「ベーシックインカム」はいつ導入される? 制度の解説から各国導入事例まで

「ベーシックインカム」はいつ導入される? 制度の解説から各国導入事例まで 政治・経済

「ベーシックインカム」はいつ導入される? 制度の解説から各国導入事例まで(Oggi.jp 2022.06.13)

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「ベーシックインカム」とは、すべての国民に対して無条件で、生活に必要な現金を生涯給付し続ける制度のこと。英語表記「Basic Income」の頭文字をとって、「BI」と表記されることも。今回は、詳しい制度の内容から、各国における導入事例まで、わかりやすく解説します。

そもそも「ベーシックインカム」とは?

「ベーシックインカム」という言葉を聞いたことがありますか? 新型コロナウイルスのパンデミックを機に、耳にすることが増えたかもしれません。なぜ、今「ベーシックインカム」が注目されているのでしょうか? まずは、制度の内容を確認しましょう。

制度内容

「ベーシックインカム」とは、すべての国民に対して無条件で、生活に必要な現金を、生涯給付し続ける制度のこと。英語表記「Basic Income」の頭文字をとって、「BI」と表記されることも。なお、現在世界で「ベーシックインカム」の制度を導入している国はありません。

生活保護との違い

「ベーシックインカム」の説明を聞いて、生活保護と何が違うの?と疑問に思った人もいるかもしれません。生活保護は、生活に困窮している人が対象で、自ら申請し、審査を経て必要と判断された場合のみ支給される制度。つまり、「ベーシックインカム」とは「すべての国民」「無条件」「生涯」という点が異なります。

新型コロナウイルスによる特別定額給付金

実は、わたしたち日本国民は、一時的かつ部分的な「ベーシックインカム」を経験したことがあります。2020年に給付された「特別定額給付金」を覚えていますか?

これは、新型コロナウイルスによる生活困窮者の増加、経済の低迷などを受け、国民が一致団結してパンデミックに立ち向かうための家計支援を目的として実施されたもの。全国民が、年齢や収入などの条件なく、一律10万円の支給を受けました。

メリットとデメリット

全国民が無条件に一定額を支給される「ベーシックインカム」。一見素晴らしい制度のように見えますが、なぜ日本を含め、「ベーシックインカム」を導入している国が存在しないのでしょうか? 具体的なメリットとデメリットについて、確認していきましょう。

メリット

「ベーシックインカム」には多くのメリットがあると考えられています。1つ目のメリットは、貧困の解消。労働量に関係なく、定期的に一定額の現金支給があることで、経済的な余裕が生まれます。

経済的な余裕からもたらされる2つ目のメリットが、心の余裕。「ベーシックインカム」のメリットを語る場面においては、心の余裕が生まれることで、人はより自由かつ意欲的になると考えられています。職業の選択、婚姻の選択はもちろん、起業等、リスクを過剰に恐れず新たなことにチャレンジできるようになります。

3つ目のメリットは、少子化対策。年齢に関係なくすべての国民に支給されるため、子供を産み育てることの経済的負担が軽減し、将来的に少子化対策につながると考えられています。

4つ目のメリットは、経費削減。「ベーシックインカム」という制度は、現行の生活保護制度と違い、申請や審査という煩雑な作業が必要なく、無条件に一定金額を支給するといういたってシンプルな制度。そのため、申請や審査に費やしていた無駄な業務や、それに伴う人件費を削減することができます。

デメリット

「ベーシックインカム」には多くのメリットがある一方で、解決しづらい難しい課題も。1つ目が、財源の確保。全国民に一定金額を支給し続けるためには、莫大な資金が必要です。一人10万円支給された新型コロナの「特別定額給付金」にかかった事業費は約13兆円。年間で計算すると156兆円が必要になります。

財源の確保のために想定される2つ目のデメリットが、増税です。消費税をはじめとした様々な税金を始め、あらゆる場面で支出が増えることも想定されます。

3つ目のデメリットは、年金等これまでの社会保障が受けられなくなる可能性。「ベーシックインカム」を導入することは、これまでの社会保障制度を廃止することを前提としている場合が多いです。そのため、これまで年金を支払ってきたにもかかわらず、受給できなくなる恐れがあります。

4つ目のデメリットが、勤労意欲の減退。「ベーシックインカム」のデメリットを語る場面においては、労働量に関係なく一定額が支給されることで、労働に対する意欲がなくなると考えられています。労働者不足を引き起こし、経済が停滞する可能性が。

各国で導入された結果は?

様々なメリット、デメリットを踏まえつつ、近年各国では実験的に「ベーシックインカム」を導入しています。どのような内容で実施し、どのような結果となったのでしょう。直近のアメリカ、カナダ、フィンランドの事例について見ていきましょう。

アメリカ

2019年、カリフォルニア州ストックトン市は、125人に対して毎月500ドルを2年間支給。生活が安定し、フルタイム雇用の増加、健康面や精神面での改善など、いい効果が発表されました。この結果を受け、オークランド市やロサンゼルス市なども「ベーシックインカム」の実験的な導入を進めています。

カナダ

オンタリオ州では2017年から3年間の計画で、世界最大規模の「ベーシックインカム」が実験的に導入されました。約4000人が年間最大約150万円(カップルの場合は約200万円)を支給されました。しかし、新政権を機に「費用がかかりすぎている」と実験は打ち切りに。結果も公表されていません。

フィンランド

2017年から2年間、2000人に対して毎月約6万円を支給。生活への満足度の向上、精神的なストレスの減少、ボランティア活動への参加など、主に精神的な面でいい効果が見られました。一方で、就労日数は大きく伸びず、雇用に対する効果は限定的だったそう。

日本でも議論が活発化?

今世界で実験導入や議論が進んでいる「ベーシックインカム」。日本でも議論が活発化しています。国民民主党は、給付と税還付を組み合わせた独自の「日本型ベーシックインカム」という仕組みを提案しており、「ベーシックインカム」の実験的導入にも意欲を示しています。

また、日本維新の会は、コロナショックにより現在の日本のセーフティネットの脆弱さと不公平さがあらわになったとし、「日本大改革プラン」において、「ベーシックインカム」の導入を盛り込んでいます。

最後に

さまざまなメリットとデメリットを持ち合わせる「ベーシックインカム」。新型コロナウイルスのパンデミックによって、「ベーシックインカム」に関する議論は世界中で加速しています。生活に直結する制度であることから、今後も目が離せません。