台湾有事に嵌る日本、逃げる韓国 古賀茂明(AERAdot. 2022/12/20 07:00)
古賀茂明
自民党の萩生田光一政調会長が与党の党三役として19年ぶりに台湾を訪問したことが話題になった。同氏は、「台湾有事は、日本有事であり、日米同盟の有事であるという安倍晋三元首相の言葉の正しさを、中国自身が行動によって証明した」と発言した。今年8月にペロシ米下院議長が台湾を訪問した時に、中国が台湾周辺で大規模な軍事演習を行い、日本のEEZ(排他的経済水域)内にミサイルを着弾させるという強硬措置に出たことを指したものだ。
あの時の中国は日本の国民に言い知れぬ恐怖感を与えた。自公政権は、こうした国民の不安感に乗じて、反撃能力とか継戦能力と称して様々な戦争準備を進めている。
だが、この議論には危険な飛躍がある。本来は、台湾有事は本当に起きるのかという議論が先にあり、それが起きそうだという場合でも、次に考えるべきは、どうやって日本が台湾有事に巻き込まれるのを避けるかということだ。「台湾有事=日本有事」と断定し、戦争ありきで議論が進む現状は常軌を逸している。
その異常さを再認識させられる出来事があった。韓国政府の高官X氏に「日本には米中の間でバランスをとりながら戦争を回避する外交などは出来ない」と断言された時のことだ。
X氏の論旨はこうだ。
「韓国と北朝鮮は一体で、中国と長い国境線を有する。古来中国との間で戦いが繰り返され、属国になった時代もある。対中関係の安定こそが、我々の外交の最優先課題だ。一方、日本は元寇の時以外中国に攻撃されたことはないし、占領されたこともない。太平洋戦争に負けたが、占領したのは米国だった。その後、日本は米国に頼るしかなく、今日に至った。米国は日本を信頼しているが、韓国のことは本当には信頼していない。逆に、だからこそ、韓国は米国に対して時に厳しい対応ができる。米国は、韓国はそういう国だと理解しているから裏切られたとは感じない。韓国は米韓関係はそういうものだと割り切って外交を組み立てる。一方、日本は米国に無条件で忠誠を誓って来た。今さらその信頼を裏切ることは出来ず、米国が戦う時は日本は逃げられない。戦争回避の外交が不可能というのはそういう意味だ」
確かに、尹錫悦(ユン・ソンニョル)韓国大統領は保守派だが、中国への配慮が目立つ。ペロシ議長訪台の後に、岸田首相が訪日したペロシ議長と朝食会でもてなしたのに、尹大統領は面会もせず電話会談のみだった。しかも、朴振(パク・チン)外相がその直後に訪中して王毅外相と会談までした。一方、王毅氏は、ペロシ議長訪台直後に日中外相会談をドタキャンしている。まるで中韓が共同で日米に対抗しているかのようだ。
X氏によれば、韓国は、今、台湾有事に巻き込まれるのを回避するのに必死だという。彼の言葉には、台湾有事の際に日本が巻き込まれるのは不可避で、それは自業自得だという警告が込められている。彼の言葉に、小国の意地と外交の知恵を見た気がした。
一貫して米国との一体化を推し進め、台湾有事にも自ら喜んで飛び込んで行こうとする日本は、小国でも独立の気概を持ち知恵を絞る韓国の生き方を「対中弱腰外交」と馬鹿にするのではなく、日本にとって学ぶべき点はないか、より深く考察すべきだと思う。
※週刊朝日 2022年12月30日号
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古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『官邸の暴走』(角川新書)など