地球は「キノコ」に操られている!? 生き物も天気も…衝撃の事実が分かってきた 「キノコ」の魅惑の世界(サイエンスZERO_NHK)

マツタケ 科学・技術

地球は「キノコ」に操られている!? 生き物も天気も…衝撃の事実が分かってきた 「キノコ」の魅惑の世界(サイエンスZERONHK 2022.08.29)より抜粋

森の中に生えているキノコを見て、植物の仲間だと思っている人もいるかもしれません。しかしキノコは「真菌」と呼ばれるグループに属する、カビなどと同じ菌類です。進化的に見れば、むしろ動物に近い生き物と言えます。

キノコの「分解」能力が地球を変えた

キノコには生態系を支える「分解」と「共生」という2つの大きな役割があります。「分解」は、落ち葉や枯れ木などを土に返す働きのことです。特に重要なのが枯れた樹木の分解。樹木にはみずからを堅く丈夫にする「リグニン」という物質が含まれていますが、この物質を効果的に分解できるのはキノコしかいないとされています。

もしキノコが樹木のリグニンを分解しなかったらどうなるのでしょうか。そのヒントをくれるのが、およそ3億6千万年前に始まった「石炭紀」と呼ばれる時代です。この時代のキノコはまだリグニンを分解する能力がありませんでした。そのため樹木は枯れて倒れても完全には分解されません。倒木は土に返らずたまっていきました。それがこの時代の地層に多く含まれる「石炭」となったのです。

大きな変化が起きたのはおよそ2億9千万年前。この頃、サルノコシカケなどを代表とするリグニンを分解できる「白色腐朽菌」と呼ばれるキノコが登場しました。これによって樹木が土に返るようになったといわれています。さらに、このキノコは樹木から栄養をとって成長します。成長したキノコの菌糸をダニなどの土壌生物が食料とし、樹木の栄養分を含んだフンも土に返るようになりました。こうして枯れた樹木に含まれている栄養が循環し、また新たな樹木が育つというサイクルが出来上がったとされています。

現在の地球でも、もしキノコが樹木を分解できなくなってしまったとしたら、枯れた樹木が地面にたまっていき、森が森として成り立たなくなるかもしれないのです。

「共生」によって生態系と密接に関わる

生態系におけるキノコのもう一つの重要な役割が「共生」です。多くの植物はキノコを含む何らかの菌類と共生関係にあります。中でも有名なのがマツタケとアカマツの共生です。アカマツの根とマツタケの菌糸は地中で結びつき、物質のやりとりを行っています。アカマツは光合成で作った糖類などをマツタケに渡し、マツタケは植物の成長に欠かせない水分と無機塩類をアカマツに渡しています。植物はキノコとの共生関係を失ってしまうと弱ってしまうことから、豊かな森の形成にはキノコの存在が欠かせないことが分かります。

キノコと共生しているのは植物だけではありません。ヒトクチタケというキノコは、カブトゴミムシダマシという昆虫などと共生しています。このキノコは中が空洞になっていて、昆虫が卵から成虫になるまで安心して過ごせるすみかとなります。一方、キノコは、昆虫に胞子を付着させ、胞子を散布してもらうことでメリットを得ているのです。

さらに、キノコと複雑な共生関係を結んでいる生き物にシロアリがいます。日本南西部などに生息するタイワンシロアリは、巣の中でオオシロアリタケというキノコを育てています。シロアリの仲間は樹木を食料としますが、タイワンシロアリは樹木を堅く丈夫にする物質であるリグニンを分解できないため、樹木の栄養分を得ることができません。そこでこのシロアリは、食べた樹木を「偽糞」と呼ばれるフンのような形で巣の中に排出します。オオシロアリタケはこの偽糞に含まれるリグニンを分解し、糖などの栄養を取り込んで成長します。こうして分解された偽糞や偽糞に付着したキノコの菌糸を食べることで、シロアリも栄養を取ることができるのです。

キノコが雨を降らせる!?

多くの植物や動物と強く結びつき生態系にとってなくてはならない存在のキノコですが、その影響力は生き物だけにとどまりません。最新研究で、キノコが天気にまで影響を与えている可能性が分かってきたのです。

空に浮かぶ雲は、大気中の微細な粒子を核として、周りの水蒸気がくっついて凍った氷の粒「氷晶」によって形成されます。これまで、マイナス15℃以下の低い温度でできる雲は、鉱物など無機物が氷晶の核となっていることが分かっていました。しかしマイナス15℃以上になると無機物は氷晶を形成できないため、低い高度でどのような物質が氷晶の核となっているのかは明らかになっていませんでした。

しかし大気中の微生物を研究している近畿大学の牧輝弥教授が2008年に高度500mという高度の低い大気からキノコの菌糸を発見したことで、キノコの胞子が核となっている可能性が出てきました。

そこで牧さんはキノコの細胞が氷晶核になりやすいのかを検証する実験を行いました。キノコの仲間の細胞と鉱物粒子をそれぞれ水に浸したサンプルを用意し、人工的に温度を下げていったところ、マイナス5℃を下回ったところでキノコの細胞のサンプルは一斉に凍りだしました。一方、鉱物粒子のサンプルはこの温度ではほとんど凍りませんでした。キノコの細胞が持つたんぱく質の構造には、周りの水分を連鎖的に凍らせる性質があるため、このような実験結果になったのではないかと牧さんは考えています。

研究を重ねる中で、森林の上空で発生する雨雲はキノコやカビなどがつくったものではないかと牧さんは考えるようになったといいます。

「森林にはキノコやカビが多いので、森林の上空はそういった菌由来の雲ができて雨を降らせているんじゃないかなっていうふうに考えられます。もしかすると、キノコは雲から落ちる水滴によってどんどん生息域を広げていっているのではないかと考えられるので、今後調べていきたいと思います」(牧さん)

地中だけでなく、空にも勢力を伸ばし、自身の分布を拡大しているかもしれないキノコ。だとするとキノコに覆われたこの地球は、まさに“マッシュルームプラネット”という言葉がふさわしいのかも知れません。

【番組概要】
「サイエンスZERO」(NHK Eテレ日曜夜11:30~ 再放送は土曜午前11:10~)
私たちの未来を変えるかもしれない最先端の科学と技術を紹介するとともに、世の中の気になる出来事に科学と技術の視点で切り込む番組。(https://nhk.jp/zero