「モノづくり」で栄光を勝ち取った国・日本が、いよいよ「危機的な状況に陥っている」ワケ

「モノづくり」日本、いよいよ危機的な状況に 政治・経済

「モノづくり」で栄光を勝ち取った国・日本が、いよいよ「危機的な状況に陥っている」ワケ(現代ビジネス 2022.11.07)

真壁昭夫 多摩大学特別招聘教授

企業の下方修正

足元で、わが国経済の先行き不透明感を高める兆候が出始めている。

セラミックコンデンサなどの電子部品や、産業用のロボットを製造する企業が業績予想を下方修正しはじめた。

その根底には、大きく二つの要因がある。

まず、世界全体でスマホやPCの需要が減少し始めた。

もう一つが中国の景気後退リスクが一段と高まっていることだ。

リーマンショック後の世界経済では、スマホのヒットを起爆剤に、新しい需要が創出された。

その上、中国では共産党政権主導で急速に社会と経済のデジタル化が進んだ。

そうした海外での需要創出を追い風に、電子部品や産業用ロボットメーカーの業績は拡大した。

それはわが国の景気回復に大きく寄与した。

そうした経済運営の構造は、大きく変化しつつある。

わが国には、自動車以外に世界的な競争力を誇る最終商品をもつ産業は見当たらない。

足許、車載用半導体の不足によって自動車の生産計画は追加的に下方修正された。

電子部品や産業用機器の需要は一段と減少するリスクが高まっている。

それはわが国経済の先行き不透明感を高める要因だ。

B2B分野で発揮された“モノづくりの底力”

1990年代以降、わが国の産業界では、かつてのソニーの“ウォークマン”のように世界をあっと驚かせるヒット商品の創出が停滞した。

その状況下で、ハイブリッド車が生み出されたことは、自動車産業の国際競争力の向上に寄与した。

それに加えて、産業用の部品、部材、装置の分野でわが国の企業がモノづくりの底力を発揮したことも大きい。

具体的に、スマホやパソコンなどのIT機器に用いられる電子部品や、産業用ロボットなどの分野で本邦企業は世界的な競争力を高めてきた。

電子部品分野で本邦企業は、セラミックなどの高純度素材を自社生産し、模倣困難な製造技術を確立した。

また、産業用ロボットなどの分野では精密な制御を可能にする製造技術が磨かれた。

リーマンショック後、世界各国でスマホがヒットすると、電子部品や産業用機械の需要は急拡大した。

2015年には共産党政権が産業振興・強化策である“中国製造2025”を発表した。

中国のITやファクトリーオートメーション(FA)関連の投資は急速に増加した。

コンデンサや5G通信向けのフィルタ、産業用ロボットなどの需要が追加的に押し上げられた。

中国以外の国や地域でもIoT関連の投資は増えた。

その結果、大手電子部品メーカー等の海外売上比率は拡大した。

それは、国内の設備投資の増加を支え、日本経済の緩やかな景気の持ち直しに無視できない重要な役割を果たした。

しかし、ここにきて世界全体でIT先端分野の需要鈍化は鮮明だ。

スマホ需要は飽和した。

SNS、それを用いた広告、さらにはサブスクなどデジタル分野でのビジネスモデルの成長も鈍化している。

その裏返しとして、わが国の電子部品やメカトロニクス企業の業績予想が下方修正され始めた。

経済成長に不可欠なヒット商品の創出

それに加えて、中国では習近平総書記の一強体制が鮮明だ。

体制強化の政策が優先され、デジタル化など経済運営の効率性向上への取り組みは後回しになる恐れが増している。

先端分野を中心に中国の民間企業の設備投資が伸び悩むことも考えられる。

そうした変化の兆候として、わが国の産業用ロボットなどの需要が下振れ始めたとみるべきだ。

円安によって本邦の輸出関連企業全体でみると足許の業績は底堅さを維持している。

しかし、やや長めの目線で考えると、先行きは楽観できない。

FRBの金融引き締めによって米国の個人消費は減少し、徐々に世界全体が景気後退に向うだろう。

一方、世界的な物価上昇によって国内外で企業のコストプッシュ圧力は強まる可能性が高い。

それが現実のものとなれば、世界は景気後退と物価高止まりの同時進行という、かなり厳しい状況に直面する。

中国経済の成長率低下が鮮明であるため、その後の世界経済の回復は緩慢だろう。

これまでのように本邦企業が中国などの需要を取り込むことは難しくなる。

わが国経済の持ちなおしペースは鈍化せざるを得ない。

逆に言えば、わが国の企業は、自力で、世界の消費者が欲する高付加価値の最終商品を創出しなければならない。

それが難しいと、わが国経済の展開は、一段と海外経済頼みになる。

世界の景気敏感株としての日本株の位置づけもより強まる。

このように考えると、電子部品メーカーなどの業績予想下方修正の意味は重い。

口で言うほど容易なことではないが、企業が成長するためには、新しい発想を実現して需要を創出しなければならない。

イノベーションを目指して先端分野に経営資源を再配分し、新しいビジネスモデルを確立できるか否かが、かつてないほど本邦企業に問われている。

真壁昭夫 多摩大学特別招聘教授
1953年 神奈川県生まれ。76年一橋大学商学部卒業後、 第一勧業銀行に入行。ロンドン大学経営学部大学院、メリル・リンチ社への出向を経て、みずほ総研主席研究員。現在、多摩大学特別招聘教授。行動経済学会常任理事。FP協会評議委員。著書に『日本がギリシャになる日』、『行動経済学入門』など