日本の原発は住宅より耐震性が低い…映画「原発をとめた裁判長」で知る原発と再生可能エネルギー

映画「原発をとめた裁判長」 科学・技術

日本の原発は住宅より耐震性が低い…映画「原発をとめた裁判長」で知る原発と再生可能エネルギー(TBSラジオ 2022年9月22日(木) 17:40)

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TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」 取材:田中ひとみ

原子力規制委員会が誕生して10年が経ちました。岸田総理は原発をクリーンエネルギーと位置づけ、今後、再稼働のみならず、新増設する考えも表明しています。そうした中、今、原発がテーマの映画が話題となっているので取材しました。

裁判長はなぜ原発をとめたのか?

映画のタイトルは「原発をとめた裁判長」。2014年に福井県の大飯原発の運転差し止めを命じる判決を下した元裁判長で、現在は、原発の危険性を訴える活動をしている樋口英明さんらに注目したドキュメンタリーです。まず、樋口さんに伺いました。

なぜ原発をとめたのでしょうか?

福井地方裁判所 元裁判長 樋口英明さん
「極めて危険だからです。原発の被害は馬鹿でかい、だから事故発生確率を落とさなきゃいけない、地震大国日本で事故発生確率が低いということは、極めて高い耐震性が原発にあるということでなければならない。しかし、わが国の原発の耐震性は極めて低いんです」

原発は頑丈なイメージですが…

福井地方裁判所 元裁判長 樋口英明さん
「私が「耐震性が低い」と言ってるのは、「原子炉の耐震性が低い」という意味じゃないんです。福島原発事故は、停電したために原子炉を冷やせなくなって、ウラン燃料が溶け落ちて、原子炉も壊れてしまったんです。だから問題は、配電・配管の耐震性なんです。配電や配管の耐震性は極めて低いんですよ」

樋口さんによれば、当時の裁判での判断の基準は「安全か、安全じゃないか」というシンプルなものだったそうです。

全国の原発については、2005年以降、安全対策の基準値を超える大きな地震が5度あったと指摘。こんな低い基準の対策では安全と言えないとしました。

これに対し電力側は、実際にはその1.8倍の地震まで耐えられるとしましたが、これに対しても、過去の例から、その規模を超える地震が大飯原発で起こらないとは言い切れない、として、運転差し止めを命じました。

一般住宅より原発の方が「耐震性が低い」

ここまで、とてもわかりやすい判断ですが、さらに伺うと、怖い話もありました。それは「原発は、一般の住宅より、耐震性が低い」というこということです。地震の強さを示す単位「ガル」で説明してもらいました。

原発は住宅より耐震性が低い?

福井地方裁判所 元裁判長 樋口英明さん
「一般の住宅メーカーの住宅ですが、住友林業の場合はおよそ3400ガル、三井ホームの場合は5100ガルぐらいまで耐えられる。他方、原発の方は、大飯原発の耐震性は、現在856ガルなんですよ」

ずい分、差がありますね?

福井地方裁判所 元裁判長 樋口英明さん
「しかも住宅メーカーの場合は、そこまで耐えられることが実験済みなんです。一方、原発の場合は、実験したわけじゃないんです。コンピュータシミュレーションで「そこまでいけるはずだ」という数字なんですね。科学者にとっては、実験の方が遥かに信頼性が高いのは常識ですね」

歴然としてますね…

福井地方裁判所 元裁判長 樋口英明さん
「数字が高い上に信頼性があるのが、大手ハウスメーカーです。一方、数字が低いし、単なるコンピュータシミュレーションっていうのが原発なんです。差は歴然だと思いますね」

パンフレットでも紹介されている樋口さんの主張。青い表記の大手不動産の住宅より、赤い表記の原発のほうが、耐震性が低いところにあります。衝撃的ですね。

これについて電力側は、原発と住宅では、揺れをはかる場所が違うという説明をしているようです。揺れは、岩盤と地表だと地表のほうが大きく、原発の耐震性の計算は、岩盤での揺れを基準としているので、さらに大きい地表の揺れにも対応できる、という反論です。

しかし調べてみると、樋口さんによれば、地表の揺れと、岩盤の揺れが同程度ということも多いので、地表の大きな揺れに対応できる住宅の方が丈夫だということでした。

なぜ高裁でひっくり返ったのか?

樋口さんの福井地裁での判決、運転差し止めは、その後、名古屋高裁の金沢支部でひっくり返されます。

原発訴訟では、こうしてひっくり返るケースも多いのですが、樋口さんの言うように原発が危険なのなら、裁判では、すべて止める方向になるはず。

では、なぜ、裁判で、次々と原発の再稼働が認められるのか? こちらも樋口さんに伺ったところ、「それは『安全か安全じゃないか』ではなく、『原子力規制委員会が決めた基準に適合しているかどうか』、手続きが正しいかどうかで判断してしまうからです。」ということでした。

再生可能エネルギーへの期待

今回注目した映画「原発をとめた裁判長」は、原発の危険性を訴えるだけでなく、後半、その代わりとなる再生可能エネルギーへの農家たちの取り組みに注目していきます。

それは、「ソーラーシェアリング」という取り組みです。

これは「農業と太陽光発電の二毛作」とも言える手法で、畑の上に、簀の子状に太陽光パネルを設置。その合間から落ちる太陽光で農作物を育てながら、同時に太陽光発電をします。こうして地域の農業とエネルギーを支える仕組みです。

映画では、福島県二本松市でソーラーシェアリングに取り組む「二本松営農ソーラー株式会社」の近藤恵さんや、その下で1つの農場を仕切る19歳の農場長、塚田晴さんの姿が描かれます。

映画は社会に開かれている

最後にこの映画を作った小原浩靖監督にも伺いました。

この映画を作ったきっかけは?

映画監督 小原浩靖さん
「最初は、弁護士の河合弘之さんから、元裁判長の樋口さんの主張をYoutubeにアップしようという話を頂いたんです。ただ、私はYoutubeより、映画の方がいいと思いました」

なぜ映画の方がいいと思ったのでしょう?

映画監督 小原浩靖さん
「映画は、社会に開かれているんです。例えば「スパイダーマン」を見に来た人が、予告編でこの映画を観て興味を持ったり、子どもと「アンパンマン」を見に来た人が、この映画を知って再生可能エネルギーに興味を持ったりすることがあるでしょう。だから映画にしたかったんです」

そうして出来たこの映画、どんな人に見てもらいたいですか?

映画監督 小原浩靖さん
「目標としては、原発推進の人たちに見てもらいたいっていうのが大きなところですね。そしてもう一つは、高校生、高校生は今選挙権もありますから、ぜひですね、そういう若い人たちにも見てもらって。若い人たちは、大いに刺激を受けると思うんです」

それはどういうことでしょう?

映画監督 小原浩靖さん
「それは、自分と同い年ぐらい、もしくは年下っていうぐらいのね、19歳の農場長、こんなふうに生きてるんだっていうことに、大いに刺激を持たれると思うし、自分たちのお父さんよりもずっと上の世代の人たちが、間違っているものは間違っているんだっていうふうにはっきり物を言っている。日本も捨てたもんじゃないなっていうふうに思ってもらえるんじゃないかなっていうふうに、感じながら作りましたね」

小原監督は、今後も、再生可能エネルギーに取り組む農家に注目を続け、続編を作りたいとお話していました。

映画「原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち)は、東京では「ポレポレ東中野」で、10月7日まで上映中。ほか全国順次公開される予定です。