安倍元首相の国葬「メディアは明確に反対を」 日本ジャーナリスト会議が声明
安倍元首相の国葬「メディアは明確に反対を」 日本ジャーナリスト会議(JCJ)が声明(東京新聞 2022年8月11日 19時01分)
記者や市民、学識者らでつくる日本ジャーナリスト会議(JCJ)は8日、「戦前の遺物『国葬』にメディアは明確に反対を」と題した声明文を発表した。
声明文は岸田文雄首相が安倍晋三元首相の国葬を閣議決定したことに批判が強まっていると指摘し、「国葬は天皇主権の明治憲法体制の遺物であり、国民主権・民主主義とは相いれないとの立場を報道機関は明確にし、伝えるべきだ」と各メディアに要望している。
政府の対応を巡っては「経費を全額国費から支出することに法的根拠はない」「政府は内閣府設置法で内閣府の所掌事務とされる『国の儀式』として閣議決定すれば可能とするが、『国の儀式』に国葬が含まれるという法的根拠はない」と批判している。
その上で「最大の問題は国民に特定の個人に対する弔意を事実上強制することにある」とし「国葬強行は戦前回帰、異論封殺、国民総動員につながりかねないという危機感を持って、報道機関は取材に当たってほしい」と呼びかけている。
JCJ声明「戦前の遺物「国葬」にメディアは明確に反対を」
JCJ声明
戦前の遺物「国葬」にメディアは明確に反対を
安倍晋三元首相が銃撃を受け死去した。これに対し岸田文雄首相が「国葬」を
実施すると閣議決定したことに、批判が強まっている。だが主要メディアの「国
葬」に対する姿勢はあいまいだ。「国葬」は天皇主権の明治憲法体制の遺物であ
り、国民主権・民主主義とは相いれないという立場を、報道機関は明確にし、人々
に伝えるべきではないか。「国葬」とは何か歴史を踏まえて検証し、国民の「知
る権利」に応え、「国葬」を実施するなと主張することを強く望みたい。
「国葬」は、明治憲法下において天皇の勅令「国葬令」に基づき実施されてき
た。敗戦後、日本国憲法成立に伴い、「日本国憲法施行の際現に効力を有する命
令の規定の効力等に関する法律」第1条により 1947 年に失効した。日本国憲法
の思想信条の自由、内心の自由、政教分離の原則と相いれないからだ。
現在、国葬を行うことにも、その経費を全額国費から支出することにも法的根
拠はない。政府は内閣府設置法で内閣府の所掌事務とされている「国の儀式」と
して閣議決定すれば可能とするが、「国の儀式」に「国葬」が含まれるという法
的根拠はない。
1967 年 10 月に吉田茂元首相の国葬が行われた。この時も当時の佐藤栄作首相
が閣議決定だけで実施した。翌年の衆議院決算委員会で根拠法がないことにつ
いて質疑があった。その後議論が深まることはなく、「国葬」ではない合同葬や
「国民葬」が行われてきた。それが今なぜ唐突に「国葬」なのか。
今回の「国葬」に対する主要メディアの批判は、国会で説明していないこと、
故人の業績への評価が分かれていることなどに重点を置いている。安倍元首相
と旧統一協会との深いつながりが明らかにされてきた今、それらも重要な問題
として追及しなければならないのは当然である。
しかし何よりも、「国葬」の最大の問題は、国民に対して特定の個人に対する
弔意を事実上強制することにある。国費で行うため、国民は税負担も強制される
ことになる。「弔意を強制することはない」と政府は言う。しかし、吉田元首相
の国葬では、全国でサイレンが鳴らされ、娯楽番組の放送が中止された。
近年でも「日の丸・君が代」を法制化した際、国民には強制しないと政府が説
明したにもかかわらず、学校現場などで強制された例は数多い。教員らの処分が
横行した。それと同様に、「国葬」への抗議行動が監視や取り締まりの対象にな
る恐れがないと言えるだろうか。また今後、「国葬」に類する政治的行事が乱発
される危険はないだろうか。
「国葬」強行は、戦前回帰、異論封殺、国民総動員につながりかねないという
危機感を持って、報道機関は取材に当たってほしい。戦後ジャーナリズムの原点
に立ち返って「国葬」にきっぱり反対の論陣を張ることを呼びかける。
以上
2022 年8 月8 日
日本ジャーナリスト会議(JCJ)