欧州最高の”知の巨人”が語る「日本復活への3条件」、<研究費の増額><若者の創造性の発揚><異論への称賛>

「世界最高の知性」の一人と言われるジャック・アタリ氏 科学・技術

欧州最高の”知の巨人”が語る「日本復活への3条件」、「研究費の増額」「若者の創造性の発揚」「異論への称賛」(東洋経済ONLINE 2023/03/21 13:30)

ジャック・アタリ : 経済学者/思想家

「世界最高の知性」の一人と言われるジャック・アタリ氏。「ソ連崩壊」から「ドナルド・トランプ誕生」まで数々の歴史的出来事を予言してきた彼は、国際競争力が落ちる日本に“今こそ必要なものが3つある”と言います。

岐路に立つ日本は、いったいどこへ向かうべきなのか。『2035年の世界地図――失われる民主主義 破裂する資本主義』に収録されたアタリ氏の新たな予言を特別に公開する。

テクノロジーよりも、人間への「教育」

――ソーシャルメディアやデジタル・プラットフォームが、特にパンデミックやロシアのウクライナ侵攻の際に果たした役割をどうお考えですか。民主主義への影響について、あなたは楽観的でしょうか。あるいは悲観的な考えをお持ちでしょうか。

ジャック・アタリ:私は、楽観的です。もちろんフェイクニュースが沢山あって、誹謗中傷も多く、私も多くの公人と同様に被害者になることが非常によくあります。でも、私はかなり楽観的です。なぜなら「透明性が勝つ」と思うからです。

イランで起きたことを見てください。ロシアで起きたことを見てください。たとえ独裁者がしばらくの間勝利したとしても、新しいテクノロジーによってもたらされる透明性は、より自由で、より民主的な方向へと推進してくれるのです。

もちろん、もしテクノロジーの悪い側面に勝利させたら、大惨事になります。たしかに悪い側面はあります。悪い点とは、私たちが読書ではなく、画面に長時間向かうことです。若者は勉強よりもビデオゲームに時間を費やしており、これは危険です。テクノロジーには、良い使い方と悪い使い方があります。だからこそ、教育が重要なのです。

近くフランスで出版する私の本は、教育がテーマです。教育こそが未来の鍵であり、新しいテクノロジーの最良の部分を使うことで、メディアや教育を含めた世界全体が大きく変わり、私たちは勝利することができる。一方で、テクノロジーは「最良」だけでなく「最悪」の結果ももたらしうるものです。

今後、教育システムは崩壊する可能性がある

――実際にAIやロボティクスはどんどん普及していくなど、デジタル技術で社会が変容し、混乱も生じる中で、教育や教育システムに一番欠けているのは何だと思いますか。

ジャック・アタリ:私たちは今後、教育システムが崩壊しかねない危険に直面することになると思います。

若者はすべてがオンライン上で学べると感じ、若者が教師の言うことに興味を持たなくなる。さらにアフリカやインドなど、多くの国では教育システム自体が、若者たちに何も教えられなくなるでしょう。若い人口が急激に増えているからです。

さらに、システムを利用する人が多すぎるという場合ではなくとも、テクノロジーをより活用することにより、一種のセルフ教育を行う、つまりデジタル機器だけを相手に、一人で学習するといったことも起きてきます。

今後はホログラムやメタバースを通して、さらに後にはバイオテクノロジーなどを通じて、より重要な問題を一人で学んでいくことになるでしょう。最終的に、人々が能力に応じて選別される傾向が極端に強まる。これは悪夢ですが、将来現実のものとなるおそれはあります。

そうならないために、私たちが変えなければならないのは、既存のシステムの長所を生かし、人々が学校でも、家庭でも学ぶ努力をし続けることです。私たちは、人生を通じて学ばなければなりません。教育は若い人だけのものではありません。

私たち一人ひとりが生涯を通じて学ばなければなりません。物事は急速に変化しているからです。私たちは皆、生涯学び続けることになるのです。

しかし、若い人たちは、異なる種類の価値に基づいて学ばなければならないでしょう。

今日、私たちが学んでいる多くのことは、もう必要なくなります。読み書きや計算も学ぶ必要はありません。なぜなら、それは機械がやってくれるからです。しかし、大変多くの他のことを学ばなければなりません。既存のシステムの中からベストを選ぶとしたら、世界で最高の2つは、フィンランドと韓国だと思います。いい面を持っています。

日本がデジタル技術企業の創出で遅れをとる理由

そして、さらにより踏み込んで新しいテクノロジーを、一部は学校で、一部は家庭で活用する必要があります。そして、内容よりも価値観を学ぶことです。内容は常に変化しますから。例えば「人は非暴力的であるべきだ」という価値観を学ばなければなりません。暴力を避ける方法を教える学校を見たことがありませんが、これは将来において間違いなく根本的に重要なことです。

――日本は国際競争力のあるデジタル技術企業の創出において遅れをとっていると思われます。なぜだと思いますか。また、今後日本が追いつくための方法はあるのでしょうか。

ジャック・アタリ:それは、研究にもっとお金をかけることでしょう。そして、若者の創造性です。そして、最も大切なのは、異論を称えることです。大勢順応を称えるのではなく、異論を称え、前例のないことに挑戦することを称えるのです。

グローバルな軍隊の一員ではないことを、「自分らしくありたいこと」を、称えるのです。スタートアップ企業やデジタルの成功は、ルールに従って行動しなければならない、と信じていない人たちによってもたらされています。 

つまり、彼ら彼女らは、「ルールを破らなければならないこと」を理解し始めています。ここにはおそらく、日本社会の文化的要素があるのかもしれません。日本社会が基づいているのは、ルールに反したら称賛されるのではなく、ルールに従って振る舞うということですから。

ジャック・アタリ Jacques Attali
経済学者/思想家
1943年アルジェリア生まれ。経済はもちろん、政治や文化芸術にも造詣が深く、あらゆる主題を網羅した文筆活動を行っている。ソ連の崩壊、金融危機、テロの脅威、ドナルド・トランプ米大統領の誕生などを的中させたことでも知られる。主な著書に『21世紀の歴史――未来の人類から見た世界』『危機とサバイバル――21世紀を生き抜くための〈7つの原則〉』(作品社)、『2030年ジャック・アタリの未来予測――不確実な世の中をサバイブせよ!』『海の歴史』(プレジデント社)など。