している。

岸田文雄首相は今国会で「これ以上、被害者を発生させない」と強調したはずだ。与野党で協議の場を設けたのは、一刻も早く法制化を目指すためではなかったのか。本気度が疑われる。被害者の身になり、新法の成立を急がねばならない。

法案づくりは、消費者庁の有識者検討会の提言を受けて始動した。提言の2日後には自民、公明、立憲民主、日本維新の会の4党で協議会の設置に合意。臨時国会のさなかに与野党で協議会を立ち上げるのは異例で、そこまでは本気度がうかがえた。

協議会では、立民と維新が共同提出した野党案を軸に検討を進めたが、具体的な内容を巡って与野党の隔たりが露呈する。

野党案は、マインドコントロール(洗脳)下で献金を要求する行為を罰則付きで禁止すると規定。年収の4分の1以上を目安として、家族らが本人に代わって献金を取り消せる制度を設けるとしている。

これに対し、自民党は「マインドコントロールの定義付けが困難」「第三者による取り消しは憲法が保障する財産権侵害の恐れがある」などと反論。おとといの5回目の協議会でも溝は埋まらなかった。野党側が求める与党案の取りまとめも、見通しを示していない。

こうした経過を受けて、決裂した場合の内閣不信任案提出に野党幹部が言及し、与党が激しく反発している。誰のための議論か、見失っているようだ。

憲法との兼ね合いや規制の実効性など慎重な議論が必要なのは分かる。しかし、洗脳された信者が家財を高額献金に充て、自己破産や家庭崩壊につながったケースも少なくない。こうした深刻な被害を防ぐためにも新法は不可欠だ。政府は霊感商法などの相談体制を強化するというが、被害者を救うための法整備なしでは、相談を受けても現実的な対処ができないだろう。

岸田首相は今週中に、被害を訴える元信者らとの面会の場を設けるという。ならば、よりスピード感をもって取り組む姿勢を見せるべきだ。

自民党はこれまでにも、「政治とカネ」絡みなど都合の悪い法案を先送りし、うやむやにしてきた例がある。旧統一教会との関係を巡る党所属議員の調査でも、後ろ向きな対応が目立った。新法成立に及び腰なのは、宗教法人の創価学会を支持母体とし、野党案に難色を示す公明党への配慮もあるのだろう。

野党は野党で、政権への批判を強めたいのだろうが、党利党略を優先し、被害者を置き去りにすることは許されない。

信者を親に持つ「宗教2世」も含め、被害の訴えは切実だ。これ以上、放置するのは政治の怠慢にほかならない。国民も注視している。実効性ある法案を速やかに成立させることが、与野党双方に求められる。