銃乱射多発の米国と日本の価値観 古賀茂明

米国の店頭のライフル銃コーナー 社会

銃乱射多発の米国と日本の価値観 古賀茂明(AERAdot. 2023/04/04 06:00)

「米銃乱射今年に入り130件、死者9999人、うち子供404人」。

3月29日朝のNHKワールドニュースで放送された英BBCニュースで見た数字だ。

米テネシー州ナッシュビルの小学校で児童ら6人が死亡した3月27日の銃乱射事件を伝える報道の関連で紹介された。

米国の銃乱射事件の数が多いのは有名だが、具体的数字を見るとあらためてその異常さに驚く。この数字は、「今年に入って」のものだ。計算すると、4人以上が死傷する銃乱射事件が毎日1件以上起きて、毎日銃で110人が殺され、18歳未満の子供が毎日4人以上亡くなっていることになる。別のBBCニュースによれば、学校で起きた銃乱射はナッシュビルが今年13件目だった。

数字自体驚きだが、銃規制をどの程度強化するかという議論に明け暮れているうちにまた次の乱射事件が起きるのが常態化しているのを見るとさらに驚く。

バイデン大統領は、「assault rifle」を禁止する法案の可決を議会に求めたそうだが、これは軍事用の自動小銃または半自動式ライフルのことだ。銃を持つことが憲法上認められた権利だからこんなものまで許されているそうだ。

つまり、自分の身を守るためには、相手を殺すぞと威嚇して良いと考える国なのだ。その是非はともかく、少なくとも私はそんな「価値観」は共有できない。ましてや、全米ライフル協会によるロビーイングで銃規制強化ができないと聞けば、なおさらだ。

日本政府は二言目には、「日米は価値観を共有する同盟国だ」と強調する。だが、米国の安全保障の考え方は、銃の所持を権利だと認める考え方と共通している。自らを守るためには、相手の攻撃を止めさせるに足る威嚇が必要、故に高い殺傷力を持つ武器を持つべきだと発展して行く抑止力の考え方だ。日本も中国を脅すのに十分な敵基地攻撃能力を持つ必要があり、それは自衛権の範囲だという考え方になる。

これは、個人が殺傷力の高い武器を所有する権利があるという考え方と瓜二つではないか。その権利を認める代償として、毎日多くの犠牲者が出ても仕方ないとする米国の考え方は、自衛権の先にある戦争で、多大な犠牲者が出ても仕方ないという考え方につながる。さらに、銃規制にはライフル協会が障害となり、軍拡と戦争の抑止には、武器産業という巨大な利権産業が立ちはだかるという構造も良く似ている。

私は、平和主義を至高の価値と掲げる日本が、武器の呪縛から逃れられない米国と「価値観を共有する」ことはあり得ないと考える。共有するのは、「民主主義」「法の支配」「自由」などだというが、「平和」や「人の命」について全く異なる考え方を持った国と安易に「価値観を共有する」と言ってはならない。外交上の「リップサービス」ならまだしも、自民党は、「心の底から」米国と一心同体の考え方のように見える。それは、極めて危険な思想だ。

他国と共有すべき価値観とは、「平和」と「国民、さらには世界市民の幸福最優先」ではないのか。幸福度ランキング上位の北欧諸国などとはそうした価値観を共有できるだろうが、米国はそうした価値観を持つとは到底思えない。皆さんはどうお考えだろうか。

古賀茂明(こが・しげあき)
古賀茂明政策ラボ代表。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。自身が企画プロデューサーを務めた映画『妖怪の孫』の原案『分断と凋落の日本』(講談社)が4月発売予定

※週刊朝日  2023年4月14日号