相模原で始まったリニア車両基地整備 森を切って大雨に耐えられるの? 「安全を残したい」反対する地権者

相模原で始まったリニア車両基地整備 森を切って大雨に耐えられるの? 社会

相模原で始まったリニア車両基地整備 森を切って大雨に耐えられるの? 「安全を残したい」反対する地権者(東京新聞 2025年1月14日 06時00分)

2024年末、リニア中央新幹線の関東車両基地(相模原市緑区)の建設工事が着工した。土地を売り渡さず反対運動をしている地権者の男性がいる。地元では整備計画を受け入れて地域振興に役立てようとする動きが進んでおり、表立って反対を掲げる住民は少ない。巨大事業に声を上げ続ける理由を聞いた。(中川紘希)

「リニア事業が地域のためになると思えない」

「リニア事業が地域のためになると思えない。着工しても投げ出すわけにはいかない」。事業予定地に約4000平方メートル以上の山林を所有する鳥屋(とや)地区の栗原晟(あきら)さん(79)は「こちら特報部」の取材に答えた。

車両基地は車両の留置、検査、整備などを行う施設。JR東海は、集落の上にある山や谷約100ヘクタールの用地内で東京ドーム約13個分にあたる約60ヘクタールを造成する予定。そこで約420万立方メートルの土を削り、約370万立方メートルの土を盛って平らにし、全長約2キロ、最大幅約500メートルの基地を整備する方針だ。

残土50万立方メートルは搬出先を検討している。盛り土は、地形や地質を調査した上で設計し、締め固めや排水設備の設置などをして安全性を確保する。

30年に1度の大雨でも機能する調整池も計画

ただ栗原さんは、森林の伐採により保水能力が失われ、洪水などの災害が悪化することを懸念する。2019年の台風19号の際、周辺で河川氾濫や住宅の浸水が起きた。JR東海は神奈川県の基準に基づき30年に1度の大雨でも機能を維持できる調整池を整備し容量の拡大も計画しているが、栗原さんは「近年激甚化する災害に耐えられないのでは」と語る。また、消雪設備などにより二酸化炭素(CO2)の年間1万2200トンの排出を予測していることも問題視している。

車両基地は、静岡工区の着工を認めなかった川勝平太・静岡県知事(当時)が2022年に「用地買収が進んでいない」と突然横やりを入れて話題になった。今回の造成の工期は2027年9月まで。建物などの建設も平行して行うというが全体の終了時期は未定。完成までの道のりは長そうだ。

「不安でも反対の態度を示してくれる人は…」

栗原さんは「住民も不安を感じているが反対の態度を明確に示してくれる人は少ない」と嘆く。そんな中で市民団体「リニア新幹線を考える相模原連絡会」は栗原さんを支援。事業予定地の山林を借りて自然と親しむ拠点「森カフェ」の整備を進めている。栗原さんは「活用してもらうことで自然は財産だと感じるようになった」と説明。故郷への思いを強くしている。

一方、地元では事業を受け入れる方向で検討が進む。自治会長らは、事業の地元調整を担いつつ、工事の安全確保や地域振興を図るための委員会を設置している。榎田達雄委員長(75)は「一部で反対の声はあるが、総意として事業に理解を示している。人口減が進む中で地域振興への期待もあり、事業者や行政と協議を進めたい」と話す。

JR東海職員は用地買収の説得に来るたび

栗原さんの自宅には、JR東海の職員が数カ月に1度、用地買収の説得に訪れるという。以前は「(反対の)考えに変わりはありませんか」と聞いてきたが、最近は「あなたが売らないと困る人がいます」などと言われるようになった。

栗原さんは「買収を急ぎたくて攻め方を変えてきた」とみる。ただ気持ちは変わらない。「鳥屋に安全を残したい。工事はどんどん進むがまだ諦めたくない」

車両基地工事の課題を調べる日本科学者会議長野支部の桂川雅信幹事は「山林を伐採すれば降雨時の川への流出量は増え、洪水のリスクは高まる。雨で盛り土内の地下水位が上昇し不安定化する懸念もある」と説明。「車両基地は集落の頭上に整備され後世に残るものだ。住民が慎重に是非を考えるべきだ」と話した。