世界初 小惑星リュウグウ試料から液体の水発見 はやぶさ2 生命と海の起源解明へ

小惑星探査機「はやぶさ2」 科学・技術

世界初 小惑星リュウグウ試料から液体の水発見 はやぶさ2 生命と海の起源解明へ

世界初 小惑星リュウグウ試料から液体の水発見 はやぶさ2 生命と海の起源解明へ(産経新聞 2022/9/23 03:00)

日本の探査機はやぶさ2が持ち帰った小惑星リュウグウの試料が液体の状態の水を含んでいることを、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や東北大などのチームが突き止め、23日付の米科学誌サイエンス電子版で発表した。地球外で採取された試料から、液体の水が発見されたのは世界初。有機物や塩を含む炭酸水で、ほんの一滴だが、地球の生命や水の起源は宇宙から飛来したとする説を補強する大きな意味を持つという。

小惑星リュウグウの試料に含まれていた硫化鉄の結晶。中央やや左の「空孔」(黒い部分)に液体の水が閉じ込められていた

チームによると、水はリュウグウの試料に含まれる大きさ数十マイクロメートル(マイクロは100万分の1)の硫化鉄の結晶に空いた、直径数マイクロメートルの「空孔」と呼ばれる微細な穴状の隙間に、ごくわずかな量が封じ込められていた。数個程度の炭素からなる有機物や塩のほか、二酸化炭素を含んで炭酸水のような状態だった。現時点で、アミノ酸の存在は確認されていない。

この液体について、チームはリュウグウのもととなった「母天体」と呼ばれる天体が形成される過程で、硫化鉄の結晶の内部に閉じ込められたとしている。母天体は、構成する岩石と水の体積がほぼ同じで、非常に水が多かったという。試料の硬さや熱の伝わりやすさ、磁気特性など、試料を測定して得たデータに基づき、リュウグウの成り立ちを世界で初めてコンピューターによるシミュレーションで再現し、突き止めた。

分析を指揮した東北大の中村智樹教授は「見つかった液体の水は、結晶に取り込まれたほんの一滴だが、実に大きな意味がある。塩や有機物を含んでおり、地球の生命や海の起源に直接関わる情報だ」と話した。

生命に欠かせない有機物や水の起源は、地球が46億年前に誕生してから起きたさまざまな現象による化学反応で作られたという説と、宇宙から飛来した隕石などに付着して到来したという説があり、今回の発見は後者の説の補強となる。

今回の分析では、試料の表面から、海中で少しずつ育つテーブルサンゴのような形をした銅と硫黄の結晶も発見されている。母天体で試料が水の中にあり、その環境で形成されたことを示唆しているとみられる。

研究チームのシミュレーションによると、約45億7000万年前の太陽系誕生時に、太陽近くの1000度以上の高温環境でできたちりのような高温形成粒子が、だんだんと太陽系の外側に移動。約200万年後、温度の低い太陽系の外側に散在していた氷などとともに、リュウグウの母天体を形成した。

母天体は太陽系形成から300~500万年後、内部でアルミニウムの原子核が崩壊してマグネシウムに変化する現象で高熱となり、氷が融解。ほぼ同じ体積の水と岩石からなる天体となった。水と岩石の境界で多様な化学反応が起き、水を閉じ込めた硫化鉄の結晶もできた。やがて母天体は冷え、太陽系の内側へ移動したが他の天体と衝突し破壊。その破片が集まってリュウグウとなり、さらに太陽系の内側へ移動したとしている。

リュウグウ試料から炭酸水 液体の水は初めて 「豊富な水の証拠」

リュウグウ試料から炭酸水 液体の水は初めて 「豊富な水の証拠」(毎日新聞 2022/9/23 03:00 最終更新 9/24 05:00)

探査機はやぶさ2が小惑星リュウグウから持ち帰った試料から炭酸水を検出したと、東北大や宇宙航空研究開発機構(JAXA)などの分析チームが22日付の米科学誌サイエンス電子版に発表した。水酸基(OH)や水分子としての水は見つかっていたが、液体の水は初めて。

リュウグウの元になった小惑星(母天体)に豊富な水があった証拠で、地球の水が太古に衝突した小天体からもたらされたとする説を補強する成果だという。

チームは17粒の試料(直径1~8ミリ)を調べ、わずかな水が硫化鉄の結晶の中にある五つの穴(直径1~3マイクロメートル)に閉じ込められているのを発見した。水は塩、有機物のほか、二酸化炭素(CO2)を含んでいた。銅と硫黄でできたサンゴ状の結晶構造も見つかった。この構造は鍾乳洞のような環境で成長してできたとみられ、豊富な水の存在を示す証拠だという。

母天体は気体のCO2をとどめるには小さすぎるため、ドライアイスになっていたとみられる。チームは、母天体が太陽から遠く離れた極低温の環境でできたと結論付けた。

一方、カルシウムとアルミニウムに富む包有物など、1000度以上の高温にさらされた物質も見つかった。これらは太陽の近くの高温のガスから凝縮してできたとされる。太陽系の誕生からまもない時期に、太陽近くの物質が遠く離れた場所へ移動する大規模な物質混合があったことを裏付けた。

チームはこの結果などをもとに、リュウグウの形成過程を推定した。

母天体の直径は約100キロで、太陽系誕生(約46億年前)から約200万年後にできた。約500万年後に内部の温度が50度まで上昇し、大量の水が液体になった。その後、直径が10分の1程度の他の天体が衝突して壊れ、破片が集まってリュウグウができたとみられる。

チームの中村智樹・東北大教授(惑星科学)は「わずか1滴の水だが、リュウグウの母天体内部にたくさんあった水と同じだ。水をたくさん抱えたまま地球に衝突すれば、水や塩、有機物などを直接供給できたことを意味する」と話した。