南太平洋の支配失敗、習氏に〝大逆風〟西側との綱引き敗北で「今後の札束攻勢に警戒」 国内では経済減速に危機感、李克強首相と対立も

南太平洋の支配失敗、習氏に〝大逆風〟 国際

南太平洋の支配失敗、習氏に〝大逆風〟西側との綱引き敗北で「今後の札束攻勢に警戒」 国内では経済減速に危機感、李克強首相と対立も(zakzak 2022.6/1 06:30)

中国の習近平国家主席に「逆風」が吹き出した。中国は、南太平洋を中心にした10カ国との安全保障協定の締結を提案したが、反対意見が出て合意に至らなかった。

ジョー・バイデン米大統領は日米首脳会談後の記者会見で「(台湾有事の)軍事的介入」を明言し、これを後押しするように「イラク戦争の英雄」であるタミー・ダックワース米上院議員(民主党)らの訪問団が台湾入りした。

習氏の「ゼロコロナ政策」を実践した上海市のロックダウン(都市封鎖)には批判が噴出しており、盟友のウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアはウクライナ侵攻で苦戦している。自由主義国家と専制主義国家の対決は新たな局面に入りつつある。

「良くて冷戦時代、最悪の場合は世界大戦をもたらす」

ミクロネシアのデイヴィッド・パニュエロ大統領は、中国と南太平洋を中心にした10カ国との外相会議に先立ち、周辺国に書簡を送り、「協定案への反対」を表明していたという。

オーストラリアの公共放送ABCによると、中国の王毅国務委員兼外相は30日、訪問先のフィジーで開いた外相会議で、安全保障や警察、貿易、データ通信で協力する新たな協定案を示した。

習氏も「中国と太平洋島嶼国の運命共同体を構築したい」という書簡を寄せていたが、一部の国の合意を得られず提案をいったん棚上げした。

フィジーのジョサイア・ヴォレンゲ・バイニマラマ首相兼外相は会議後の記者会見で、「これまで通り、各国のコンセンサスを最優先する」と述べた。10カ国すべての賛同が得られていないことを示唆した。

中国外務省の趙立堅報道官は30日、「各国はより多くの共通認識に達することを目指して努力することに同意した」と語った。今後も協議を継続する意向を示したかたちだが、現実は簡単ではない。

南太平洋の島嶼国をめぐっては、中国と西側諸国の駆け引きが続いている。

中国は4月にソロモン諸島と、安全保障協力に関する2国間の協定を締結した。ソロモン政府が要請すれば中国が海軍艦艇を寄港させたり、軍の部隊や警察を派遣したりできる内容だ。

これに対し、日本や米国、オーストラリアは「中国の軍事拠点化につながりかねない」と懸念している。

バイデン氏は訪日中の23日、インド太平洋地域で台頭する中国に対抗する、新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の発足を宣言した。フィジーはIPEFへの参加を明らかにしている。

中国王毅外相はソロモン諸島など南太平洋島嶼国7カ国と東ティモールを訪問
中国王毅外相はソロモン諸島など南太平洋島嶼国7カ国と東ティモールを訪問

こうしたなか、米国は台湾シフトを強化する。

ダックワース上院議員が率いる訪問団が30日、台湾入りした。蔡英文総統らと31日にも会談する予定で、インド太平洋地域の安全保障や経済貿易関係について、話し合う見通しだ。

米大使館のSNSによると、ダックワース氏は米陸軍のパイロットとして勤務中の2004年、ヘリの墜落で両脚を失った「イラク戦争の英雄」である。

米台接近に、中国は軍事的威嚇を仕掛けてきた。

台湾国防部は30日、中国軍の戦闘機「殲16」や早期警戒機「空警500」など軍用機計30機が同日、台湾南西部の防空識別圏(ADIZ)に進入したと発表した。

南太平洋や、台湾の情勢をどうみるか。

国際政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は「南太平洋は、台湾有事の際に、米国とオーストラリアの海軍艦船が通過する重要な地域だ。中国はこれを阻止するため、軍事拠点化を狙っている。米国もIPEFで、太平洋島嶼国を自由主義圏の枠組みに入れ、軍事、経済両面でつなぎ留める考えだ。

今回の協定合意失敗は、中国にブレーキがかかったかたちで、習氏の焦りにつながるだろう。ダックワース議員は、アジアや軍事問題にも精通し、民主党内でも影響力もある。『バイデン政権と議会が一致している』という米国意思を示すもので、連動した動きだ。中国は今後、島嶼国に札束攻勢をかけ、駆け引きは強まる。警戒を緩めるべきでない」と語った。

習氏は、今秋の共産党大会で「政権3期目」を狙っているが、「ゼロコロナ政策」の失敗などに批判が噴出している。中国経済の減速に危機感を示す李克強首相と、習氏の間で意見が分かれているとの観測もある。

中国事情に詳しい評論家の石平氏は「習氏は、国内政策でも反発を受けている。10年間続けてきた覇権主義的な外交戦略にかけるしかなかったが、南太平洋の『属国化』計画も最終段階で挫折した。権威失墜のきっかけになりかねない。ロシアのウクライナ侵攻へのあいまいな態度も、国際社会の非難を浴びている。今後、習氏の指導力に疑問が浮上して、党内の反発が強まる可能性がある」と語った。