<社説>防衛力強化の国会論戦 「大転換」説明せぬ無責任…毎日新聞

朝霞駐屯地で2016年10月撮影 政治・経済

防衛力強化の国会論戦 「大転換」説明せぬ無責任(毎日新聞 2023/4/3)

防衛政策の大転換であるにもかかわらず、懸念に正面から答えないまま、既成事実化しようとしている。岸田文雄首相の姿勢は極めて無責任だ。

過去最大となる6兆7880億円の防衛費を含む、2023年度予算が成立した。政府は、昨年改定した国家安全保障戦略など安保3文書に基づき、関連予算を27年度に国内総生産(GDP)比2%へ倍増させる計画だ。

台湾海峡情勢の不安定化など、日本を取り巻く安保環境は厳しさを増している。

ところが首相は、国会審議で、防衛力のあり方について説明を尽くそうとしなかった。3文書などを読み上げるだけで、質問にまともに答えない場面も目立った。

相手国のミサイル基地などをたたく「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有は、戦後堅持してきた専守防衛との整合性が問われる。米軍に「矛」としての打撃力を頼り、自衛隊は「盾」として国内の守りに徹してきた役割分担が変わりかねない。

米軍との一体化が加速すれば、米中対立に巻き込まれるリスクも高まる。首相は「米国の打撃力に完全に依存することはなくなる」と述べる一方、反撃能力は「国民を守る盾のための能力だ」と強弁した。

反撃能力の行使は、国際法で禁じられた先制攻撃とみなされる恐れがある。だが政府は、具体的な事例を示すことさえ拒否した。

2000億円超を投じて導入する米国製ミサイル「トマホーク」をどのように使うのかも、明らかにしていない。

防衛費増額の裏付けとなる財源の確保策も曖昧だ。GDP比2%目標に向けた増税の時期は示されていない。国有財産の売却益なども合わせて賄うというが、安定的な財源には程遠い。

多くの疑問は解消されていない。予算成立をもって、白紙委任されたかのように首相がふるまうことは許されない。

野党側の追及も不十分だ。重大な政策変更について、徹底的に検証することが求められる。

国民の安全を守るため、外交・経済なども含めた総合戦略をどう描くのか。与野党が国会で議論を深めなければならない。