全固体電池とは?
全固体電池とは、固体だけで構成されている電池を指します。従来の電池も、外観だけで判断すれば固体である金属のみを使用しているように見えますが、内部には液体の電解質が入っています。全固体電池は、この電解質も固体となっているのが特徴です。電気を発生させる重要な要素である電解質を固体にすることで、液体の電解質を用いる電池とは、大きな違いが生じます。
電解質に固体を使用することで、リチウムイオン電池以上の大容量/高出力を実現することが可能になります。さらに、電池の内部に液体の部材を使わないため、より安全に電池を使用できます。
このように優れた性能を持つ全固体電池が普及していなかった理由は、イオンを高速で伝導できる固体材料が開発できなかったためです。以前から全固体電池の有効性は認識されつつも、高イオン伝導性の固体電解質を開発するのは難しいことだと考えられていました。しかし、近年になって有効な材料の開発が進み、全固体電池の実用化に弾みがついてきました。
今後、電気自動車や携帯型電子機器の重要性が高まってくるといった背景もあり、全固体電池の本格的な普及が期待されています。
全固体電池の仕組みは?
全固体電池は、内部にあるイオンが放電時は正極に、充電時は負極に電解質内を移動することで、電気を流す仕組みとなっています。この仕組みは、従来のリチウムイオン電池と基本的には同じものですが、電解質が液体か固体かで、電池の種類が決まります。正極と負極の材料もリチウムイオン電池と同じものが使われますので、固体の電解質を用いることが重要なポイントです。
電解質にどのような材料を使うかによって、電池の構造も異なります。液体の電解質を使う場合は、正極の液体と負極の液体を分離するためのセパレータが必要となります。液体の電解質は、急激に混ざり合ってしまうこともあるため、セパレータを設けて動作を制御しなくてはなりません。しかし、固体の電解質であれば、混ざり合うこともないので、今までのようなセパレータは必要なくなります。全固体電池の場合は、正極と負極の間にある固体電解質がセパレータとして働きます。
全固体電池の種類は?
バルク型全固体電池
製造方法によって、全固体電池は2種類に大別することができます。
粉や粒を集めた粉体を、電極や電解質に使用しているのが「バルク型全固体電池」です。固体電解質を使用しているものの、構造的にはリチウムイオン電池と似通った電池です。構成する固体電解質の品質によって、その機能が大きく左右されます。
バルク型全固体電池は、多くのエネルギーを蓄積できる容量の大きな電池が製造可能なので、電気自動車などのバッテリーに使用されています。
薄膜型全固体電池
「薄膜型全固体電池」は、真空蒸着法やスパッタ法などの気相法とよばれる方法を使い、真空の電極上に薄い膜状の電解質を積み上げて製造される全固体電池です。
バルク型全固体電池と比較すると、蓄えることができるエネルギーの量が少ないため、大容量の電池をつくることはできませんが、製造が容易でサイクル寿命が長いという特徴を持ちます。そのため、それほど大容量の電池を必要としない、センサーなどの小型デバイスに適しています。
全固体電池のメリットは? リチウムイオン電池との違いについて
メリット① 構造や形状の自由度が高い
今までの電池は、電解質が液体です。この液体電解質は皮膚に触れると化学やけどを起こすこともあり、容器から漏れてしまうと大きな問題となるため、強固な容器を用意しなくてはなりません。一般家庭でも、従来の電池を捨てる時には十分に注意する必要があります。
しかし、全固体電池は電解質が固体なので、液漏れの心配もなくなり、構造や形状の自由度が向上します。構造や形状を工夫することで、機能の向上や用途の拡大など、さまざまなメリットが享受できるようになったのです。
メリット② 固体なので頑丈で寿命が長い
リチウムイオン電池は、電解液内をリチウムイオンなどの物質が移動しますが、その際に生じる副反応によって徐々に劣化してしまいます。電解質が劣化すると、電池としての性能が低下し、十分な電流を流せない状態になるのです。
その点、固体の電解質を用いる全固体電池は、リチウムイオンだけが電解質内を移動するため、副反応が起こりにくく、劣化しにくいというメリットを持ちます。全固体電池はリチウムイオン電池よりも、丈夫で寿命の長い電池だと言えるでしょう。
メリット③ 熱や温度変化に強い
リチウムイオン電池は、温度の高い場所ではセパレータの溶解、温度の低い場所では電解液の粘度が高くなり、内部抵抗が上昇してしまうため、周囲の温度によっては使用できない場合があります。
全固体電池の場合は、温度の影響を受けにくい固体の電解質を使っているため、リチウムイオン電池よりも作動温度範囲が広く、温度の変化にも対応できる電池となっています。そのため、今まで電池の使用を避けていた場所でも、全固体電池なら動作可能です。
メリット④ 高速充放電ができる
電池は充電する際に熱を持ち、特に急速充電をする時には大量の熱が発生します。高温下で使用すると電池の性能劣化などの問題が生じるリチウムイオン電池の場合は、十分に注意しながら時間を掛けて充電しなくてはなりません。
しかし、高温でも使用できる全固体電池は、リチウムイオン電池よりも急速で充電することが可能です。さらに、多層化して小型の電池を内部にたくさん構成できる全固体電池は、短時間での充電に適したものとなっています。充電時間は、リチウムイオン電池の3分の1とも言われています。
全固体電池の用途は?
全固体電池の用途として注目されているのが、これから本格的な普及が見込まれる電気自動車への利用です。
現在製造されている電気自動車には、リチウムイオン電池が用いられていますが、可燃性の有機溶媒が含まれているので、万一火災が発生した場合の危険性が指摘されています。また、リチウムイオン電池は、充電するのに時間が掛かることや、作動温度範囲が狭いなどの問題点も存在します。このようなことから、電気自動車をより使いやすくするためには、リチウムイオン電池以上の性能を持った電池が必要とされているのです。全固体電池ならば、可燃性の有機溶媒がないので火災の際のリスクも低減できますし、作動温度範囲も広いため急速充電にも対応可能です。
電気自動車以外にも、電子機器の電源としての用途も考えられます。電子機器に利用される部品は、電子基板にはんだ付けして使用されることも多いのですが、全固体電池であれば、はんだ付けすることが可能です。
全固体電池の大容量/高出力というメリットを活かして、飛行機や船などに搭載することも検討されていますし、リチウムイオン電池よりも作動温度範囲が広いため、より過酷な環境下で全固体電池を活用できないかと多くの分野で期待されています。
全固体電池の安全性は?
リチウムイオン電池は電解質として使用する有機溶媒が気化しやすいので、温度が高い状況では使い難い面がありますし、外部からの衝撃などを受けて正極と負極がショートしないように、セパレータを設けるなどの安全対策を施す必要がありました。
しかし、全固体電池で使っている電解質は耐熱性が高いため高温下での使用も可能ですし、固体によって電極間が離れているためショートしにくいのです。
さらに、リチウムイオン電池は液漏れにより環境を悪化させる心配がありますので、液漏れの心配がない全固体電池は環境に配慮する社会にとって、より安全に使える電池と言えるでしょう。これからは性能だけではなく、安全性も優れている全固体電池が普及することが期待されています。
全固体電池の開発状況/実用化への課題は?
今後数年間以内に本格的に実用化できるよう、全固体電池の研究開発が行われています。将来的にリチウムイオン電池に変わるキーとなる技術であるだけに、数多くの企業や大学などで精力的に研究が進められていますが、固体電解質、電極物質、製造工程などに関しての課題が存在します。
固体電解質の課題は、固体間の密着に関するものです。常時、電極と電解質が密着していないと、電池としての機能を十分に発揮することができません。電解質が液体の場合は比較的容易に密着した状態を作り出すことができるのですが、固体電解質の場合は固体と固体を密着させるための工夫が必要となります。また、固体電解質の有望な材料としては硫化物系と酸化物系があり、特に高いイオン伝導率を持つ材料を探索することも課題となっています。
電極物質の課題とは、より電力を蓄えられるものの必要性です。全固体電池がエネルギー密度を向上させるためには、より効率の良い電極(正極、負極)が不可欠となります。サイズと重さを抑えながらも、さらに電力を蓄えることができる電極を開発しないと、使い勝手の悪い電池となってしまいます。
製造する際の課題も存在します。使用する材料によって複数の製造方法が考えられますが、硫化物系全固体電池の固体電解質などは水分に触れると変質してしまうので、ドライルームを用意しなくてはなりません。従来のリチウムイオン電池とは異なった製造設備が要求されるため、大量に製造するためには、大規模な設備の準備が必要となります。
リチウムイオン電池に取って代わる電池にするためには、いくつもの課題を克服して、より優秀な電池を製造しなくてはなくてはなりません。
まとめ
実用化に向けた課題はあるものの、全固体電池の普及には大きな期待が寄せられています。
電池は極めて安価で販売されているものもあるため、その重要性を十分に認識していない人も少なくありませんが、その内容を詳しく理解して全固体電池を取り扱うことで、生活の向上や安全性を高めるのに役立ちます。
これから、全固体電池に接する機会も多くなることが予想されるため、今から積極的に最新の情報を入手するように意識することが大切です。