なぜ蓮舫氏は「惨敗」に学ばないのか…過去の成功体験にすがる「立憲民主党」が縁を切るべき“頼りがいのある味方”

なぜ蓮舫氏は「惨敗」に学ばないのか 政治・経済

なぜ蓮舫氏は「惨敗」に学ばないのか…過去の成功体験にすがる「立憲民主党」が縁を切るべき“頼りがいのある味方”(デイリー新潮 2024年08月04日)

奇妙な主張

今秋か、はたまた来年か――。未だはっきりとしないものの、いずれにせよそう遠くない未来に行われる衆院選。その行く末を占う一つの試金石が、7月7日投開票の東京都知事選だった。自民党の支持率が下がる中で、立憲民主党とその支持者、野党共闘を呼び掛ける人々の期待を一身に集め、立候補したのが蓮舫氏だ。立民からすれば、ここで蓮舫氏を都知事に押し上げ、さらに今年9月に行われる立憲民主党の代表選で期待できそうな代表を選び、蓮舫都政と連携して政権交代を狙う、という作戦だったのだろう。が、彼らの目論見は脆くも崩れ去った。

事前の大方の予想は、「蓮舫氏は小池百合子氏(291万8015票)に次ぐ2位には食い込むだろう」というものだった。しかしその予想は選挙戦が進むにつれ雲行きが怪しくなり、結局蓋を開けてみると、前安芸高田市長の石丸伸二氏(165万8363票)の後塵を拝する3位で128万3262票だった。惨敗ともいえそうだが、7月30日配信のデイリー新潮の以下記事が参考になる。元共産党幹部の筆坂英世氏が、「蓮舫氏は女性差別を受けた」と主張する「赤旗」をはじめとした各種左派メディアの論調に疑問を抱くもの。

〈蓮舫批判は女性差別…「赤旗」の奇妙な主張に、元共産党幹部は「自分たちがはしゃぎ過ぎたせいで負けたことが分かっていない」〉

アベはやめろ!

筆坂氏は特に、自らの古巣・共産党とその機関紙赤旗を手厳しく批判。同紙の一面で連日蓮舫氏を取り上げていたことを「はしゃいでいた」とまで表現していたのだ。

こうした氏の見解に、私も同意する。さらに、はしゃいでいたのは、何も共産党だけではなかったのではとも思うのだ。というのも、民主党が2012年に下野して以降、彼らの政治活動は、日本共産党と社民党の議員、そして彼らの支持者とともに“はしゃいでいる”だけにしか見えなかったからだ。無論、その結果、立民は衆参問わず、選挙で負け続けた。

特に印象深いのが2014年だ。当時はSASPLの名称で後にSEALDsとなった学生団体が頭角を現し、安保法制や特定秘密保護法に反対するデモを国会前で行っていた。

これらのデモでは、メンバーによるラップでの抗議に加え、「戦争反対!」などのシュプレヒコールには太鼓を叩くなどして盛り上げを図った。ここに左派活動家が集結。彼らはツイッター(現X)でハッシュタグを作り「国会前を埋め尽くそう!」と呼びかけ、主催者発表人数を公表したり、朝日新聞や毎日新聞が撮影した群衆大集結写真を根拠に「コレが民意だ! アベはやめろ! 自民党をおろせ!」などと意気軒高となったのである。

れんほう、れんほう、れんほう!

こうした反政権デモには弁士として国会議員も登場した。民主党(当時)の枝野幸男氏や社民党の吉田忠智氏や福島みずほ氏、共産党の小池晃氏や吉良よし子氏、池内さおり氏らが「反アベ」系の常連の国会議員として顔を出していた。

8月2日の「安倍政権打倒!! 怒りのブルドーザーデモ」では、ブルドーザーが安倍氏を模したゴム製のマスクを潰すパフォーマンスなども行われた。

さらに、11月1日~3日に行われた「赤旗まつり」では、「ドラムレクチャー」と題され、安倍晋三氏の写真にヒトラー風のヒゲをつける写真をネットに公開。社会に大いなるインパクトを与えた。池内氏が太鼓を胸の前で持ち、スティックで叩くような仕草をする写真もあった。

安倍氏の国葬にまで反対デモを行ったが、デモや集会を主催する市民団体に野党議員は賛同の意を示すのも定番だった。このように反政権系のデモが開催されると野党議員も駆けつけ、弁士として自公政権及びアベ批判を行い、このままでは日本が戦争ができる国になり憲法九条が骨抜きになり平和が平和と民主主義が侵される、といった主張をし、参加者が熱狂する。これをこの12年間やり続けたのである。今回の都知事選にしても、蓮舫氏が街頭演説をする時は若い女性が満面の笑顔で「れんほう、れんほう、れんほう!」と叫び、ダンスをした。集会でもポップなダンスを女性が披露するシーンが話題となった。

ノイジーマイノリティ

こうした彼らの一連の動きには、もちろん賛同者もいただろうが、その一方で私を含め、多くの有権者は「またいい歳した大人がはしゃいで」と冷めた目で見ていた。「政治を身近にしようぜ!」とばかりに若者を動員し、ポップなノリで太鼓を叩いて明るく、しかし怒りも交えて政治的主張をする。そして「いつもの左派論客・活動家」に加えて「いつもの野党国会議員」が壇上でスピーチをし観客が熱狂する。

野党議員と野党支持者はこのノリをこの10年以上続けているのである。基本的にはこの流れだ。

左派のデモなり集会なりが行われる
 ↓
そこに議員が駆け付けアツく演説をし、聴衆が熱狂する
 ↓
左派メディアが「このデモが盛り上がった」と報道する
 ↓
支持者がXで動員数等の成果を報告、議員も感謝の言葉を述べ、その成果を誇る
 
しかし、実際のところ、この手の大規模集会・デモは東京で行われる(小規模ながら全国の大都市でも連携を図るべく行われるが)わけで、わざわざ新幹線で駆けつけるような人を除き、地方民は蚊帳の外である。そして取材するメディアも在京メディアだ。そしてもう何度も見てきた光景なのだが、この手のデモ・集会は「いつもの左派活動家」が関与している。今回の都知事選もその一環なのだが、私は「蓮舫さんはまだこの人々のことを頼りがいのある味方だと思っているのか……」と感じた。このやり方は一瞬の高揚感と「私達は支持されている!」という感覚は得られるものの、実際はノイジーマイノリティである。

いかに無党派層を獲得するか

蓮舫氏もSNS上では、支持者から高い熱量をもって支持されているかのように感じただろうが、ネットなんてものは、世論のごく一部なのだ。結局、特に政治に関心のない多数派の無党派層が小池氏に入れるのである。蓮舫氏もいかに無党派層を獲得するか、といった戦略を立てれば良かったのに、公約にしても「約束3 もっと多様で生きやすく――あなたの人生の選択を大切にする」は左派寄りのものだし、選挙スタイルもコアファン向けのものになっていた。

これら活動家と縁を切り、より無党派層に訴えた方が票は集まったのではないか。立憲民主党をはじめ野党は政権批判をし、様々なイシューを自民党腐敗政治がもたらすものである、と主張することで支持率を上げようとする戦略をかれこれ10年以上取り続けている。モリカケ問題、学術会議任命問題、桜を見る会問題、パーティー券問題などがそれにあたる。いや、それよりも少子化や低賃金を是正する提案をしてくれよ! 2009年の政権奪回の時の民主党のマニフェストは「高速道路無償化」や「こども手当」など、庶民に夢は持たせてくれたぞ。

2020年初頭、世界各国が新型コロナ対策を推進する中、日本の国会は「桜」に多くの時間を費やしていたのだ。コロナよりも「桜」の方が攻めるのに使えると思ったのだろう。と思ったらその後は「菅政権はワクチンを行き渡らせるのが遅い!」と今度はコロナを政権批判に繋げた。モリカケ、桜、学術会議はもういいの?

言論の自由を認めないのか

その都度政権批判ができるイシューを探し続け、左派メディアが大きく取り上げることを国会にて詰問口調で主張するスタイルがすっかり定着した。それでも結局12年間、政権奪取はできなかった。有権者もこのやり口に嫌気がさしたのではなかろうか。私は立民の某国会議員と報道番組「ABEMA Prime」で2022年に共演した。この時のテーマは安倍氏の国葬になぜ反対する人がいるのか、である。その際にこのようなやり取りになった(あくまでもニュアンスである)。

私:なんで立憲民主党は失敗するやり口を何年も続けるんですか? 何らかのイシューがあるデモに参加するも、本来のイシューとは関係のない原発反対とか政権批判ができる話題をついでに訴える。国葬を批判したかったのに、なんで原発が出てきたのかさっぱり分からない。このやり方、通用しなかったのでもう改めてはいかがか?

議員:あなたは言論の自由を認めないのか!

話にならん。こちらは政権交代をしてもらいたい気持ちもあるから、「やり方を改めてはいかがか?」と提案しているのに猛反発された。そして今回も蓮舫氏は同じような選挙戦をし、惨敗した。いい加減、自民党に対抗できる政党を作ってくれ。意見が違うと党を出て新党を作る内ゲバ体質は相変わらずだし、共産党との選挙協力をめぐっても毎度左派の間で意見が分かれる。前出のデイリー新潮記事には以下の記述がある。

乗っかり過ぎ

〈蓮舫氏に批判が殺到した理由の一つに、彼女が連合(日本労働組合総連合会)の芳野友子会長の発言を問題視したことが挙げられる。芳野会長が蓮舫氏の敗因として7月11日、「共産党が前面に出過ぎて票が逃げたのではないか」と指摘。これに蓮舫氏がXで《現職に挑戦した私の敗因を、現職を支持した貴女が評論ですか》と食ってかかった〉

多少の意見の違いは認めてとにかく選挙に勝つぜ、というのが自民党のしたたかなやり方なのだが、立憲民主党はイデオロギーの一致を求めすぎる。共産党に配慮すれば連合が反発する、逆もしかり。

挙げ句の果てには、熱烈な支持者のXでの盛り上がりやRT・いいねの数に「我々の勝利はまもなくだ」となり、負けたら負けたで「女性差別だ!」と来る。いや、小池百合子氏も女性だろ? と疑問を抱くと「小池は『名誉男性』だ!」という反論が来る。

左派政党は支持者が重要視するイシューに乗っかり過ぎである。沖縄の基地問題に関連し、沖縄での抗議活動に参加すれば票が得られる、と考えるかもしれないが、全国ではその次第ではない。現に、福島第一原発事故発生以来、何度も原発反対デモに参加しても政権は取れないではないか。

私が某立憲民主党議員に聞いた「同じやり方は通用しないのでは?」を党内で検討してみた方がいいと思いますよ。別に私は立民支持者ではありませんが、このまま自民党が好き放題するのもイヤなので。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部