原発政策の大転換 福島事故の教訓を亡き者とし、推進派が密室で決定 「再稼働の促進」「稼働期間の延長」「新型炉への建て替え」

原発の稼働状況2022年8月25日 政治・経済

<社説>原発政策の大転換 福島の教訓忘れた独善だ…北海道新聞

<社説>原発政策の大転換 福島の教訓忘れた独善だ(北海道新聞 12/23 05:00)

岸田文雄政権が原子力発電について「原則40年、最長60年」としてきた運転期間の延長や、次世代炉への建て替えを進める基本方針をとりまとめた。

2011年3月の東京電力福島第1原発事故後、歴代政権は原発依存度を低減する方針を堅持してきた。それを大きく転換し、最大限活用する方向へかじを切る。

政府は脱炭素を加速する必要性や、ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー供給不安などを理由として強調している。

しかし、国会で十分な議論もせず、首相の検討指示からわずか4カ月での決定は拙速にすぎる。

そもそも電源には太陽光など再生可能エネルギーもあるはずだ。電力供給は多面的に実効性を検討すべきなのに、新方針についての科学的根拠も示されていない。

戦後の平和主義を覆す先週の安全保障3文書改定に続く岸田政権の独善と言うほかない。

政府は関連法の改正案を来年の通常国会に提出するというが、原発への国民の不安はなお根強い。

原発はいったん事故を起こせば国民に耐え難い被害をもたらす。安易な原発回帰は認められない。福島の教訓を忘れた新方針の問題点を徹底的に議論すべきだ。

■科学的根拠はどこに

新方針では、原子力規制委員会の審査などで停止した期間は運転期間から除外する。これにより60年を超える運転が可能となる。

原則40年のルールは設備の経年劣化や耐用年数などを踏まえ、旧民主党政権時代に自民、公明両党も合意したものだ。最長60年についてもあくまで例外である。

北海道電力の泊原発をはじめ、福島第1や日本原子力発電の東海第2(茨城県)では、建設当初に原発の寿命を30~40年と記載した資料が見つかっている。

こうした記載などと新方針の整合性をどう説明するのか。自民党の原発推進派らは従来のルールについて「科学的根拠はない」と開き直るが、無責任極まりない。

泊原発の審査は北電の説明不備などで9年以上も続く。新方針では審査期間に比して運転期間が延びるが、その安全性の根拠は明確でない。原発の安易な延命につながらないか、懸念は尽きない。

■結論ありきが色濃い

政策の大転換を決定する過程にも問題が多い。

原案を議論した経済産業省の原子力小委員会は、委員21人の大半を原発推進派が占める。

その上、首相が検討を指示してから新方針の議論を終えるまで、小委員会が開かれたのはわずか5回だった。

加えて、新方針をとりまとめた政府のGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議は原発推進派の産業界の代表らが名を連ね、議論は非公開だった。

国民生活に大きく影響する問題を、推進派を中心に原発利用拡大の結論ありきで、しかも密室で論議を進めたとの批判は免れまい。

これまで首相は建て替えや新増設について、正面からの議論を避けてきた。

7月の参院選前の公開討論会で問われた際も明確に答えなかった。しかし選挙後に検討の指示を出し、駆け足で結論を出した。

大型の国政選挙が当面ない時期を見定めていたのなら、国民を欺いたことにほかならない。

■規制委骨抜きの懸念

原子力規制委の審査が事実上骨抜きにされる恐れも拭えない。

新方針を巡るこれまでの議論で、運転延長については、規制委が審査する前に経産省が「電力安定供給への貢献」などから認定する方向になっているためだ。

経産省は原発政策を所管し、原発立地地域の支援などに取り組んでいる。その立場で運転延長の認定に関与することは、原発の推進と規制が一体だった福島事故前の体制に逆戻りするものだ。

新方針では運転期間について「必要に応じて見直しを行う」とも盛り込み、将来的な上限撤廃に道を残した。

いずれも容認できない。

規制委は運転開始30年後から最大10年ごとの劣化評価を新たに実施し、現行よりはるかに厳しい規制を行うとしている。

だが、経産省がいったん認定した運転延長を規制委が覆せるのかは疑問が残る。

人口減は今後より進む。原発で集中的に発電して国土の隅々に送電する方式は、非効率との指摘もある。長期的には電力会社の重荷になる可能性は小さくない。

原発から出る放射性廃棄物(核のごみ)を巡っては、後志管内寿都町、神恵内村で処分場選定への文献調査が行われているが、建設への見通しは全く立っていない。

原発頼みを加速させる政府の方針転換は、将来に大きな禍根を残す。その自覚が足りなすぎる。

<社説>原発政策の転換 熟議なき「復権」認められぬ…朝日新聞

(社説)原発政策の転換 熟議なき「復権」認められぬ(朝日新聞 2022年12月23日 5時00分)

根本にある難題から目を背け、数々の疑問を置き去りにする。議論はわずか4カ月。広く社会の理解を得ようとする姿勢も乏しい。安全保障に続き、エネルギーでも政策の軸をなし崩しにするのか。

岸田政権が、原発を積極的に活用する新方針をまとめた。再稼働の加速、古い原発の運転延長、新型炉への建て替えが柱だ。福島第一原発事故後の抑制的な姿勢を捨て、「復権」に踏み出そうとしている。到底認められない。撤回し再検討することを求める。

■拙速とすり替え

首相が原発推進策の検討を指示したのは8月下旬だ。重大な政策転換にもかかわらず、直前の参院選では建て替えなどの考えは明示しなかった。そして選挙後に一転、急ピッチで検討を進めた。民主的なやり方とはとても言えない。

新方針は、原発依存の長期化を意味する。原発事故後に掲げられてきた「可能な限り依存度を低減」という政府方針の空文化にもつながる。

問題設定の仕方にも、すり替えや飛躍が目立つ。

8月の指示で首相は「電力需給逼という足元の危機克服」と「GX」(脱炭素化)への対応を原発活用の理由に挙げた。

だが、足元の危機と原発推進は時間軸がかみ合わない。再稼働には必要な手順があり、供給力が急に大きく増えるわけではない。運転延長や建て替えは、効果がでても10年以上先の話だ。実現性も不確かで、急いで決める根拠に乏しい。

政策の優先順位も転倒している。原発推進に熱をあげるが、安定供給と脱炭素化の主軸は国産の再生可能エネルギーのはずだ。政府も主力電源化を掲げている。まず再エネ拡大を徹底的に追求し、それでも不十分なら他の電源でどう補うかを考えるのが筋だ。

■数々の疑問置き去り

新方針の内容そのものにも、多くの疑問がある。

原発は古くなるほど、安全面での不確実性が高まる。「原則40年、最長60年」の運転期間ルールは、福島第一原発の事故後に与野党の合意で導入され、原子力規制委員会が所管する法律にも組み込まれた。

ところが、新方針ではこのルールを経済産業省の所管に移し、規制委の審査期間などの除外を認めて、60年を超える運転に道を開く。議論を避けて長期運転を既成事実化するやり方であり、「推進と規制の分離」をも骨抜きにしかねない。

建て替えは、経済性への不安が強い。新型炉の建設費は膨張が見込まれ、政府は業界の求めに応じて政策的支援を打ち出した。国民負担がいたずらに膨らむことになりかねない。

新方針がうたう「次世代革新炉の開発・建設」も、当面の現実性があるのは、海外では実用化済みの安全装置を従来型に加えた「改良版」だ。安全面の「革新性」は疑わしい。

安全性に関しては、日本には激甚な自然災害が多いことに加え、ウクライナで起きたような軍事攻撃の危険に対処できるかといった懸念もある。

何より根源的なのは、使用済み核燃料や放射性廃棄物の扱いだ。原発に頼る限り、生み出され続ける。しかし、核燃料サイクルや最終処分への道筋は、何十年かけても実現が見えていないのが現状だ。

これらの問いに、新方針は答えていない。不安に乗じて推進の利点ばかり強調し、見切り発車する構図は、先般の安保政策転換とうり二つである。

この4カ月を振り返れば、結論と日程ありきのごり押しだったと言うしかない。

■事故の教訓を土台に

経産省の審議会では、目的のはずのエネルギーの安定供給に原発が具体的にどの程度役立つかすら、精査されなかった。多く時間を費やしたのは、推進を前提にした運転延長や新型炉建設のやり方についてだ。

委員は原発の推進論者が大半で、一部の慎重派が1年ほどかけて国民的な議論を進めるよう求めたが、一蹴された。

原発は、国論を二分してきたテーマである。政策の安定には社会の広い理解が不可欠だ。さまざまな意見に耳を傾けて方策を練る手順を軽んじれば、事故で失った信頼は戻らない。

政府は今後、国民から意見を募り、対話型の説明会も検討するという。だが、ただの「ガス抜き」なら意味がない。

そもそも実のある議論には、原発に利害関係がない人や慎重な人も含め、幅広い分野の識者にもっと参加してもらうことが欠かせない。脱炭素の実現に向けて原発の活用は必須なのかなど、おおもとの位置づけからの多角的な熟議が必要だ。

国会の役割もきわめて大きい。各政党が、主体的に議論を起こしてほしい。

拙速な政策転換は許されない。事故の惨禍から学んだ教訓を思い起こし、将来への責任を果たす道を真剣に考えるべきときである。

<社説>原発政策の転換 福島の教訓を忘れたのか…西日本新聞

(社説)原発政策の転換 福島の教訓を忘れたのか(西日本新聞 2022/12/23 6:00)

原発でひとたび過酷事故が起これば、誰も制御できず、広範囲に取り返しのつかない被害が及ぶ。東京電力福島第1原発の事故を教訓に、日本は原発に頼らない社会を目指してきたはずだ。

クリーンで安価な再生可能エネルギーの普及に世界が取り組む中で、危険性のある原発になぜ固執するのか。国民への説明を欠いたまま時計の針を戻すことは許されない。

政府は脱炭素社会に向けた「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で、将来にわたって原発を積極活用する方針を決めた。

新規制基準への適合審査で遅れている原発の再稼働を加速する。最長60年と定めた原発運転期間の延長を認め、廃炉が決まった原発の建て替えも進めるという。

政府は、昨年まとめた第6次エネルギー基本計画に「可能な限り原発依存度を低減する」と明記した。国会などで原発の新増設や建て替えを問われても「想定していない」と繰り返していた。

それを福島事故前の原発積極活用路線に戻すのが今回の方針である。

岸田文雄首相が原発活用策の検討加速を指示したのは、8月24日のGX実行会議だった。以後、経済産業省の総合資源エネルギー調査会の下で専門家会合が数回開かれた。

委員の大多数は原発推進派で、事務局が提示した原発回帰政策をほぼ追認した。「結論ありき」の検討と言わざるを得ない。

福島県では今なお3万人近くが避難生活を強いられている。原発に対する国民の懸念は根強い。それなのに、わずか4カ月程度の検討で政策を大転換させるとは世論を軽んじている。納得できない。

政府は国民の声を聴いて議論する気がないようだ。方針決定の後に意見を公募しても意味がない。国会で徹底論議を求めたい。

専門家会合では原発から出る放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分などの問題はあまり論じられなかった。

青森県六ケ所村に建設中の使用済み核燃料再処理工場は何度も完成が延期になり、各地の原発には危険な使用済み核燃料がたまり続けている。再処理で取り出したプルトニウムの利用策も詳細には決まっていない。こうした問題の解決こそ急ぐべきである。

そもそも、脱炭素社会の実現やロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー確保問題に乗じる形で、原発活用を進めることに違和感がある。

電源を安定的に確保するのが目的であれば、エネルギー基本計画で主力電源と位置付けた再生エネの一層の導入拡大に道筋をつけるのが先だ。

原発の運転期間延長について、原子力規制委員会の事務局である規制庁と経産省が水面下で情報交換していたことも見過ごせない。規制委の独立性が疑われる事態だ。福島事故が風化してはいないか。政府全体で検証が必要だ。