【後編】実は空洞だらけの地下構造…東京の下水が破裂した時に起こる大惨事

道路冠水 社会

東京の下水が危ない(後編)
実は空洞だらけの地下構造…東京の下水が破裂した時に起こる大惨事 東京の下水が危ない(後編)(週刊現代 2022.08.05)

東京の下水が危ない(前編)

文明の象徴である水道設備。東京23区の下水道整備率は世界に誇る100%。しかし台風に見舞われれば、下水管の中を猛烈な速度で水が奔り、都市は破壊される。下水道に潜む災害の影とは……。『激甚化する夏の大雨…荒川大決壊で起こる「首都水没」の悪夢 東京の下水が危ない(前編)』に引き続き紹介する。

23区には「10000個」の「空洞」がある

東京都内の地下空間には、各種ケーブル、道路や地下鉄網などが入り組んでいる。こうした複雑な網の目を縫って水道管が通っているのだが、外からは見えない管のメンテナンスは容易ではない。

近年、下水管の中には温水や洗剤、各種調味料などが流され、硫化水素が発生しやすい状態になっている。

地震が頻発する日本では、硫化水素により劣化した下水道が破損、地下に空洞ができ、時に道路陥没を引き起こす。

東京大学などの研究調査によれば、23区内の空洞の総数は1万ヵ所に及ぶと推測され、そのうち陥没危険性の高い空洞は約15%に上る。正直、都内ではどこの道路が陥没してもおかしくない状況なのだ。

脆弱な地下の構造と、地下街の無秩序な膨張、利便性を優先した開発。そこに地球温暖化による自然災害の激甚化が重なれば、下水道が爆発し、地面に穴があく事態は避けられそうもない。

「これまでは大丈夫だった」という認識では、重大な事態に直面することになっても何もできないのは明らかだ。

アスファルトで固められた東京の地形は、起伏が多い。下水に入りきれない雨水は、坂の上から下に向けて一気に流れ下っていく。たとえば、六本木や国会議事堂付近といった坂の上からは、かつて”ため池”だった窪地の溜池山王に向かって雨水がなだれこむ。

専門家が口を揃える「渋谷」の危険性

同じように、専門家の多くが口を揃えて窪地としての危険性を指摘するのが、現在、地下深くへと開発が進む渋谷である。

「現在のハザードマップでもスクランブル交差点は1m以上水が溜まるとされている。ゲリラ豪雨などが襲えば、暗渠化した渋谷川だけでその水を流せるわけもなく、水の行く先は地下しかありません。東急線も地下鉄も水没することを心配しています」(リバーフロント研究所技術審議役の土屋信行氏)

再開発された地下には4000トンを溜めることができる雨水貯留施設が建設されているが、ここも1時間50~75ミリを想定しての設計で、はなはだ心もとない。

渋谷から程近いオシャレな街、中目黒周辺も要注意ポイントだ。代官山から坂下の中目黒に向かって雨水が下っていく上、桜の名所でもある目黒川沿いと駅周辺には飲食店が立ち並ぶ。

「下水道」も「人間の血管」と同じ

また、目黒川には河川の下をくぐる「伏越」という方式の下水管が通じているのだが、これは通常の下水管以上に詰まりやすいことで知られている。

「下水管にはゴミや野菜くずの混じった排水、汚水が流れ、泥や砂も混入しています。特に油分の多い排水は粘性が高く、下水管を詰まらせる原因になります。

下水管も人間の血管と同じなのです。ですから下水道の上流側に、油を垂れ流すような飲食店などが複数あると、そこにある下水管内部は相当ひどいことになっていることが容易に想像できるでしょう。

かつての下水道は分流式という雨水と汚水を分けて流す形式が多かったのですが、昨今はメンテナンスなどの問題から下水雨水両方が流れ込む合流式が主流になっています。合流式だと、取り込む水の量が増え、しかも逆流したとき、トイレットペーパーの残留物などが同時に吹き上がってきます。雨水だけが逆流するのとは訳が違い、浸水後の消毒も大変です」(『防災新聞』執筆者である栗栖成之氏)

江戸時代までの東京は「水の都」と呼ばれるほど、小さな川がそこかしこに流れていた。しかし、前回東京五輪前の’60年代に続々と暗渠化され、その多くは下水道に転用された。

暗渠になったといっても水の流れが消えたわけではない。私たちの目に見えなくなっただけで、地下には蛇のようにうねる水流が存在している。これが大雨になったときに、「水爆発」となって牙をむくのである。河川工学を専門とする早稲田大学理工学術院教授の関根正人氏が言う。

「暗渠化された川の地上部分は、遊歩道になっていることが多い。しかし、元々は川だったわけですから、周囲からそこに水が流れ込んでくる地形であることには変わりありません。たとえば中野駅南口から程近い桃園川緑道などがその典型です」

「下水道もどき」にもご用心

誰でも知っている大河川ではなく、地元の人だけが知っているような”下水道もどき”の川をナメてはいけない。

令和になっての集中豪雨では鷺宮(中野区)や上目黒(目黒区)で内水氾濫による住宅浸水が発生したが、その原因となった流域河川は江古田川、石神井川、白子川、立会川だった。また、善福寺川を擁する杉並区では、阿佐ケ谷駅のすぐ近くで冠水が起こったことが報告されている。

内水氾濫が起こったとき、命の危険にも関わるのが、環状線などのアンダーパスやトンネルといった道路上の窪地だ。

「現在、日本橋川上の首都高速が地下化工事をしていますが、高速道路を地下に持っていくなど、大災害のリスクを増やしているとしか言えません。今後、利便性を優先するのではなく、大雨洪水警報、線状降水帯予測などが出たら道路は即シャットアウトするとはっきり定めておくべきです」(前出・土屋氏)

破局的災害というと、どうしても地震を連想しがちだ。台風のニュースで「避難してください」と言われても、夏の風物詩とばかりに、たかをくくっている人が多い。だがもはや悠長に構えている余裕はどこにもない。

長期予報によれば、今年の台風は、9月になると本州へ向かうルートをとることが多くなるという。首都直撃に備え、せめて自宅周辺は何mまで水位が上がるのか、水害ハザードマップに一度は目を通しておいても損はない。

「週刊現代」2022年8月6日号より