コロナで「脳が縮み、20年老化」の危険…後遺症の「不都合な真実」がわかってきた

コロナはやはり「風邪」ではない 科学・技術

コロナで「脳が縮み、20年老化」の危険…後遺症の「不都合な真実」がわかってきた(現代ビジネス 2022.12.01)

新型コロナに「再感染」した人は、死亡率や病気のリスクが2〜3倍に急上昇する。米ワシントン大学による研究が、いま世界の医療関係者を騒がせている。ようやく解明が進み始めたコロナ後遺症の恐ろしさについて、前編【コロナ「2回感染」した人は死亡・病気のリスク急上昇…米名門大「衝撃の研究結果」を公開する】に続きお伝えする。

あらゆる病気のリスクが上がる

再感染によってダメージを負うのは、肺や腎臓だけではない。心疾患のリスクや、血栓ができやすくなるリスクも、それぞれ3倍以上まで上昇するという。アメリカの患者支援NPO「ヘルスウォッチUSA」創設者で、医学博士のケビン・カヴァノー氏が論文を読んだうえで指摘する。

いま欧米の医学界では、“long COVID”(長引くコロナ)という概念が盛んに研究されています。コロナウイルスは急性の症状が引いたあとも体内に残るなどして、慢性的な炎症を起こしたり、臓器にダメージを与え続けるのではないか、という仮説が注目されているのです。

たとえば、コロナウイルスは人体の免疫機能を暴走させ、『自己免疫疾患』を引き起こすことがあるのですが、これによって血液の凝固作用が異常をきたす。すると血栓ができやすくなり、血管が詰まりやすくなって心筋梗塞や脳梗塞を招くわけです。コロナ感染・治癒から何ヵ月も経って突然亡くなる人がいるのは、このためだと考えられています。

こうしたリスクは、感染を繰り返すたびに積み重なってゆく。再感染がさまざまな病気のリスクを高めるという知見は、私は納得できるものだと思います」

そのほかにもアルアリー博士らの研究では、再感染者は胃腸疾患のリスクが2.48倍、倦怠感のリスクが2.33倍、筋力低下や関節痛などの骨格筋疾患のリスクが1.64倍に高まることも示されている。まさにコロナ再感染は、ありとあらゆる病気のリスクを上昇させるということだ。

「コロナウイルスは腸内環境、つまり腸の中に住んでいる細菌のマイクロバイオーム(生態系)を変えてしまう、という研究もあります。腸で病原菌を退治する腸内細菌は、免疫においてとても重要な役割を果たしていますから、コロナは『治ったら終わり』ではなく、一度かかると体内の環境を一変させ、長期的なダメージを残す病気だと考えるべきです」(前出・カヴァノー氏)

コロナウイルスが全身の臓器や免疫機能に与えるダメージは、感染を繰り返すたびに蓄積され、より大きくなってゆく。その結果として、死亡率も跳ね上がってしまうことは言うまでもない。

「2回感染した人の死亡率は、1回しか感染していない人の2.17倍でした。さらに、これは感染するたびに上昇していきます」(前出・アルアリー博士)

脳まで壊れていく

加えて、いま多くの人が恐れているのが、コロナ感染が「脳」にも悪影響を与えるのではないかということだ。この研究でも、再感染者は精神疾患を患うリスクが2.14倍に上昇するとのデータが示されている。

「日本でも、コロナが治癒した後に頭がぼんやりする『ブレイン・フォグ』と呼ばれる症状を訴える人や、高齢の患者さんの中には認知機能が低下したり、せん妄という状態になる人が出ています。これらは、まだ原因がはっきりとは分かっていません」(前出・二木氏)

なぜコロナに感染すると認知機能が低下するのかについては、いくつかの仮説が提示されている。ひとつは、コロナウイルスが脳そのものにダメージを与えるというものだ。

イギリスで50~80代を対象として行われた大規模調査では、コロナ感染者の脳をMRI(磁気共鳴撮影装置)などでスキャンし分析した結果、脳の学習機能を司る「灰白質」の厚みが薄くなったり、脳全体が萎縮したりしていることが判明した。前出のカヴァノー氏はこんな知見も紹介する。

コロナウイルスは軽症でも脳細胞に微細な損傷を与えているという研究や、重症になると脳の老化が20年分早まってしまうという研究など、特に今年に入ってから『コロナと脳』に関する発見が世界中で続いています。

イギリスの別の研究では、脳の神経が正しく機能するために欠かせない『ミクログリア』という免疫細胞にコロナウイルスが作用して炎症を起こしており、それがブレイン・フォグの原因になっているのではないかとも言われています」

やはり「風邪」ではない

さまざまな研究を総合すると、コロナが脳に悪影響を与えることは、少なくとも「気のせい」などではないことは間違いない。ましてこれから再感染者が続出するようなことになれば「ブレイン・フォグ」を訴える人は、これまで以上に増えるだろう。

アルアリー博士らの研究は、アメリカ退役軍人省の持つデータ、つまり中高年の白人男性を主なサンプルとしているから、日本人でもまったく同じことが起きるとまでは言い切れない。ただ人種を問わず、高齢になるほど重症化リスクが高いのは明らかなのだから、日本人も再感染を警戒するに越したことはない。

「高齢の人ほど感染やワクチン接種で免疫が得られにくく、また得た免疫が失われるのも早い、つまり免疫を維持しにくい傾向があります。基礎疾患がある人も高齢になるほど増えますから、日本人も今回の研究データをひとつの教訓として、第8波に備えるべきでしょう」(前出・二木氏)

欧米と異なり、日本ではコロナの後遺症や「目に見えない影響」に関する研究や知見はまだそれほど多くない。まして再感染については、事例がこれまで少なかったこともあり、まったく無防備だと言わざるを得ない。

長らく続いたコロナ禍への疲れもあって、世間での感染対策は緩みつつあるが、残念ながらパンデミックはまだ続きそうだ。アルアリー博士らの調査が明らかにした「コロナは風邪ではない」という「不都合な真実」を肝に銘じて、この冬も引き続き警戒を怠らないようにしたい。

「週刊現代」2022年12月3日号より