イギリスに3人目の女性首相が誕生へ、リズ・トラスとはどんな人?
イギリスに3人目の女性首相が誕生へ。リズ・トラスとはどんな人? LGBT+の権利や地球を守るための政策には否定的!?(COSMOPOLITAN 2022/09/06)
BY JENNIFER SAVIN
イギリスの与党・保守党は9月5日(現地時間)、ボリス・ジョンソン氏の後任となる新たな党首にリズ・トラス氏を選出しました。これにより、イギリスでは史上3人目の女性首相が誕生することとなりました。そのトラス氏とは、一体どのような人なのでしょうか? 国会議員としての彼女はこれまで、どのような法案に賛成、または反対してきたのでしょうか?
党員投票の結果が発表された後に行われたスピーチでトラス氏は、「友人」であるジョンソン氏に「感謝したい」として、「ブレグジット(欧州連合からの離脱)を成し遂げ」、「(ロシアの)ウラジミール・プーチン大統領に立ち向かった」と称賛。党首に決定するまでのプロセスについては、「最も長い採用面接」だったと述べています。
トラス氏はスピーチで、保守党は「地球上で最も素晴らしい政党」だと称えました。ただ、イギリスは現在、「生活費の危機」に直面しており、食費が高騰するなか、フードバンクの利用者が急増し、公共交通から郵便まで幅広い業界でストライキが行われるなど、数々の問題に悩まされています。
トラス氏はどんな人?
会計士の資格を持つメアリー・エリザベス・トラス氏は、かなりの経歴の持ち主です。2010年の総選挙で、サウス・ウェスト・ノーフォーク選挙区から立候補し、当選しました。
2019年から女性・平等担当大臣(“副業”扱いしていると批判の声も)、2021年から外務・英連邦・開発大臣を務めています。また、デーヴィッド・キャメロン、テリーザ・メイ両首相のもとでも、閣僚を歴任しました。
私生活では、会計士のヒュー・オリアリー氏と2010年に結婚。2人の子どもがいます(2004~2005年半ばまで、同じ保守党所属のマーク・フィールド議員と不倫関係にあったという報道もあります)。
重要な政策への姿勢は?
LGBT+の権利
トラス氏はこれまで一貫して、同性婚に賛成してきました。しかし、今年8月に出演したテレビ番組で「トランス女性は女性?」との問いに「違う」と答えるなど、 トランスジェンダーのコミュニティと向き合う姿勢については問題視されています。
ブレグジット
当初は欧州連合(EU)残留を支持し、活動していたトラス氏ですが、国民投票で離脱が決まると、積極的に離脱派に転向。「手のひらを返した」との批判も受けました。
国会での採決における、議員の投票記録などを提供するウェブサイト『They Work For You』によると、トラス氏はさらなるEUの統合については概して反対しているそう。また、イギリス在住のEU圏の人たちがイギリスに残る権利を得ることにも反対しています。
教育
大学の授業料の上限の引き上げについては、2010年には年間9000ポンド(約146万円)とすることに賛成したものの、このとき以外は反対票を投じています。
住宅
現在イギリスの、特に大都市では、家賃は場合によっては天文学的な数字に。ただ、トラス氏の過去の投票記録をみると、(この数字の上昇を助長している)仲介業者の手数料に上限を設けることについては、ほぼ一貫して反対票を投じています。
生活保護
生活保護に頼る人への支援をより厚くすることには、賛成ではないもよう。物価が上昇した場合に、それに合わせて支給額を引き上げるという案にも、常に反対しています。
気候変動
『They Work For You』によると、運輸部門における二酸化炭素排出量を2030年までに大幅に削減する計画の策定と実施を政府に求める法案に反対するなど、地球を守るための政策にも一貫して反対しているそうです。
その他の問題については?
中絶
北アイルランドでは人工妊娠中絶を再び禁止すべきとの議論があり、トラス氏はこれに反対しています。ただ、アメリカで中絶の権利を認めた「ロー対ウェイド判決」が覆されたことについては沈黙を保っており、その態度には批判の声も挙がっています。
女性への暴力
トラス氏が女性平等担当大臣を務めていた間、レイプで有罪判決が下されるケースは史上最も少ない数に減少しました(レイプ被害は増えた一方で、有罪判決は半分以下になったという報告も)。若い女性が殺害される事件が多数発生するなか、多くの人が恐怖を感じていました。
これについてトラス氏は、警官の訓練を強化し、法によって罰せられる行為を新たに定め、レイプ被害の届け出や家庭内暴力の加害者登録の手続きをより迅速に行うことで、「被害者を確実に保護し、犯罪を未然に防げるようにする」と述べています。
しかし、女性をサポートするチャリティ団体「Refuge」はトラス氏に対し、さらなる積極性を求めています。
「生活費の危機」
トラス氏は党首選で、国民の生活を助けるため、300億ポンド(約4兆9000億円)規模の減税を行うことを公約に掲げています。ただ、寒さが増すにつれて光熱費がかさみ、さらに悪化していくとみられる状況に、どのように対応していくのか、具体的な計画は明らかにされていません。
From COSMOPOLITAN UK
トラス新首相に5割以上の国民が「否定的」
トラス新首相に5割以上の国民が「否定的」(日本放送 2022-09-06)より抜粋
地政学・戦略学者の奥山真司が9月6日、ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」に出演。イギリスのトラス新首相について解説した。
トラス氏、イギリスの新首相へ
イギリスでジョンソン首相の後任を選ぶ与党・保守党の党首選挙の結果が発表され、トラス外相が選出された。トラス氏は会見で「減税と経済成長のための大胆なプランを実現する。エネルギー危機を解決し、高騰する光熱費問題にも対処する」と述べた。トラス氏は2010年に下院議員に初当選、ジョンソン政権では国際貿易担当相に続き外相を務めている。
新行)ここまでのイギリス党首選について、どうご覧になりますか?
奧山)スナクさんは前財務大臣であり、首相に次ぐ重要なポジションにインド系の方が就いたということで、「第二のバラク・オバマさんになるのではないか」と言われていました。
5割以上の国民がトラス氏に否定的 ~不人気で始まり、次の総選挙で戦えるのか
奥山)しかし、前首相であるボリス・ジョンソンさんに「後足で砂をかけて裏切った」と、保守党のなかで人気が落ちてしまい、結果として、ロシアに対して厳しい態度を取っているリズ・トラスさんが保守党のなかでは当選したということです。しかし、まだ国民全体の信任を得ていないことがキーポイントになるのではないかと思います。
新行)国民の信任を得られるかどうか。
奥山)実はトラスさんは、あまりイギリス国民のなかで人気がないのです。いろいろな市場調査でも、5割以上の方がトラスさんが首相になることに否定的な意見を持っています。国民のなかで彼女を「いい」と言っているのは2割くらいしかいないのです。最初からこれほど不人気な状態で始まって、次の総選挙で戦えるのかということが焦点になると思います。
トラス氏は「能力的に大丈夫なのか」と懐疑的に思われている ~以前から失言が多い
新行)イギリス国民はトラスさんに対して、どのような懸念を抱いているのでしょうか?
奧山)やはり財政です。日本ではあり得ない状況なのですが、「減税する」と言っています。「財政的に大丈夫なのか」というのが1つの懸念です。
新行)財政が。
奥山)もう1つの懸念は、彼女自身がいろいろなところで失言していることです。法律関係の大臣を務めていた時期があるのですが、そのときも法律を知らないような発言をしているのです。そんなことから「彼女は能力的に大丈夫なのか」と言われています。
ウクライナへの支援は続く ~ジョンソン前首相の路線を引き継ぐトラス首相
新行)トラスさんはロシアに対して強硬姿勢のようですが、ウクライナへの支援はどうなるのでしょうか?
奧山)彼女はボリス・ジョンソンさんを最後まで支えた閣僚の1人なので、ジョンソンさんの路線を引き継ぐことは確実視されています。ウクライナへの支援は続くと思います。ジョンソンさんも「彼女になって正解だ。ウクライナにとってもいい」という発言をしています。
中国にも厳しい姿勢のトラス氏 ~日本とはいい関係が望める
新行)日本とはどういうお付き合いになるのでしょうか?
奧山)彼女はインド太平洋の方にも積極的な姿勢を示しています。中国に対しても厳しい発言をしています。そういう意味では、戦略的には仲よくできる有望な人なのではないかと思います。
ロシアを頼りすぎている日本のエネルギー政策
新行)最近の日本とイギリスは安全保障面でも結びつきが深まっている印象がありますし、イギリスの原子炉開発に日本が参加するというニュースもあります。一方で、サハリン2にはイギリスのシェルが参加しない、新たな運営会社に出資しない方針を明らかにしました。この辺りについてはどうご覧になりますか?
奧山)日本のエネルギー政策については、基本的に経産省だと思いますが、「大失敗しているな」という印象です。サハリン1・2がありますが、両方とも、ロシア側は形としては実行していませんが、国有化するということです。
新行)サハリン1・2について。
奥山)日本の場合、安いエネルギーはロシアに頼らざるを得ない状況になっています。中東から持ってくるという手はあるのですが、いまは代替案がありません。経産省はまだロシア1本でいくと言っていますので、岸田さんもその路線で続ける姿勢です。
ロシアに善意を期待していいのか
奥山)しかし、ロシアにあまりにも善意を期待しすぎているのではないかと思います。終戦間際にはソ連に仲介を期待したものの、日本側が侵略されたという苦い経験があるので、それをまた繰り返してしまうのではないかと心配しています。
新行)イギリスもそうですが、各国から「日本はどうなのか」と思われるのではないでしょうか?
奧山)イメージ的にも悪いですし、日本は経産省も含めて、燃料がこれから高騰するということを1つの事実として受け止めなければいけないと思います。
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