日本は米国でもEV化で敗北する 古賀茂明

中国のEV大手「BYD」の「アットスリー」 政治・経済

日本は米国でもEV化で敗北する 古賀茂明(AERAdot. 2022/10/25 06:00)

電気自動車(EV)のニュースを見ない日がない。それほど世界のEV化の流れは急だ。今年上半期のEV販売では、1位米テスラが1.5倍、2位中国BYDが3.5倍、3位上海汽車と4位フォルクスワーゲンも1.3倍の伸びだ。

驚いたことに、中国や欧州に比べてEV化が遅れる米国でも、EVの販売がトヨタなどが得意とするハイブリッド車(HV)を上回り、その比率は6%に達した。EV化は10%超で急加速すると言われる。米国もその時期が近付いたと見るべきだろう。米国ではEV拡大にはまだ時間がかかると見て、HVでしばらく凌ごうと考えたトヨタやホンダの読みは完全に外れたのだ。ちなみに、BYDはガソリン車も含めた世界の自動車メーカーランキングで14位、テスラは17位。マツダとスバルを追い越した。

米国で今最も注目を浴びるのが韓国の現代自動車だ。ワールドカーオブザイヤーの3冠王に輝いた同社の旗艦EV、IONIQ5は前年比2倍の16.9万台でEV販売世界5位に入ったが、米国では、もう一つの韓国の人気車種、起亜のEV6もバカ売れで、この2車種が各1.3万台売れた。トヨタの主力HVプリウスが1.5万台だから、逆転は間近だ。

後れを取った日本車には、さらに逆風が吹く。カリフォルニア州が2035年にガソリン車販売を禁止するが、その前の26年にEVまたは燃料電池車(FCV)の比率を35%、30年には68%にする規制を導入する。さらにニューヨーク州など多くの州も追随するため、まだEVの大量生産ができないトヨタなどは非常に苦しい。

州の規制だけではなく、連邦政府の補助金政策もEVに追い風、つまり、日本メーカーには逆風だ。EV1台当たり7500ドル(約110万円)の補助金が連邦政府から出るが、州独自の上乗せ補助金もあるので、HVとの価格差がこれで埋められてしまう。

しかも、仮に日本メーカーがEV販売を増やしても、補助対象がNAFTA(北米自由貿易協定、メキシコ・カナダ・アメリカ3か国の協定)域内で最終組み立てが行われることという条件が課されるため、日本車では補助金の対象にならない。

さらに来年からは、EV搭載のバッテリー部品について、米国産または米国との自由貿易協定を結んだ国の製品であることが求められ、その比率は23年50%、29年には100%になる。しかも、日米貿易協定は自由貿易協定とは認められそうにない。日本メーカーにとって本来は不利な条件だ。

韓国政府は、EVに賭けているので、今回の米国の政策について、大問題だとして、米国との間で本気の交渉を行っている。一方、現代自動車は早くから米国内でのEV工場建設を表明。それが稼働すれば、補助金の対象となる。また、韓国の電池メーカーで世界2位のLGエナジーソリューションやSKハイニックスなども米自動車メーカーと組んで大規模電池工場建設に巨額の投資をしている。これらが稼働すれば、補助金の条件を満たし、テスラ追撃を目指すことが可能となる。

日本はと言うと、当面売れるEVがないので補助金は関係なく、全く蚊帳の外状態。

中国、欧州に続き、米国でも日本メーカーがEV化競争で完敗する日が近づいている。

※週刊朝日  2022年11月4日号