どうなる? 人工知能(AI)のもたらす未来とシンギュラリティ

シンギュラリティ 科学・技術

どうなる? 人工知能(AI)のもたらす未来とシンギュラリティ(ZUU online 2021/12/23)

人工知能(AI)が日常生活で当たり前に利用される時代になった。目的を持って使っている場合もあれば、気がつかないうちに利用していることもあるだろう。人工知能(AI)を有効に活用するには人工知能(AI)に関するスキルや知見を高める必要がある。人工知能(AI)の発展は社会にどのような未来をもたらすのか、そして、人間の能力とAIの能力の逆転が起こると懸念されているシンギュラリティの問題と併せて解説する。

人工知能(AI)の発展の歴史

はじめに、人工知能(AI)が発展してきた歴史を振り返っておこう。人工知能(AI)の研究が始まったのは1940年代といわれているが、1950年初期には早くも機械翻訳の研究が開始された。1966年には英語で人間と対話を行うプログラムの開発に成功している。

1990年代にはWindowsの登場でパソコンやインターネットの普及が加速した。そんななかで1997年に人工知能(AI)がチェスで世界チャンピオンを破ったことで、人工知能(AI)が大きく脚光を浴びるようになった。

2000年代以降はスマートフォンやSNSの隆盛などにより、人工知能(AI)が活躍する場所がますます増えている。2021年現在はディープラーニング系への進化が加速し、画像認識の発展に貢献している。

人工知能(AI)とは何か

人工知能(AI)とは、「artificial intelligence」の訳語で、「学習、推論、問題解決、判断、知識表現など人間の能力に近い機能を持ったコンピュータによる情報処理システム(精選版日本国語大辞典より)」のことをいう。

SF映画や漫画に登場する人工知能(AI)は、主体的意思を持ったコンピュータシステムやロボットとして描かれているが、実際の人工知能(AI)技術や研究によって実用化されているものは、まだコンピュータ・プログラムに過ぎないといえる。さらに高度化を目指すには、今後の研究開発が必要になってくる。

人工知能(AI)に関する研究テーマとしては、ビッグデータの利用と機械学習、ディープラーニング(深層学習)、BERT(自然言語処理技術)などがある。

人工知能(AI)の現状とメリット

人工知能(AI)は、あらゆる分野で活用されているといってよい。次に紹介するような分野においては、われわれの日常生活にも浸透している。人工知能(AI)が活用される場面とメリットについて考えてみよう。

人工知能(AI)の日常生活への浸透

▽人工知能の発展と進化の流れ

上記は、総務省が発表した情報通信白書に掲載されている人工知能の発展と実際の社会への影響を図示したものである。これをベースに、人工知能(AI)は具体的にどのような形で日常生活に浸透しているのかを、5つの分野で紹介する。

人工知能(AI)の発展その1:機械学習

機械が学習するという意味では、人工知能(AI)がインターネットの検索結果から興味のある広告を抽出して顧客に表示する、ターゲティング広告が広く浸透している。また、過去のデータから人工知能(AI)が宿泊や交通の需要予測を行うこともできる。

人工知能(AI)の発展その2:画像認識の利用

画像認識とは、画像や動画に映る対象物の特徴をつかんで識別するパターン認識技術を指す。画像認識ではスマートフォンの顔認証が普及してきた。スマートフォンではこれまでパスコードや指紋認証でロックを解除していたが、顔認証ではスマートフォンに顔をかざすだけで解除できるようになった。このように、画像認識は人を特定できるため、犯罪捜査における犯人割り出しにも役立ち、防犯にも有効だ。

また、顔認識以外では建築物の亀裂部分などの異常を検知する際にも利用されている。医療分野ではCTやMRIの画像から癌をはじめとする疾患の予兆を検知する試験が行われており、今後の発展に期待がかかる。

人工知能(AI)の発展その3:オペレーション業務

人工知能(AI)はオペレーション業務を通じて身近なところで利用されている。たとえば、iPhoneに搭載されている音声アシスタント機能「Siri」や、Webサイトで問い合わせなどに使うチャットボットを利用したことがある人も多いだろう。人工知能(AI)がBERT(自然言語処理技術)を使うことで、顧客からの質問に精度の高い文脈解析で的確に回答することができる。

人工知能(AI)の発展その4:自動運転への応用

近未来において主流になるだろうと思われる自動運転にも、人工知能(AI)の技術が必要だ。自動運転は車に搭載されているカメラの映像から人工知能(AI)が人や道路を認識し、運転を制御する仕組みになっている。

自動運転においては人工知能(AI)がディープラーニング(深層学習)によって取得した情報から車、人、建造物などを人間と同じレベルで認識することができるようになる。この技術によって人工知能(AI)がドライバーの目の代わりを果たすことができるのだ。国内では2020年4月に自動運転レベル3(条件付運転自動化)が解禁された。同年6月に国連の「自動車基準調和世界フォーラム」で国際基準が成立し、世界的に自動運転が解禁される見込みだ。

人工知能(AI)の発展その5:自動翻訳

国際化社会に対応するためには、いままでにもまして高度な自動翻訳のシステムが必須になる。英語であれば単語からおよその質問内容を理解できる場合もあるが、マイナーな言語の意味を理解することは専門家以外困難だ。

自動翻訳では人工知能(AI)が「ディープラーニングによる自動翻訳」を行うのが主流になっている。ディープラーニングでは、大量の情報や回答から人間に近い方法でひたすら学習して自動的にルールをつくる。語感や語順、文章の流れも考慮できるので、ディープラーニングによって自動翻訳の精度が上がったといえる。

自動翻訳は日本に来た外国人と会話する際に利用するほか、自分が海外に行った際も利用できるので、翻訳機が1台あると社会的視野が広がるだろう。

人工知能(AI)がもたらすメリット

人工知能(AI)を活用すると、さまざまなメリットを得ることができる。1つめは、労働力の減少をカバーする効果だ。人手不足が深刻な飲食業界が採用している「レストランテック」が典型的な例といえる。

たとえば、顧客がタブレット(デジタルメニュー)を操作して注文することで注文の聞き間違いもなくなり、店員は注文を受ける時間を他の業務に振り分けることができる。タブレットから送信されてされたデータは厨房で確認できるので、すぐに調理にとりかかることが可能だ。人工知能(AI)によるオペレーションシステムで店舗全体がつながっているため、会計もPOSレジに自動で送信される。会計時も伝票のバーコードをスキャンすれば短時間で終了し、打ち間違いもない。

2つめは、生産性の向上である。一部のコンビニでは、ロボットによる、倉庫で不足しているドリンクなどを補充する仕組みが導入されている。いままではドリンクを補充するため、店員が倉庫に入る必要があったが、ロボットに任せることで売り場の仕事に専念でき、生産性やサービスの向上につなげることができる。ここで役に立つのが、人工知能(AI)が把握している販売データである。販売実績を把握していることで、季節や時間帯に合わせ、適切なタイミングで補充を行うことができる。

このように人工知能(AI)技術を活用することによって顧客満足度が高まり、ビジネスの発展につながる。しかし、人工知能(AI)の発展はメリットばかりでなく、「シンギュラリティ」と呼ばれるデメリットも懸念されている。

人工知能(AI)の発展がもたらすシンギュラリティとは

人工知能(AI)の能力は、すでに人間を超えているといわれる。そこで懸念されているのが、人工知能(AI)が発展した結果生じるシンギュラリティの問題だ。デメリットや問題点を整理しておこう。

人工知能(AI)はすでに人類に勝利している

「人工知能(AI)が人間と対決し勝つことができるか」という実験はいろいろな場面で試みられてきた。人工知能(AI)と人間の対戦で最初に大きな話題となったのが、1997年にIBMが開発したチェスプログラム「ディープ・ブルー」がチェスの世界チャンピオンを破ったことだ。

日本では2013年に人工知能(AI)とプロ棋士が対戦する「電王戦」が開催され、人工知能(AI)が勝利している。チェスよりも複雑な読みが必要な将棋でプロ棋士が負けたことは当時大きな話題となった。これはまぐれではなく、その後の電王戦での対戦成績はプロ棋士から見て「5勝14敗1分け」と大きく負け越しており、人工知能(AI)のほうが優秀であることが証明される形となった。

シンギュラリティとは(2045年問題)

シンギュラリティとは、「人工知能(AI)が人類の知能を超える転換点(技術的特異点)。または、それがもたらす世界の変化のこと(知恵蔵より)」をいう。米国の未来学者レイ・カーツワイル氏が著書『The Singularity Is Near』(邦題『ポスト・ヒューマン誕生』)で、2045年にシンギュラリティが到来すると予言している。これが2045年問題と呼ばれる人類の課題である。

日本でも2015年に野村総合研究所が英オックスフォード大学のマイケルA. オズボーン准教授およびカール・ベネフィクト・クレイ博士との共同研究により、2025~2035年に、日本の労働人口の約49%が人工知能(AI)やロボットで代替可能になるとの推計結果を公表している。

▽人工知能やロボット等による代替可能性が高い労働人口の割合(日本、英国、米国の比較)

図版引用:野村総合研究所「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」(PDF)

同社の分析によると、創造性や協調性が必要な業務や非定型な業務は人間が担うものの、特別のスキルが必要ない職業や、データ分析、秩序的・体系的な操作が求められる職業は、人工知能(AI)にとって代わられる可能性が高いとみている。

シンギュラリティがもたらすデメリット

シンギュラリティが到来すると、社会にどのようなデメリットをもたらすのだろうか。

最も大きなデメリットは雇用環境の悪化である。事務職をはじめ多くの職場はAIが効率的に業務をこなすため、少人数での運営が可能になる。小売業界では自動レジ化が進んでおり、業務の効率化が進めば人員の削減につながる可能性がある。24時間営業の形態も変わるかもしれない。失業しないまでもシフトの時間はかなり減ることになるだろう。

現実に大手コンビニでは一部の店舗ではあるが、自動レジ化を導入して深夜のみ無人営業にする実験を進めている。この施策を実施するには、販売以外の業務を他の時間帯に行う必要があり、無人営業時以外の時間帯の業務負担が増えるおそれがあるものの、一日全体としては業務の効率化を図ることが可能だ。

これまでのように、コンビニは「24時間開いている」「24時間店員がいる」という常識は、シンギュラリティによって変化する可能性が大いにあるといえよう。

もう1つは教育環境の変化である。2020年から始まった新型コロナウイルス感染拡大防止策として実施されたオンライン授業が将来、日常化する可能性があるのだ。すでにオンラインによって大阪に居ながら東京の大学の講義が受けられたり、日本に居ながら海外の大学の講義が受けられる例が数多くみられるが、とくに言語の壁を超えて学ぶという点において、自動翻訳の領域に人工知能(AI)が果たす役割は大きく、さらに地理的な制約を超える教育環境の整備が進みそうだ。

このオンライン授業については、言語の壁のみが課題ではない。すでに学習塾や予備校、家庭教師業界において、採用するスクールもあるが、AI(人工知能)による双方向の学習システムが構築されているからこそできる教育方法だろう。オンライン授業を受けている生徒の顔の向きや表情、視線の動きとを分析し、授業の満足度や成績との因果関係を把握できる仕組みとしてAI(人工知能)が活用されているのだ。

自動翻訳や学習効果への人工知能(AI)の貢献は始まったばかりではあるものの、急速な進化が見込まれており、シンギュラリティの到来は教育環境を大きく変える可能性がある。しかし、そうなると学生同士のつながりが希薄になり、社会に出てからの人間関係の構築に影響が出るおそれがあるだろう。便利であればいい、というものでもないのだ。

人工知能(AI)の発展でビジネスの可能性とともに格差は広がる

人工知能(AI)の発展は、貧富の格差を拡大させる懸念もある。ビジネスにおいて人工知能(AI)へ投資できるのは大企業が中心で、中小企業が投資するには限界があるだろう。ロボット警備や無人コンビニなどは大企業でなければ導入は難しい。結果として大企業と中小企業の業績格差はますます広がり、従業員の給与にも格差が生じる可能性がある。

さらに単純作業の仕事ほど自動化しやすいため、低時給のパート・アルバイトのシフトが減り、人間でなければできないエキスパート職は正規雇用が多いので、給与はベースアップで安定して上がることになる。そう考えると非正規雇用の人にとって、シンギュラリティの到来による影響は決して他人事ではないことがわかる。総務省は、人工知能(AI)の利活用が望ましい分野として下記のようなデータを公表している。

▽人工知能(AI)の利活用が望ましいとされている分野

▽人工知能(AI)の利活用が望ましいとされている分野トップ5

・生体情報や生活習慣、病歴、遺伝等と連動した、健康状態や病気発症の予兆の高度な診断:81. 5%
・路線バスやタクシー等の高度な自動運転:81. 5%
・渋滞情報や患者受入可能な診療科情報等と連動した、緊急車両の最適搬送ルートの高度な設定:77. 8%
・道路や鉄道などの混雑状況等と連動した、交通手段間での高度な利用者融通や増発対応:74. 1%
・監視カメラ映像や不審者目撃情報等と連動した、犯罪発生の予兆の高度な分析:70. 4%

 引用元:総務省「平成28年版情報通信白書第1部第4章第2節より

上位4位までは医療や交通分野での利活用が望ましいという結果になっている。これらの職業が将来人工知能(AI)にとって代わられる可能性がある。

人工知能(AI)との共存のために

これからの社会は人間が人工知能(AI)と共存していかなければならない。そのために必要なのが人工知能(AI)を使いこなせるスキルと仕事や投資に生かせる知見の拡充である。

人工知能(AI)を「使う」ためのスキルを磨こう

人工知能(AI)を使うためのスキルを磨くには、AI講座で学ぶ方法がある。有料の講座は料金が数百円から数十万円までまちまちなので、講義内容と料金をよく精査してから申し込む必要がある。Googleなどが公開している無料の講座もあるので、基礎を学びたいなら3日程度で習得できる。受講方法はオンラインと対面式があるので、自分が学びやすいと思うほうを選ぶとよいだろう。

2021年の時点では、人間がプログラミングを行って人工知能(AI)を活用するという意味で、まだ人間が上位にいるといえる。人工知能(AI)を有益なパートナーにするためにも、まずは無料の講座で基礎を学ぶことから始めてはどうだろうか。

職業と別に投資などへの学びと知見の拡充も重要

人工知能(AI)をビジネスへ取り入れて発展させることは、ブルー・オーシャン(競争相手のいない未開拓の市場)的な側面もある。人工知能(AI)によってビジネスや職業の現在の構造は変わってしまうかもしれない。シンギュラリティが起きる未来を想定すれば、継続した学びと、1つの職にとらわれないスキルや広い視野を持つことが必要だ。

仕事とは別に、投資で資産を殖やす方法をいまから学んでおくべきだ。証券業界はロボットアドバイザーなどで人工知能(AI)を積極的に活用している。ポートフォリオの構築から、リバランス、売買のタイミングまですべて人工知能(AI)が判断する。相場の流れに一喜一憂して売買のタイミングを誤る人間の弱点をカバーするには、人工知能(AI)の冷静な判断を取り入れるのは有効な方法といえるだろう。

まとめ:シンギュラリティ到達前に、さらなる人的資本への投資が求められる

人工知能(AI)の発展は生活の利便性向上というメリットをもたらす半面、人工知能(AI)が人間の能力を超えるシンギュラリティによる負の問題を生じさせる。シンギュラリティによる、人工知能(AI)が社会を席巻するような状況は避けなければならない。

ビジネスパーソンとしては、今後も金融だけでなく自身の学びなど人的資本を増強させるための投資が必要になる。人工知能(AI)が影響を及ぼすテーマ、業種は拡大しており、その技術とトレンドを理解しておくことは、次の投資分野を考えるうえで重要だ。あらゆる分野で活用される人工知能(AI)を使いこなすために、関連分野のスキルと知見を深めることが求められる。

丸山優太郎
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。おもに企業系サイトで執筆。金融・経済・不動産系記事を中心に、社会情勢や経済動向を分析したトレンド記事を発信している。