ウクライナ戦争で一変した世界 次はどこへ向かうのか

ウクライナ戦争で一変した世界 次はどこへ向かうのか 国際

ウクライナ戦争で一変した世界 次はどこへ向かうのか(Wedge ONLINE 2023年1月17日)

岡崎研究所

2022年12月28日付ワシントン・ポスト紙は「ロシアのウクライナ侵攻は2022年に世界をどう変えたのか」との同紙コラムニストのジョージ・ウィルによる論説を掲載し、ウクライナ戦争の影響で、日独の防衛力強化など、力のバランスは結局ロシアと中国にとって不利になったと論じている。

2022年末の世界は年初と大きく変わった。侵攻時点でプーチンは、隣国のフィンランドとスウェーデンが素早く北大西洋条約機構(NATO)加盟を決定するとは予想できなかっただろう。

プーチンは、ロシアは強力な国家でウクライナは国家ではないことを示そうとしたが、結果は正反対で、ロシアは物質面以上に政治的に劣っていることが明らかになった。その権威主義的文化は停滞、腐敗、事大主義を蔓延させてきたからだ。

プーチン侵攻の他の予想外の影響では、ショルツ独首相は、プーチン侵攻の3日後、防衛費増額を表明した。日本は新国家安全保障戦略を発表し、憲法上の平和主義から再度一歩離れ、純粋に防衛的兵器を越えた防衛支出を拡大する。新たな「反撃」兵器は、1000マイル以上先の中国の標的に到達しうる米国製トマホーク巡航ミサイル数百発を含む。

もし日本がNATO水準の国内総生産(GDP)2%防衛支出を達成すれば、防衛費は世界第3位となる。中欧での出来事が国際秩序を揺るがした結果、中国はより脆弱で、おそらくより抑止可能になる。

2022年、「世界勢力の相関関係」は、ロシアにとっては大幅に不利に、10カ月前に「無制限の」対ロシア協力を表明した中国にとっても不利に変わった。

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2022年を総括するウィルの論説は、彼らしい格調高く巨視的な一品だ。ウクライナ戦争により、長年中立を保ってきたフィンランドとスウェーデンはNATO加盟を決断し、日本とドイツも、それ以前は想定できなかった防衛費増額に動いた。その結果、力のバランスは、ロシアにとっては相当不利に、間接的に影響を受けた中国にとっても不利に変わったという指摘は正しいし、前向きなものとして勇気づけられる。

あえて、いくつかの問いを提起しておこう。まず、ウクライナが払っている多大な犠牲は、そのために必要なものだったのだろうか。フィンランドとスウェーデンのNATO加盟やドイツの防衛費増額については、恐らくそうだろう。

一方、日本にとってはどうか。ロシアのウクライナ侵攻なしでも、日本が安保3文書に示された方向性を打ち出せたかどうかについては、中国による挑戦の重大さとそれへの理解の高まりから言って、おそらく可能だったと思う。ただ、少なくとも、それに対する国内外の理解度と中国による反論の説得度に対しては、相当の影響があったと思われる。

次に、この巨視的な力のバランス変化に関して、防衛費増額はスタートであり、これを実際の抑止力強化に繋げるには、調達、訓練、連携強化等の今後の具体化が必須だ。

いつまでもウクライナ侵攻に「頼っている」わけにはいかない。粘り強い「外交」と戦略的コミュニケーションが不可欠で、弛まぬ努力抜きには力のバランスの変化を生かすことはできない。

なお、この機会に、2023年がどのような年になるかについて述べておきたい。

第一に、これまで以上に紛争と共存する緊張感に満ちた年になるだろう。ウクライナ戦争の出口はいまだ見えない。台湾を巡る緊張が下がる地合いにはない。北朝鮮についても、戦略的構図は抑止を基本としたものに根本的に変化している。この中で、紛争発生を抑止し激化を防ぐための緊張感を持った管理が必要となる。

第二に、来年(2024年)の各種重要選挙に向けた国内政治情勢が国際情勢に影響を与える可能性がある。今年はトルコ大統領選挙を除き重要選挙は限られているが、来年は年初から目白押しだ。1月は台湾総統選挙、2月のインドネシア大統領選挙、3月にロシア大統領選挙、4~5月はインド総選挙、そして11月には米国大統領選挙がある。選挙活動は既に始まっている。これが国際紛争を巡る各国の対応の柔軟性を削ぎ得ることに留意する必要があろう。

この2023年にG7議長国となる日本

第三に、このような難しい年において、日本は主要7カ国(G7)の議長かつ国連安保理非常任理事国として国際社会の主役の一人を務め、その責任は従来以上に大きい。ウクライナ戦争の結果、加盟国が少なく正統性には欠けるが同質性が高く突破力に優れるG7の意義は再評価された。

責任は各種会合主催に留まらない。ウクライナ紛争解決・制裁・復興の舵取りに加え、北朝鮮、台湾を含むアジアの紛争への欧米関与の確保、東南アジア諸国連合(ASEAN、議長国はインドネシア)を含むアジアの同志国との提携強化は重要な課題だ。

今年の多数国間会合は引き続きインド太平洋シフトであり、G20(20カ国・地域)はインド、アジア太平洋経済協力会議(APEC)は米国が議長国だ。中でも、インドの進む方向性が我々にとって親和性の高いものとなるように、舞台裏で十分協力・連携することが重要だろう。