菅義偉が国葬弔辞で美談に仕立てた「山縣有朋の歌」は使い回しだった! 当の安倍晋三がJR東海・葛西敬之会長の追悼で使ったネタを

友人代表として壇上に立った菅前首相 政治・経済

菅前首相の弔辞“使い回し疑惑”報道で大騒ぎ! SNSでは「山縣有朋」がトレンドワード入り

菅前首相の弔辞“使い回し疑惑”報道で大騒ぎ!SNSでは「山縣有朋」がトレンドワード入り(日刊ゲンダイ 公開日:2022/10/02 14:25 更新日:2022/10/02 17:11)

《感動した》《心のこもった言葉に涙があふれた》

安倍晋三元首相の国葬で友人代表として読んだ弔辞がテレビのワイドショーなどで絶賛された菅義偉前首相(73)。ところが、その感動的な弔辞の「使い回し」疑惑が浮上し、ネット上で大騒ぎとなっている。

疑惑を報じたのは主に政治、社会のテーマを扱うニュースサイト「LITERA(リテラ)」。10月1日、【菅義偉が国葬弔辞で美談に仕立てた「山縣有朋の歌」は使い回しだった!】と題し、菅氏が弔辞で取り上げた山縣有朋の歌<かたりあひて 尽しゝ人は 先立ちぬ 今より後の 世をいかにせむ>に注目。

記事を要約すると、菅氏はこの歌を安倍氏の議員会館の部屋の机にあった「読みかけの本」から引用したように弔辞を読んでいたが、実際は、読みかけではなかった上、安倍氏も今年5月に亡くなった葛西敬之・JR東海名誉会長をしのぶ歌として自身のフェイスブックに投稿していた、という内容だ。

このニュースが報じられると、ネット上では賛否両論が続出。

《感動に水を差すな》《弔辞の使い回し、とは聞いたことがない。本当に友人だったのか》《これは安倍さんの弔辞のパクリでは…》《さすがリテラ、よく調べた。テレビのワイドショーでも取り上げるべきだ》などの投稿が相次ぎ、同2日には、ツイッターのトレンドワードに「山縣有朋」「使い回し」「国葬弔辞」が入った。

菅前首相といえば、毎年8月に行われる全国戦没者追悼式の総理式辞でも、安倍氏の式辞を「コピペしたのではないか」などと報じられたことがある。

■山縣有朋を選んだセンスにも批判の声

もっとも、菅氏の弔辞が美談として話題になった直後から、ネットでは《山形がどんな人だったか、知る必要あるかと》などと疑問の声があった。

山縣有朋といえば、安倍元首相の地元である山口県の出身。第3代・第9代首相を務め、日本陸軍の実質的な建設者で、日露戦争では参謀総長として指揮を執り、太平洋戦争に強い影響を与えたともされる人物。また、日本初の汚職事件である山城屋事件(明治5年)などカネにまつわる疑惑も多く、ネガティブなイメージもある政治家だ。

《山形有朋は悪人だったもの、アレ元総理とそっくりだね》《菅は弔辞をこう締め括りました。「かたりあひて 尽しゝ人は 先立ちぬ 今より後の 世をいかにせむ」――いうまでもなく日清・日露の戦争を先導した軍人政治家・山形有朋の言葉です》

《菅さんの弔辞には感動したが、山形有朋で?と思った。まぁ本を読んでいた話だけど、山形有朋って軍隊、賄賂のイメージが強いので笑、、まぁ歴史評価はいろいろあるけどね。ここは嘘でも笑、渋沢栄一とか、論語とかと言っといたらよかったのになぁ笑笑》

また、菅氏が山縣有朋の言葉を選んだ裏の意味を推察し、《伊藤博文を安倍晋三に擬し、山形有朋を自分(菅)に擬しているわけですね。つまり、オレはこれから陰険な黒幕になって、右翼政治を末長く仕切って行くぞと》

などと皮肉る投稿も散見された。

「山縣有朋の歌」は安倍元首相自身がJR東海・葛西会長の追悼で引用したものだった

菅義偉が国葬弔辞で美談に仕立てた「山縣有朋の歌」は使い回しだった! 当の安倍晋三がJR東海・葛西敬之会長の追悼で使ったネタを(LITERA 2022.10.01 05:00)より抜粋

多くの国民が反対するなか、安倍晋三・元首相の国葬が9月27日に強行された。・・そんななか話題になっているのが、菅義偉・前首相の弔辞だ。・・しかし、この弔辞、そんな絶賛を受けるようなご大層なシロモノなのか。・・スピーチライターがいようが菅前首相本人が書いていようが、薄っぺらなハリボテ的演出がされた駄文だったことに変わりはなかった。

その象徴とも言えるのが、山縣有朋の歌を読み上げたくだりだろう。菅前首相は弔辞でこう語っていた。

〈衆議院第一議員会館、千二百十二号室の、あなたの机には、読みかけの本が一冊、ありました。岡義武著『山県有朋』です。
ここまで読んだ、という、最後のページは、端を折ってありました。
そしてそのページには、マーカーペンで、線を引いたところがありました。
しるしをつけた箇所にあったのは、いみじくも、山県有朋が、長年の盟友、伊藤博文に先立たれ、故人を偲んで詠んだ歌でありました。
総理、いま、この歌くらい、私自身の思いをよく詠んだ一首はありません。

かたりあひて 尽しゝ人は 先立ちぬ 今より後の 世をいかにせむ
かたりあひて 尽しゝ人は 先立ちぬ 今より後の 世をいかにせむ〉

ようするに、菅氏は、安倍氏の死後、倒れる直前まで読んでいた本を発見。その読みかけの最後のページに、暗殺された伊藤博文を偲ぶ山縣有朋の歌が載っており、それがいみじくも、自分の思いを表していると語ったのだ。

ほんとうなら、「運命を感じさせる秘話」「ぐっとくるいい話」ではあるが、実際はそんなドラマチックな話ではまったくない。

そもそも、この山縣有朋の歌を紹介すること自体、ある政治家が他の人を追悼するために使ったネタの使い回しにすぎなかった。
 
ある政治家とは、ほかでもない安倍元首相だ。安倍氏は今年6月17日、Facebookにこう投稿している。

〈一昨日故葛西敬之JR東海名誉会長の葬儀が執り行われました。
常に国家の行く末を案じておられた葛西さん。
国士という言葉が最も相応しい方でした。
失意の時も支えて頂きました。
葛西さんが最も評価する明治の元勲は山縣有朋。
好敵手伊藤博文の死に際して彼は次の歌を残しています。
「かたりあひて尽しゝ人は先だちぬ今より後の世をいかにせむ」
葛西さんのご高見に接することができないと思うと本当に寂しい思いです。
葛西名誉会長のご冥福を心からお祈りします。〉

葛西氏といえば、安倍元首相の最大のブレーンと言われていた極右財界人で、第一次安倍政権下の2006年には国家公安委員や教育再生会議委員に就任。その後の首相再登板も猛烈に後押しして、第二次安倍政権以降は、首相動静で確認できるだけでも何十回も顔を合わせるなど、べったりの関係を築いてきた。安倍政権の政策への影響力もすさまじく、NHK会長などさまざまな人事まで左右していたことはあまりに有名だ。

その最大のブレーンだった葛西氏が亡くなったとき、安倍元首相は葬儀で弔辞を述べたのはもちろん、さまざまなメディアで追悼の言葉を発したが、そのとき、持ち出していたのが、今回、菅氏が紹介した山縣の歌だった。

これは、安倍氏にその歌が載っている評伝『山縣有朋』を薦めたのが、葛西氏だったからだ。
 
安倍元首相は、首相在任中の2014年12月27日にホテルオークラの日本料理店「山里」で葛西敬之JR東海名誉会長(当時)、北村滋情報官(当時)と会食しているが、その席で正月休みの読書におすすめの本を葛西氏に尋ね、葛西氏から件の岡義武の『山縣有朋』を薦められたと報じられている。ちなみに、岡は葛西氏の東大時代の恩師で、『山縣有朋』や『明治政治史』についてさまざまなメディアで言及しているし、葛西氏が山縣有朋を信奉しているのも有名な話だ。

ようするに、極右国家主義政治の師匠とも言える葛西氏から“日本の軍国主義路線の大元”山縣の評伝を教えてもらった安倍氏が、その師匠の追悼に本に載っている山縣の歌を使ったのである。実際、安倍氏は6月24日発売の極右雑誌「WiLL」(ワック)8月号に掲載された櫻井よしこ氏との対談でも、葛西氏をしのび、葛西氏が山縣有朋を敬愛していたこと、葛西氏から岡義武の『山縣有朋』を薦められたことなどを語った上で、「まさに、私たちが葛西さんに贈りたい歌です」として、この歌を紹介していた。

ところが、菅前首相は今回、故人である安倍氏が他の人を偲ぶために使っていたその歌を、何の説明もないまま、今度は自分の心情の表現として借用してしまったのだ。これって、弔辞のマナーとしてありなのだろうか。

安倍晋三氏のfacebook 山縣有朋の歌を引用

フェイスブック_安倍元首相、故葛西敬之JR東海名誉会長を悼む