ついに来た「小鳥ブーム」…人気の訳は意外すぎる「人」との共通点

ついに来た「小鳥ブーム」 社会

ついに来た「小鳥ブーム」…人気の訳は意外すぎる「人」との共通点(FRIDAY 2022年08月13日)

「小鳥」関連の単語が頻繁にSNSでトレンド入り…


「#小鳥のやんちゃなあんよが見たい」「#セキセイインコ」「#小鳥さん」などなど……。このところ、小鳥関連のハッシュタグが頻繁にSNSでトレンド入りを果たしている。

先の2つは、小鳥を飼う人々が可愛い画像をハッシュタグ付きでSNSに投稿し、それらがたくさんリツイートされたものだ。

一方、「#小鳥さん」はというと、永野芽郁主演のTBS火曜ドラマ『ユニコーンに乗って』(TBS系)で西島秀俊扮する「小鳥さん」と、林遣都×仲野太賀のW主演・坂元裕二脚本の『初恋の悪魔』(日本テレビ系)で柄本佑扮する「小鳥さん」が、珍しい姓にもかかわらずかぶったことと、可愛い小鳥の画像を「#小鳥さん」とハッシュタグ付きで挙げる人とが混在してのトレンド入りという珍現象である。

そういえば、「『衝動買い』で飼育放棄も……ペットブームで“小鳥”も人気」といった特集が『news every.』(2021年4月20日)で取り上げられたこともあった。

気軽に飼って後悔する人も…


コロナ禍でペットを飼う人が増えている中、小鳥の人気が高まっていると聞くが、その一方で問題視されるのは、小鳥がデリケートな生きものだと知らずに、気軽に飼ってしまう人が多いこと。

こうした小鳥ブームの裏にある問題点について、『長生きする鳥の育てかた:愛鳥と末永く幸せに暮らす方法、教えます』(誠文堂新光社)や、新刊『オカメインコとともに』(グラフィック社)等の著書を持つ、作家でサイエンスライターの細川博昭氏に聞いた。

「小鳥を飼う人自体はそれほど増えているわけではないと思いますが、小鳥などの画像をSNSなどにあげる人が増えていることは事実です。可愛い姿を簡単に撮れて、それをSNSにアップすると、評価してもらえますから。

ただ、小鳥の場合、犬や猫に比べて、数千円~数万円と単価が安いので、子供にせがまれて親が簡単に与えてしまうケースが多いんですよね。でも、実は手がかかるので、後になって、『こんなに大変だと思わなかった』と逃してしまったり、十分な世話をしないで死なせてしまったりすることはあると思います。

それに、コロナ禍で新たに飼い始めた人は、小鳥とずっと暮らしていた人たちに比べて知識量が少ないので、小鳥を不幸な目にあわせてしまっている人も多い印象です」

実は自分も小学生の頃、実家で30羽以上のインコを飼っていたが、知識は希薄で、昨年文鳥をお迎えしてからは、日々温度管理、体調管理などに気を揉んで、育児のような気分を味わっている。

「多くの人は、小鳥と付き合っていくのがこんなに面倒くさいということを理解されていないと思います。

例えば温度管理ひとつとっても、日本で飼育されている小鳥は100種類近くいて、もともとの生態や住んでいる環境が違うので、適切な温度がそれぞれ違います。32~33℃くらいでも問題なく暮らしている鳥もいれば、暑いのが苦手で、30℃以下でも冷房をつけてあげないといけない鳥もいます。

特に暑い時期は、人間が在宅中には冷房をつけていても、家を出るときに切ってしまい、小鳥が熱中症になって病院に行くようなケースが結構あるんですよ」

本来は小鳥を販売する店では、購入前に必要な情報を客にきちんとレクチャーすることが国に義務付けられているというが、実際にきちんと行っているペットショップは案外少ないかもしれない。

単独で飼うこと自体が虐待になるとして禁止されている国も…

では、飼う前に最低限知っておくべきこととは。

「まずその鳥がどんな環境で暮らしてきた種類なのか、適切な温度や環境、食べ物などを理解すること。鳥にも繊細な心があるので、理解して付き合ってあげないと、健康に長生きさせることは難しいです」

「繊細な心」のケアとして、細川氏は著書の中でも複数飼いを勧めているが、なぜなのか。

「日本で販売されている鳥は、だいたい群れをつくる種類の鳥なので、仲間がいることで安心します。特にひなのうちは自分の体温コントロールができないので、あったかい相手とくっついていることで保温になるのです。

実はヨーロッパなどでは、複数でないと売ってはいけないという法律ができつつあるくらいなんですよ。単独で飼うこと自体が虐待になるとして、単独での販売を禁止する方向に動いています。

『複数飼いすると、人間になつかない』という人もいますが、それは鳥にとってはよくないやりかたで、いうなれば誘拐犯のようなやり方です。確かに単独飼いはなつきますが、それは自分以外に頼れる相手がいないから。その状態が鳥にとって幸せかは全然違う問題です」

実際に複数飼いしてみると、同じ鳥でこうも違うのかと驚かされるほど、好きな食べ物も、体力も、得意な遊びも、性格も違う。相性の良し悪しもかなりあるが……。

「小鳥の種類にもよりますが、例えば文鳥の場合、ケンカも生活の一部ですから。ケンカはしても、見える範囲に同種がいることは安心感につながります。インコやオウムの場合も、見える場所に同種がいると安心します。異種でも同様です」

また、ひなの頃から飼う場合、人間が親代わりとなり、口の中にシリンジやスプーンで3時間おき、4時間おきなど、頻繁に挿し餌をしてあげる必要がある。今はテレワークも増えているとはいえ、外出時間が長い人は、ひなから飼うのは難しそうだ。

「家族が家にいる方は良いですが、一人暮らしの場合はなかなか難しいかと思います。手のかかる小鳥がいることを職場に話して、お昼の時間にも挿し餌をするからと言って、お昼に家に帰る人、職場に連れて行く人もいるくらいです」

「オカメインコ(シナモン)」インコと名がついているが、最小のオウム。臆病でパニックになりやすい鳥も多く、メンタルサポートが不可欠(撮影:細川博昭)
他に注意したいのは、小鳥をうっかり逃がしてしまう人が多いこと。

「ちゃんと窓を閉めたか確認せずにケージから出してしまう人、馴れていると思い込んで逃がしてしまう人がたくさんいます。

多いのは、肩の上でまったりしているから大丈夫だろうと、ベランダに出て洗濯物を干していたら、カラスが飛ぶのを見て、驚いて逃げてしまったようなケース。これは完全に馴れているという思い込みと油断なんですよ。あとは、家族がうっかり窓を開けてしまっていたなども多いですね」

他に、「健康で長生きできる体を作るために、ひなのうちに1口でも多く食べさせること」「スキンシップをすることで、小鳥の心の成長につながること」「体内にビタミンDを作るために、日光浴をさせること」「毎日、室内で放鳥させてあげること」「水浴びさせること」など、鳥を飼う上で大切なことはたくさんある。逆に、「アボカドや玉ねぎ、ネギなどを食べさせないこと」「フッ素加工のフライパンを空焚きしないこと」「ビーズやスクラッチの削りカスなど、小さなモノを誤飲させないこと」などの注意点もたくさんある。

また、小鳥を飼う人の多くが悩むのは、小鳥がケージに戻りたがらないことだ。

「鳥がケージに戻るのを嫌がるので、放鳥しっぱなしのような方もいますが、事故につながるので注意が必要です。

料理中は絶対にケージから出さないこと。小さな子どもが握りつぶして殺してしまうようなことや、足元にまとわりついていて、踏んでしまうことなどもあります。犬や猫と一緒に飼っている方もいますが、ふとしたときに爪などがあたって大怪我になることもあります。

それに、ずっとケージから出ているのは困った状況なんですよ。病気になって安静が必要なときはケージにいてもらうのが基本ですが、ケージがストレスになる子だと、命に関わる状況でも、安静を維持したり、病院に連れていって入院させることもできなくなってしまうからです。メリハリをつけて放鳥することが大切です」

人間が思っている以上に高度な脳を持っている!?

非常にデリケートで飼育上の注意点が多い小鳥。その実、飼ってみると、こんなにも小さく可愛く賢い生きものはないのではないかと思う。改めて小鳥の魅力とは?と尋ねると、細川氏はこう力説してくれた。

「多くの方が哺乳類のほうが人間に近いと思いこんでいますよね。でも、鳥のほうが犬や猫より人間に近いところはたくさんあるんです。

例えば、哺乳類は基本的に美にあまり価値を置かず、結婚相手も、健康でしっかり子どもが産めることを第一条件に選びますが、鳥は美を重要視します。鳥の場合、声や姿が美しいのはオスですが、そうした姿は自然の中では目立ち、狙われやすくなって、本来は命を落としやすいにもかかわらず、元気に生きているということは、知的にも体力的にも非常に能力が高いとメスが判断する傾向があるんです。

カッコよさや美しさに惹かれるのは、鳥と人間で共通するところです。それに、好奇心が強く、いろんなものに関心を持ち、いろんなことをして失敗するところも人間と同じ。

しかも、鳥の脳は人間などとは根本的に構造が違っていて、実は鳥の脳の方が高機能なんです。哺乳類の数十分の1の大きさの脳でも、同等の処理ができちゃうんですよ。道具を作ったり使える種は鳥類の方が多いんです。犬猫よりも気持ちや希望を伝えることが上手なものも多くいます。人間が思っている以上に高度な脳を持っているので、共感し、理解し合える、最高のパートナーなんです」

細川博昭 作家。サイエンスライター。

鳥を中心に、歴史と科学の両面から人間と動物の関係をルポルタージュするほか、先端の科学・技術を紹介する記事も執筆。日本鳥学会、ヒトと動物の関係学会、ほか所属。

おもな著作に、『鳥と人、交わりの文化誌』『鳥を識る』(春秋社)、『オカメインコとともに』(グラフィック社)、『長生きする鳥の育てかた』『鳥が好きすぎて、すみません』『うちの鳥の老いじたく』『老鳥との暮らしかた』(誠文堂新光社)、『マンガでわかるインコの気持ち』『知っているようで知らない鳥の話』(SBクリエイティブ)、『大江戸飼い鳥草紙』(吉川弘文館)、『インコのひみつ』『身近な鳥のすごい辞典』(イースト・プレス)などがある。