全国の米軍基地周辺で有機フッ素化合物汚染が頻発 実態暴いた記者ミッチェルさんは嘆く「もっと学んで」

PFASのリスクを訴えるジョン・ミッチェルさん=川崎市で 社会

全国の米軍基地周辺で有機フッ素化合物汚染が頻発 実態暴いた記者ミッチェルさんは嘆く「もっと学んで」(東京新聞 2022年10月30日 14時00分)

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発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFAS)が、全国の米軍基地周辺で相次いで検出されている。沖縄県の深刻な汚染をはじめ、米軍由来とみられる汚染の実態を暴いてきたのは、川崎市在住の英国人記者ジョン・ミッチェルさん(48)。米国の情報公開制度を使い、粘り強く米軍の内部資料を入手してきたジャーナリストは、日本ではリスクがあまり知られていない現状を、「政治とメディアの失態」と指摘する。

◆泡消火剤などに含まれ、発がん性も

「PFASは『永遠の化学物質』と呼ばれています。一部は1000年以上、土壌に残るといわれ、暴露すると体内に長年とどまり続ける」。ミッチェルさんは、PFASの危険性をこう話す。

そのPFAS流出が、神奈川県の米軍基地で相次いでいる。

有機フッ素化合物(PFAS)
PFOSやPFOAなど多くの種類がある。耐熱性に優れ、水や油をはじく性質があり、調理器具のコーティングから空港の泡消火剤までさまざまな用途に利用されている。自然界では分解されず、体内に蓄積されやすく、発がん性など健康被害が指摘されている。国際的に規制が進み、日本でもPFOSは2010年、PFOAは21年に製造・輸入が原則禁止された。近年、沖縄の基地周辺での深刻な汚染が問題化。批判の高まりを受け、国は20年5月、PFOSとPFOAを合わせた「暫定目標値」を1リットルあたり50ナノグラムと設定した。

同県大和市と綾瀬市にまたがる米海軍厚木基地から9月下旬、PFASの一種の「PFOS」などが含まれる泡消火剤が誤って放出され、基地内を流れる蓼川に流れ込んだことが発覚した。その後も、米軍は基地内の調整池にためていた汚染水を蓼川に放流し続けていた。米軍側は日本の暫定目標値以下まで浄化したとするが、周辺自治体には事前に連絡はなかった。

10月6日、県と防衛省は日米地位協定に基づき、同基地に初めて立ち入り調査をしたが、誤作動したとされる設備などは調査できなかったという。

米海軍横須賀基地(同県横須賀市)でも8月下旬、米軍の調査で基地内の生活排水から暫定目標値の172倍のPFOSなどが検出されたことが判明。その後も海に流出しているとみられる。

◆「全く驚かない」 米軍は放射性物質汚染水も流した

相次ぐ米軍からのPFAS流出。でも、ミッチェルさんは「全く驚かない」と話す。

厚木基地からのPFOS放出は今回が初めてではない。ミッチェルさんが入手した米軍の内部資料によれば、2011年6月に厚木基地と三沢基地(青森県)で放射性物質も含む汚染水12万リットル以上を下水道に流していたことが判明している。ミッチェルさんは18年7月、特約契約を結ぶ沖縄タイムスでこの件をスクープとして報じた。「(米軍基地は)これまでも何度も汚染された水を流している」と指摘する。

ミッチェルさんは昨年12月、神奈川県内3つの米軍施設で高濃度のPFASが検出されたことも報じている。これは米軍が18年に調査したもので、厚木基地内の貯油施設でPFASの一種のPFOA1リットルあたり1億8500万ナノグラム▽横浜市内の根岸住宅地区の軍消防署ではPFOS同121億ナノグラム▽同市鶴見区の貯油施設でPFOA同8920万ナノグラム―がそれぞれ検出されていた。

米軍の報告書によると、厚木基地では09~16年に大規模な火災などが少なくとも5件あり、PFASを含む泡消火剤が使われた可能性が高いことも分かったという。

実際、環境省は20年6月に蓼川が合流する引地川から、暫定目標値の4倍以上にあたるPFOSを検出したと発表している。

東京都の米軍横田基地周辺でも高濃度のPFOSとPFOAが検出され、東京都が19年に調査に乗り出した。そのきっかけもミッチェルさんの報道だった。