ウクライナ人にとって日本はどんな国なのか 縁もゆかりもない「避難民」が続々入国の事情

福岡空港に到着したウクライナ人学生と出迎えた日本経済大の学生たち=15日夜 文化・歴史

ウクライナ人にとって日本はどんな国なのか 縁もゆかりもない「避難民」が続々入国の事情(デイリー新潮 2022年04月16日)

今月5日、ウクライナからポーランドに身を寄せていた20人が、政府専用機で日本に到着した。彼ら「避難民」のうち4人は、日本に親族などがおらず身寄りが無いという。さらに、9日には政府が民間機の座席を借り上げ、6人が入国した。ウクライナからの「避難民」には様々な事情があるだろうが、言語はもちろん文化も大きく違う日本を避難先として選んだのはなぜなのだろうか。

日本は憧れの国

「ウクライナ人の日本に対するイメージは、日本人のウクライナに対するものとは大きく異なります」と言うのは、ウクライナ国営通信「ウクルインフォルム通信」日本語版編集者の平野高志さんである。

「一般論で言えば、ウクライナの人は日本に対して親しみや憧れを持つ人が多く、いつか行ってみたいと思っている人は多いです。一方で、日本からするとウクライナは、いわば影の薄い国だったと思うので、両国の国民がお互いに持つ親密さは結構違うのではないでしょうか」

ウクライナでの日本人気は、アニメや漫画などサブカルチャーによるところが大きいようだ。

「ウクライナでは、数十年前から、テレビで日本のアニメが放送されていたそうです。30~40代くらいの人は、『新世紀エヴァンゲリオン』や『美少女戦士セーラームーン』など、小さい頃に見た日本のアニメの話をされることが多いですし、世代を問わずアニメを通じて日本を好きになった人はたくさんいます。さらに、寿司やラーメンなども人気で日本食レストランが増えており、日本は経済的にも発展した憧れの国でもあります。同じアジアでは、中国も発展した国というイメージがありますが、日本はさらに自由や民主主義というウクライナと同じ価値を共有していると思われており、親近感が中国に対してより大きいです」(同)

一時的な避難

日本の人気は高いが、旅行などで訪れる人は多くないと言う。

「経済的に余裕が無くて旅行が出来ない人も多いでしょうし、発展した国というイメージが強いせいで日本に旅行するにはものすごくお金が掛かると誤解している人も多い。実際にはフランスやドイツに旅行するよりも、飲食代や宿泊費などは安く済ませることも出来るし、飛行機さえ安いチケットを見つければ簡単に行けるんですけどね。だからこそ、ウクライナには、機会があればぜひ日本に行ってみたいと思っている人が多いです」(同)

また、身寄りがなくても、日本へ避難する人がいたという点については、別の理由も推測される。

「重要なことは、彼らが避難民として、あくまで一時的にウクライナを離れたということです。日本に限らず、国外に避難した人のほとんどはロシア軍の攻撃が止めばウクライナに帰るつもりです。実際、先月19日の調査では、避難している人の93%がウクライナに戻りたいと答えています」(同)

ロシアの報道は危険

平野さんは、一方で、日本の人にもウクライナに関心を持ってもらいたいとの思いから、国営通信「ウクルインフォルム」で、日本語版のニュースを発信している。

「大学でウクライナ語を勉強した後、ウクライナに渡り、大学院で研究をしながら日本語学科の学生に教えたりしました。その後、在ウクライナ日本大使館の仕事を経て、現在は、英語やスペイン語、フランス語など、いくつかあるウクライナ国営放送の日本語版で編集者を務めています。戦争が始まった今でも、ウクライナ国内の状況を日本人に向けて伝えています」(同)

平野さんに限らず、戦争が始まってからもウクライナのメディアは報道を続けているそうだ。

「テレビやネットニュースでは、ウクライナのメディアが侵攻を受けた地域の様子などのリポートを続けています。一方で、ロシア側の報道はウクライナで見ることは出来ないようになっており、プロパガンダに惑わされることを防いでいます。2014年のクリミア侵攻以降に、ロシアの偽情報が国内に広まってはいけないということで、ウクライナ政府がロシア側の報道へアクセスすることに制限をかけました。当時は、ロシアのプロパガンダを目にして、クリミア侵攻が正しいことだと信じてしまう人が少なからずいました」(同)

現在、ウクライナ国内ではロシア側の報道にアクセスが出来ないようになっている。

「この政策に対しては、反対意見もあったのですが、現在ロシアが荒唐無稽な主張ばかり繰り返していることから考えると賢明な決断だったと思います。親ロシア派で、そちらの情報を信じるという人も数パーセントはいるものの、多くのウクライナ国民は、ロシア側の報道は危険だと認識しています。今回の侵攻が始まってからも、ロシア側は膨大な偽情報を流していますが、NYタイムズやヒューマン・ライツ・ウォッチなど、国外のメディアや団体が、ロシア側の主張の誤りをすぐに検証して報じています。日本の報道でも、かつてはロシア側の偽情報に基づいた主張が、両論併記のような形でそのまま掲載されることがありました。しかし、今回の侵攻に関しては、誤りの根拠が同時に示されるように改善されてきているように思います」(同)

デイリー新潮編集部