デジタル教育「先進国」ノルウェーの教育相、日本への助言「私たちが犯した過ちを繰り返さないように」 読売新聞オンライン 2026/07/12 05:00
[再考デジタル教育]関連法成立<上>
デジタル教科書を正式な教科書とする関連法が6月、国会で成立した。紙の教科書による教育からの大転換が、教育の質や子どもたちの健康、学力などに大きな影響を与えかねない。文部科学省が新たな教科書の具体像の検討を進めるのにあわせ、教育のデジタル化を検証する。
「デジタルが学校の授業時間を支配すべきではない」
今年1月、ロンドンで開かれた国際的なデジタル教育のイベント。講演会場で聴衆約150人を前にスピーチしたノルウェーのカーリ・ネッサ・ノルトゥン教育相(40)は、教育のデジタル化への不信感をあらわにした。6月には、ヨーナス・ガール・ストーレ首相(65)が記者会見で「生成AI(人工知能)は小学校では原則、使えないようにする」と表明するなど、デジタル教育の先進国として知られるノルウェーで、軌道修正する動きが出ている。
2015年以降、同国の学校ではデジタル端末を使った授業が急増した。その一方で、OECD(経済協力開発機構)のPISA(国際学習到達度調査)では18年から22年にかけ、読解力や数学的応用力、科学的応用力の成績が12~33点下がり、過去最低となった。
6月末に読売新聞の書面インタビューに答えたノルトゥン氏は「我々はデジタル化による学習成果や意欲の低下、いじめや不登校の増加を目の当たりにしている」と危機感を隠さない。
要因の一つにあげるのがデジタル画面を見る「スクリーンタイム」の急増だ。デジタル画面を使った授業を週4時間以上受ける小学7年生は、13年の14・5%から19年には46・4%に増えた。PISAの数学の授業に関するアンケートでは「デジタル機器でよく注意散漫になる」と答えた生徒はOECD平均で30・4%。ノルウェーは31・2%で平均を超えた。
ノルウェーは、過度なデジタル化の修正に向け、小学1~4年でのデジタル機器の利用を「特に慎重にする」方向でカリキュラムを変更した。ストーレ首相は6月の記者会見で「自治体に紙の教科書をより優先すべきだという明確なメッセージを送るつもりだ」と強調した。
〈紙の教科書をベースに必要な時にデジタルを使う。深い思考に紙は有用だ〉
関連法案が閣議決定された4月、東京都千代田区の樋口高顕区長(43)はSNSにこう投稿した。「紙の教科書がなくなってしまう」などと相次ぐ保護者らの不安の声を知ったからだ。樋口区長は「紙にはデジタルで代替できない価値がある。千代田区は紙を中心とすることをはっきりと言うべきだと考えた」と説明する。

区立番町小の4年生のクラスで6月中旬、紙を中心とした国語授業が行われていた。紙の教科書を指さしながらノートに書き写し、考えをまとめた。デジタル端末も配備され、活用されているが、授業を受けた男子児童(9)は「紙の教科書に線を引き、疑問に思ったことや考えたことをノートにメモすると、授業も分かりやすくなる」と話す。
松本文部科学相は小学1~4年での完全デジタルの教科書の使用を認めない考えだが、デジタル教科書の具体的な姿はまだ決まっていない。文科省は今秋にも、「大臣指針」で導入学年や教科書作り、採択の判断基準を示す。
ノルトゥン氏は、日本が進める教育のデジタル化についてこう訴える。「デジタルの機器や教材に過度に重点を置けば、学習上の大きな問題が発生する恐れがある。日本には、私たちが犯した過ちを繰り返さないように、と助言したい」
デジタル教科書、無償配布の対象に
現在のデジタル教科書は、紙の教科書と同じ内容で、学習用端末などで見る「代替教材」の位置づけだ。関連法改正で、検定や無償配布の対象となる。
新たな教科書は「紙のみ」「紙とデジタルのハイブリッド」「完全デジタル」――の3形態となり、次の学習指導要領が始まる2030年度以降、小学校から順次、導入される予定。
今秋の大臣指針を踏まえ、新たな教科書は27年度に教科書会社による制作が本格化する。28年度に国の検定、29年度に教育委員会などによる採択が行われる。

