中国と30年前の日本、バブル崩壊の仕組みは似ているようで違う…今回「とばっちり」を受けるのは日本だ

中国と30年前の日本、バブル崩壊の仕組みは似ているようで違う 政治・経済

中国と30年前の日本、バブル崩壊の仕組みは似ているようで違う…今回「とばっちり」を受けるのは日本だ(現代ビジネス 2023.08.30)

加谷珪一 経済評論家

「恒大集団」に続き、中国の不動産大手「碧桂園(カントリー・ガーデン)」の経営危機が顕在化したことから、中国のバブル崩壊が現実味を帯びてきた。中国のバブルと日本の80年代バブルはよく似ているが相違点もある。中国の事態は日本よりもやっかいである可能性が高く、処理には時間がかかりそうだ。

バブルはなぜ起こったのか

日本のバブル崩壊は、輸出主導型経済から内需主導型経済へのシフトを模索する中で発生した。日本は戦後、安価な労働力を武器に米国など先進国に対する輸出で経済を成長させてきたが、オイルショック以降、日本の成長率が鈍化し始め、80年代に入ると国内では内需主導型経済への転換が模索された。

同じタイミングで、米国は日本メーカーによる輸出攻勢を敵対的行為と見なすようになり、日本に対する激しいバッシングが発生。米国政府は日本に対して米国に過大な輸出をしないよう強く圧力をかけ始めた。

1985年には円の大幅な切り上げを要求し(プラザ合意)、1ドル=250円だった日本円が、わずか2年半で120円台まで上昇するなど日本経済は凄まじい円高に見舞われた。

中曽根政権(当時)は、米国からの圧力を和らげるため、輸出に頼らない産業構造への転換を模索し、本格的な内需主導型経済に舵を切るべく、諮問機関を通じて改革プランを打ち出した(前川レポート)。

結果として日本の内需は大幅に増えたが、余剰となったマネーが不動産や株に集中。不動産価格や株価が異常な水準まで高騰し、80年代末にはバブルが崩壊した。

こうしたマクロ的環境は、今の中国とそっくりである。

日中バブルの共通点と相違点

中国も日本と同様、安価な労働力を武器に輸出を拡大させ、それに伴う国内の設備投資で経済を成長させてきた。だが、中国国内の賃金が上昇したことで、工業製品の輸出競争力が低下。同じタイミングで米国が中国を敵視する戦略に転換したことで、中国の対米輸出が一気に減少した。

事態に対処するため、習近平政権は「双循環経済」を提唱し、輸出主導型経済から内需主導型経済への転換を図ろうとしている。一連の流れは当時の日本とほぼ同じといってよいだろう。

日中の類似はバブル崩壊のきっかけについても言える。80年代の日本では、土地価格があまりにも高騰したことから、庶民が不動産を購入できない、激しい立ち退き要求で家を追い出される(いわゆる地上げ)といった批判が一気に高まり、政府・日銀は世論に配慮するため急ピッチで金利の引き上げを行った。

それでも土地投機が収まらなかったことから、政府はとうとう土地の総量規制に乗り出し、これがバブル崩壊の引き金を引いてしまった。中国も同様で、習近平政権は「家は住むためのもので、投機対象ではない」として、投機の抑制策に乗り出したものの、結果的にこれが今回のバブル崩壊のトリガーとなっている。

これまで国の経済を支えてきた輸出に陰りが見えてきたタイミングで米国から圧力を受けたこと、内需主導型への転換を模索する中でバブルが発生したこと、さらには政府による不動産取引規制が崩壊のきっかけになった可能性が高いことなど、両国の共通点は多い。

このようにマクロ的には多くの共通点が見られるが、ミクロ的には大きな違いがある。もっとも大きいのはバブル崩壊の影響がどの産業セクターに及ぶのかという点だろう。

日本ではバブル崩壊後、もっとも大きな損失を被ったのは不動産投資に資金を提供していた金融セクターである。日本政府は、金融機関における不良債権処理に手間取り、これが失われた30年を招く結果となった。

一方、中国ではバブル崩壊の悪影響が金融セクターに集中しているわけではなく、影響がより広範囲に及ぶ可能性がある。

どこから手を付けていいかわからない中国

中国ではマンション購入の代金支払いが、引き渡し後ではなく前払いとなっていることが多く、日本のデベロッパーと比較すると金融機関への依存度が低い。中国では高度成長が続いていたことから、常に資金不足となっており、デベロッパーは十分な融資を受けられなかったとも解釈できる。

企業間取引においても、期間の長い後払いが多く、デベロッパーが抱えている債務の大半は借入れではなく建設会社などに対する未払い金である。

中国の規制では、マンションを販売した顧客からの前払い金については、銀行の預託口座で保管・管理し、工事代金についても進捗に合わせて支払うことが求められている。

だが現実にはこうした措置が十分に行われておらず、取引先への支払いが滞っている可能性が高い。2022年12月期における恒大集団の負債は約49兆円という巨額なものだが、約35兆円分が取引先に対する未払いとなっている。

支払いを受けていない建設会社は、下請けへの支払いができない状態と考えられ、各社で働く従業員の賃金未払いなども発生している可能性が高い。

代金を支払っても物件を引き渡されない購入者が続出しており、こうした人たちは、銀行へのローン返済を拒否する行為に及んでいる。

このように中国では、バブル崩壊の影響が広範囲に拡大していることから、政府はどこから手をつけてよいか分からない状況と考えられる。

日本の場合、損失のほとんどが金融機関に集中していたにもかかわらず、日本人特有の優柔不断さによって処理に手間取り、30年間の長期不況を招いた。中国の意思決定プロセスは迅速だが、破綻処理のプロセスが日本よりやっかいであることを考えると前途は多難である。

早く中国依存から脱却すべき

筆者は先ほど、内需主導型経済への転換期にバブル崩壊が発生したと述べたが、日本は不良債権処理に手間取ったことで、未だに内需主導型経済への転換を実現できていない。筆者は以前から日本はできるだけ早く内需主導型経済に舵を切り、中国依存度を下げるべきであると主張してきた。

だが、日本の産業構造は依然として輸出中心であり、最大の輸出相手国である中国経済に依存した状況にある(最近話題のインバウンドも形を変えた輸出といえる)。

一方で、政治的に日本と中国は敵対的な関係になっており、台湾問題がこじれた場合、戦争の可能性すら否定できない状況である。不思議なことに中国に対する強硬論を唱える人ほど、製造業の輸出強化を主張していることが多く、世論全般も内需主導型経済へのシフトに消極的だ。

だが、日本の貿易は輸出・輸入とも中国がトップであり、輸出主導型経済を続ければ、必然的に中国を顧客にせざるを得なくなる。

政治的に対立し、戦争のリスクを抱えながら、中国にモノを買ってもらうというのは完璧に矛盾しており、このようなちぐはぐな政策はいつまでも続けられるものではない。

中国のバブル崩壊が本格化した場合、中国経済は長期低迷に入る可能性が高く、結果として日本の中国向け輸出が減少することで製造業の業績悪化が予想される。加えて、中国人の消費に支えられていたインバウンド需要も減る可能性が高く、国内サービス業も悪影響を受ける。

中国のバブル崩壊がどの程度のインパクトになるのか現時点では分からないが、中国との対立を続けるのであれば、日本はできるだけ早く内需主導型経済への転換を進め、中国依存から脱却する必要があるだろう。

(連載<「ガソリン価格200円超え」は目前に…政府が「トリガー条項」発動を決められないワケ>もあわせてお読みください)

加谷珪一(KEIICHI KAYA) 経済評論家

1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネスなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『スタグフレーション』(祥伝社新書)、『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『縮小ニッポンの再興戦略』(マガジンハウス新書)、『戦争の値段』(祥伝社黄金文庫)などがある。