ウクライナ人の人気ユーチューバー「サワヤン」が義勇兵に「志願」…日本の若者に届けたい本音とは(読売新聞 2022/03/03 19:50)
ウクライナ出身で人気ユーチューバーとして日本で活動しているトカチョフ・サワさん(26)とヤンさん(20)兄弟が、ウクライナ政府が世界に向けて募集した義勇兵に「志願する」と動画の中で発表した。動画は24時間で120万回以上再生され、視聴者からの応援メッセージは今も止まらない。軍隊経験もない2人にとって、戦うとはどういう意味なのか? 異色のインフルエンサーが日本の若者たちに伝えたかったことは? 祖国や家族、ロシアに対する思いは? 2人に胸の内を聞いた。
義勇兵に志願します(YouTube)
戦わずに平和が一番だが……
「戦わずして平和になるなら、それが一番。でも、戦わないといけなくなったと思ったんです」
3日昼、2人は動画を投稿した理由をこう語った。実際にウクライナ大使館を訪れて志願兵として手を挙げたわけではない。2日に投稿した動画では、サワさんが「軍事経験がある人などが募集の対象なので、応募はできていない」と明かしたうえで、「母国を守りたい気持ちはある。この動画を通じて義勇兵に志願し、行けるのであればウクライナへ行く準備はできている」などと語った。動画を公開することで、母国で今まさに戦っている兵士と同じ気持ちを共有したことを日本の若者たちに知ってほしかったという。
サワさんはウクライナの首都キエフでウクライナ人の両親の下に生まれた。一家は、サワさんが4歳の時に経営コンサルタントの父と一緒に日本に移住した。弟のヤンさんは日本生まれ、日本育ち。2人は日本の学校に通い、生活している在日ウクライナ人だ。父はウクライナと日本を行き来する生活を送っている。
動画投稿を始めたのは2年前。ゲームを実況したりドッキリを仕掛けたりする3つのチャンネルを併用している。中でも、ゲーム実況の「サワヤン・ゲームズ」は登録者数が115万人を超えるなど、3チャンネルの合計は200万人以上になる。チャンネルのウリはその明るいキャラクターだ。サワさんのゲーム実況では、ついつい熱くなりすぎ、失敗すると台を叩いてしまう「台パン」が若者にウケ、人気を集めた。軽妙な兄弟のやりとりもあり、若者を中心に瞬く間に登録者が増えていった。
だが、ロシアによるウクライナ侵攻が始まると、動画の雰囲気は大きく変わった。2月22日には「ウクライナの一部がロシアに支配されました」という動画を投稿。それ以来、戦争やウクライナの家族について語るようになった。サワさんは「同じウクライナ人が戦争に反対する声をあげているときに、ドッキリ企画をしても笑えるかと考えた。母国のために意味のある発信をしようと思った」と、その意図を語る。
記者に問うた「死ねと言えるか?」
2人が「戦禍」に巻き込まれたのは突然だった。ウクライナ情勢が緊迫していた2月22日、日本を離れキエフにいた父からLINEを通じてたった一言だけのメッセージが届いた。
「やっぱり、始まった」
緊張が高まっていたロシアとウクライナの関係が決定的になったその日、2人は戦争の「当事者」になった。現在、父はキエフから離れた場所で身を潜めているが、叔父の家族はまだ市内に残っているという。
父とはこまめに連絡を取っている。ある日、父から「俺はお前たちのために死ぬ。母国を守る」というメッセージが届いた。サワさんはわずかに涙ぐみながら、記者にこう問いかけた。「もし、父親から『自分のために死ぬ』と言われて、『分かった。俺たちのために死んでくれ』と言えますか?」
中高生が「僕も戦地に行く」…発信に葛藤
ロシアが侵攻するまで、2人はロシアのことを「兄弟」のように思っていたという。日常会話にもロシア語が入り交じり、ロシア人の友達も多い。少なからず親近感を抱いていた。だが、戦地に立てば、そうしたかつての「仲間」に銃を向けることになる。ヤンさんは「本当はそんなことしたくない」、サワさんも「究極の二択。でも、いざとなれば家族を守りたいというのが僕の気持ちです」と語った。
「インフルエンサー」として情報を発信することにも葛藤がある。「志願」動画を投稿した後、SNSを通じて日本人の中高生から「サワヤンさんがウクライナに行くなら僕も行きたい」とメッセージが届いたのだ。このことに「こういうことをうれしいと思っちゃいけない。戦争に荷担する若者が一人でも少なくなってほしいというのが僕らの願いです」と語る。同時にこうも思う。「僕たちの動画を通じて遠い国の戦争を当事者と同じ思いに立って考えてくれるだけでいい。それが平和につながるはずだ」
動画投稿で作りたい世界
2人はこれからも動画の投稿を続けるという。現時点では、「情勢にもよるのでどんな動画を配信するかは分からない」としながらも、「ウクライナ人だからこそ発信できる内容にこだわりたい」(ヤンさん)という。
動画を配信する目的はただ一つ。それは「戦争を終わらせる」ことだ。サワさんは「戦争を経験したことのない人たちが、平和のために正しいアクションを起こす。当事者として現地の情報を発信することで、視聴者の背中を押すことはできるはず」と考えている。
そして、「日本は世界の中でもトップクラスに平和な国だ。そういう国だからこそ、平和の大切さを訴え続ければ何かが変わるかもしれない。世界中の誰もが銃を持たずに平和が実現できるかもしれない」と希望を語った。
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取材中、過去の動画で見せていた、楽しそうな2人の姿はなかった。ウクライナへの愛や、戦争に対する反感を真剣なまなざしで語り続けた。約1時間のインタビューの終盤、2人はこんな言葉をつぶやいた。
「戦争が憎いです」