追い詰められるロシア 総動員しないのは戦場に送る武器と食料がないから…【報道1930】

アルメニアの首相「ウクライナとの戦争において我々はロシアの同盟国ではない」 国際

追い詰められるロシア 総動員しないのは戦場に送る武器と食料がないから…【報道1930】(TBS NEWS DIG 報道1930 2023年6月10日(土) 07:30)

「ロシア軍の兵器の配備状況は本来配備すべき数の50~60%程度だ」

ロシアが総動員をかけたら兵士の数では圧倒的になる…これまではそうみられてきた。そしてロシアが総動員を躊躇している理由は、前回の部分動員でのロシア国内での動揺と反発が大きかったことが原因と言われてきた。だが、それだけではないようだ。番組がインタビューしたゼレンスキー大統領の“最側近”のひとりは『ロシアが総動員しないのは兵士を増やしても武器がないからだ』と語る。特に戦車不足は深刻だという…。

元ウクライナ大統領府長官顧問 アレストビッチ氏

「侵略が始まったときロシア軍は3400両の戦車を投入した。だが今、我々が破壊したり戦利品にした戦車の数はそれよりも多い。ロシア軍の兵器の配備状況は本来配備すべき数の50~60%程度だ。つまり本来は31両の戦車を有する戦車旅団に12~15両の戦車しかない。こちらが戦車を標的にしているので戦車が不足しているのだ」

ロシアの戦車被害は3848両とされる。もちろん被害は戦車だけではない。

▼ロシア軍の被害(6月5日まで)
兵の死傷者数…21万350人
装甲戦闘車…7523台
燃料タンク車両…6312台
大砲システム…3567基

あくまでもウクライナ参謀本部発表の数字だが、尋常な数ではない。

朝日新聞 駒木明義 論説委員

「(ロシアの兵器製造)能力がかなり衰えているのは確かなようです。戦車にしても月に1台しか生産できないとか…。半導体が手に入らないから、そういう状況に陥ってる…」

英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)日本特別代表 秋元千明氏

「イギリス国防省の発表を聞いても、動員して人を集めてもそこに十分に行き渡らせるだけの武器が無いと。自動小銃にしても古い錆びついたようなものを渡すしかなくなりつつある。動員だけしても戦争はできない。武器が無ければ…。ミサイルの生産能力もかなり落ちていて、私が聞いたところでは巡航ミサイル『Kh‐101』ってやつは月産29発。船から発射する『カリブル』っていう巡航ミサイル、これが月に15発しか生産できない。実際にロシアが発射したミサイルの部品を拾って見てみると登録ナンバーがあっていつ作ったやつかわかるんですが、基本的に直近に作ったやつをすぐに使ってる。大規模な兵器に関してはかなり生産能力が落ちている」

「アメリカ軍は、コンパクトレーションが充実しているから強い」

ロシアが動員をかけられない、兵士を増やせない理由として、兵器の不足以外にアレストビッチ氏は意外な点を指摘した。

元ウクライナ大統領府長官顧問 アレストビッチ氏

「ロシアの中国への要請の中に“30万人分の食料(軍用食料キット)”という項目があった。これは兵士のための食料すらないということ。兵士のための食料はスーパーでは買えない。軍人専用のものが必要だ。ロシアは2024年2月までに大規模な作戦を行う能力を失うと思う」

食料については兵站の補給路の問題は語られてきたが、兵士の食べるものが足りないことなどこれまで話題に上がることはなかった。だが、戦争が長引く中で確かに最重要課題かもしれない。

国際情報誌『フォーサイト』元編集長 堤伸輔氏

「例えば戦車が無い、あるいは銃が無い…、これは確かに戦力に関わるわけですが…。食料というのは、兵士という名の武器を動かす燃料なわけです。戦場でコンパクトレーションというんですけれど兵士用の食料というのは最も重要。アメリカ軍なんかは、コンパクトレーションが充実してるから強いといわれる。例えば、保存性が高くなければいけない、カロリーが高くなければいけない。必ずチョコレートなんかも入ってる。国によっては嗜好品も届けていて、例えばイタリアなんかはワインが入ってる。暑い時期でもすぐには悪くならない、それで美味しい…。なのでロシアが食品製造業を転換してコンパクトレーションを作らせようとしても簡単にはできない」

アレストビッチ氏は2024年2月にロシアが大規模作戦能力を失うと期限を明言したが、その意味は…

朝日新聞 駒木明義 論説委員

「”2月までに”っていうのは政治的な発言だと思います。2024年3月にロシアの大統領選があるので、“そこまで持たないよ”って言いたい気持ちが伺えました…」

「49か国に対し、初めての全面取材禁止」

5月25日にモスクワで旧ソ連構成国が集まって開かれた「ユーラシア経済同盟首脳会議」。そこでプーチン氏の言葉を遮り、アルメニアとアゼルバイジャンが領土を巡り罵り合った。かつてロシアでは考えれられない光景だった。プーチン氏の威光の揺らぎはこれだけではない。アルメニアの首相は6月2日にチェコのテレビ局のインタビューに「ウクライナとの戦争において我々はロシアの同盟国ではない」と明言するほどだ。さらにプーチン氏を尻目に、アルメニアとアゼルバイジャンの中を取り持つ役目として西側が動き、ゼレンスキー大統領はアゼルバイジャンの大統領と首脳会談を行う…。このところプーチン氏の株が下がってきているように見えるのだ。

ロシアの弱体化…さらに最近こんなことも…。

毎年年1回開かれる『サンクトペテルブルク国際経済フォーラム』。これは1997年から開催され、ロシア版ダボス会議ともいうべきもので、ロシアの友好国や経済的結びつきが強い国が参加してきた。2018年には当時の安倍総理も参加している。そしてウクライナ侵攻後も取材は自由だった。去年は西側メディアもいる前で「西側の制裁は失敗だ」とプーチン氏は胸を張った。ところが、今年は非友好国のメディアに取材許可は出さないとした。対ロ制裁を科している欧米、日本など49か国に対し、初めての全面取材禁止だ。

朝日新聞 駒木明義 論説委員

「これ非常にバタバタなんです。私も取材記者登録したんですが、1回は許可が出たんです。で、わずか1日後に”やっぱり駄目です”って。最初私個人が出入り禁止なんだと思ったんですけど、すぐ報道が出て、ペスコフ大統領報道官が、今回はそういう決定をしたと…。経緯から見ても非常に切羽詰まって対応した。反転攻勢は切迫する中、会期と重なってしまう。そんな時に欧米の記者をいてるのはまずいと…」

アレストビッチ氏が言うように来年2月に戦争の行方がウクライナに傾いていたとすればプーチン氏の大統領再選はかなり厳しくなる。今回の措置は、兵器や食料の足りなさだけでなくプーチン氏の精神にも余裕がなくなっていることの証左なのかもしれない。

(BS-TBS 『報道1930』 6月5日放送より)