<社説>避難所のあり方 生命と尊厳守る環境に(北海道新聞 2024年2月22日 5:00)
能登半島地震の被害が集中した石川県内の避難所には、なお多くの人たちが身を寄せている。仮設住宅の入居は始まったばかりだ。避難者を支える取り組みが引き続き重要になる。
気になるのが、避難所の生活環境である。地震発生から50日が過ぎたが、今も不衛生なトイレ、寒さ、十分ではない食事に多くの人が我慢を強いられている。長引く断水に加え、道路が寸断され、港の多くが使えず物資が届けにくい事情があるにせよ、過酷な状況を見過ごせない。
政府は先月、被災者支援に予備費から1500億円超を支出することを閣議決定した。避難所にも十分な額を充てて環境改善を急ぐとともに、今後も支援の手を緩めずに避難者の生活の質を高めなければならない。
阪神大震災や東日本大震災でも、避難生活の環境の悪さが災害関連死の大きな要因となった。なのに改善されていないのはなぜなのか。検証が必要だ。
日本列島は地震や噴火、豪雨などから逃れられない立地にある。被災リスクが常にある以上、頼みの綱となる避難所の生活環境が劣悪なままでいいわけがない。
難民や被災者が尊厳を保って生きられるようにと国際赤十字などは「スフィア基準」を定める。避難所の1人当たりの居住空間は3・5平方メートル(約2畳分)、トイレは20人に一つの割合で設置―といった目安が示されている。海外の避難所の多くで使われているという。日本でも取り入れるべきだろう。
避難者を守るキーワードはトイレ、キッチン、ベッドの頭文字をつなげた「TKB」だ。暖かさの「W」が加わることもある。長野県は、災害時に洋式の快適なトイレを調達できるよう、県内のレンタル会社に購入費の一部を補助するといった「避難所TKB環境向上プロジェクト」に取り組んできた。
日本海溝・千島海溝沿いで巨大地震が起これば道内でも甚大な被害が出ると想定されている。災害発生後すぐにTKB+Wを満たした避難所を設けるには、日ごろの準備が欠かせない。支援物資が届くまでに時間がかかる恐れのある地域では、多めの備蓄を考えるべきだろう。
避難所には女性スタッフも十分に配置し、女性の安心安全に配慮した運営を図らねばならない。避難者の生命と尊厳を守る意識を常に持つことが大切だ。