脱炭素の切り札? 次世代小型炉「SMR」の課題と現状(時事通信 2022年02月28日10時00分)
出力が従来型原発の3分の1に満たない次世代型「小型モジュール炉(SMR)」。クリーン・エネルギーへの移行に重要な役割を担うと期待され、脱炭素社会を目指す多くの主要国が開発資金を投じる。日本でも関心が高まりつつあるが、東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故で懸念が強まった安全面などに課題はないのか。越えるべきハードルや現状について、新技術に詳しい東京大大学院の小宮山涼一准教授(エネルギー戦略)と、慎重論を唱える明治大の勝田忠広教授(原子力政策)に聞いた。
<推進派>再生可能エネルギーとマッチ (小宮山氏)
SMRの開発が進んでいる背景は。
SMRには、大型炉に比べて優位と期待されている特徴がいくつかある。一つは安全性。小型化で冷却が容易になる。例えば、炉心の冷却機能喪失時にも自然冷却が可能になると見込まれている。また、部分ごとに工場生産することで建設期間・費用を圧縮できる可能性がある。日本を含め、国際的に電力自由化が進んでいるが、その流れの中でも投資収益の見通しを立てやすい。
発電に使用する核燃料の量が少なくて済むため、事故時の防災対策重点区域(EPZ)、つまり防災・避難計画を縮小できる可能性もある。国際的に議論が進んでいる最中で不確実だが、期待されている部分だ。EPZが縮小できれば、事業者の安全対策に要する費用負担の軽減や立地地域の方々の安心感向上につながるだろう。
日本では、再生可能エネルギーの「主力電源化」という政策方針が掲げられ、国際的にも「再エネ普及拡大」が優先課題に取り上げられている。近年では「水素の利活用」もうたわれているが、SMRは再エネや水素などとの共生・共存に向いている。日本で研究開発されているSMRに、日本原子力研究開発機構の試験研究炉がある。炉の出力を柔軟に調整できるため、太陽光を利用する発電所の出力が増加した際などに発電量を低下させることが可能だ。発電量低下時、炉の熱源は、水素製造に利用できるとされている。
過去に大きな事故が起きた。SMRは懸念を払拭できるか。
東京電力福島第1原発は炉心溶融を起点として過酷事故に至った。大型炉では、事故が起こって冷却機能が喪失した場合、炉心温度が異常な水準まで高熱になり、熱が除去できなければ炉心溶融が起きる。それを防ぐために非常用発電機を動かすなどして冷却するが、福島第1原発は冷却系統が全てストップしたと報告されている。
SMRは原理上、そうしたことは起きない。大型炉よりも外気に熱を逃がしやすい構造で、外部電源が喪失しても、万一のときでも、自然に冷却がなされ得る。そのような点を踏まえ、安全性が高いと言われている。
普及への課題は。
まず、安全基準や規制の整備だ。小型炉の特徴を踏まえた合理的な安全基準や規制の整備が大事になる。それから経済性の確保。発電単価は出力が大きくなればなるほど下がっていく。出力規模の小さいSMRはどうしても単価が高くならざるを得ず、経済性の点は大型炉の方が優位だ。国際的にも、いかにコストを抑えていくかが非常に重要なポイントと認識されている。量産効果を発揮するためには、十分に大きな市場が不可欠と言われている。
大型炉とはどのくらいのコスト差があるのか。
商業化した例がほとんどないので、実際にコストがどうなるかというのは分からない。ただ、政策的な支援策などが追い風になる可能性はある。
過去の経済産業省の審議会で(SMR開発で先行している)米ニュースケール・パワー社が示した資料では、出力1KW当たり、だいたい5000ドル、おおよそ50万円くらいが目標とされた。いま、足元の発電コストは1KW当たり約40万円なので、それより高めだ。プラスアルファで、追加的安全対策費用などを考慮に入れたものになるだろう。
確定的なことは言えないが、安全基準や規制にSMRの特徴が反映され、大型炉に必要だった安全対策費用が減ることになれば、その分、SMRのコストが改善する可能性はある。
将来的な活用の見通しは。
長期的視点ということであれば、SMRの特徴を踏まえた安全基準や規制が整備され、国際的に多くの商業炉が普及した段階になれば、日本でも大型炉や石炭火力発電所を廃止した跡地に建設することが議論になるかもしれない。世界の動向がキーになってくる。時期は何とも言えないが、経済協力開発機構(OECD)は、2035年に世界のSMR導入量が最大約2000万キロワットに達すると推計している。
日本で原子力を考える順番は、まずは既設原子炉の再稼働。SMRは中長期的に研究開発を進めていくことになるが、福島第1原発事故で原子力に対する信頼感が低下した中、人材の育成という観点からも、魅力的なプロジェクトという肌感覚がある。
原発業界には人材が集まりにくくなっているのか。
原発事故前に比べれば、原子力を志願する学生はやや少なくなっているかな、という気はする。新しい炉を開発するためには、優秀な人材が必要。安全性の観点からも、優秀な人材を維持していくのは重要だ。そうした中、SMRを含む魅力的なプロジェクトを進めていくのは、人材育成・維持にとっても重要だ。個人的には、SMRに魅力を感じるという学生は多いように思う。メーカー関係者と話していても、若手が目を輝かせて取り組んでいると聞く。
今後は再エネのコストが下がり、原発には逆風があるのではないか。
仮に「再生可能エネルギー100%」という話になると、電気料金・コストは上昇するだろう。自然条件に応じて出力が変動してしまうので、調整するためのバッテリーであったり、送電設備の増強であったり、それを受け入れるためのコストが掛かる。再エネの過度な大量導入にはコスト高騰のリスクがある。
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小宮山涼一(こみやま・りょういち)
東京大大学院工学系研究科准教授(エネルギー戦略)。温暖化対策の観点から世界のエネルギー戦略を分析する。SMR試験炉の共同研究にも参加している。
<慎重派>現実を見よ(勝田氏)
SMRのメリットとデメリットをどう考えるか。
CO2を出さないエネルギー源であることが、そもそも原子力を使うメリットだ。その上で、既存炉と比べた場合のメリット・デメリットを考える。小型で受け入れる側の負担も少なく、量産化でコストを下げることができ、投資リスクも低くなるーというのが推進側の主張。熱源としても利用でき、送電網から分離して設置できるということで、寒いへき地が最初の立地ターゲットに上がっている。
デメリットとしてまず考えないといけないのは、既存原発との比較で割高だということ。通常、発電コストは出力の高い方が割安になる。原発は数千億円の建設コストが掛かるが、多額のお金が掛かっても、大量発電できるので元が取れる。小型化すると、いくら量産化するといってもスケールメリットは失われる。
そもそも技術が実証されていない。原子力潜水艦や原子力船、研究炉もあるし、小型化すること自体は難しい話ではないが、商業炉ではハードルが一気に上がる。基本的に、安全性を高めたものでないといけない。テロなどに対するセキュリティーを考えないといけない。この二つを考慮すると、さらにコストが掛かる。その上で、競合する発電施設に勝たないといけない。
安全面で事故の影響が従来炉より少ないとの主張もある。
単純に出力が小さいので、仮に何かあったとしても、環境中に放出される放射性物質が少ないーというだけの話だ。漏えいしない技術や、セキュリティー対策を向上させているという主張もあるが、まだ研究段階。そもそも規制そのものがない。
予算が付くと「実用化を見越している」と考えるかもしれないが、必ずしもそうではなく、「政策的にそういうところも考えています」というメッセージにすぎない場合もある。失敗する可能性もかなりある。技術的にも、コスト的にも、小型炉が世界を席巻することはあり得ない。
実用化は難しいということか。
研究開発者は「小型炉だともっと市街地近くに設置できる」などと主張するが、現実的にはあり得ない。安全性やセキュリティーを考えると難しい。結局、石油や灯油の値段が非常に高く、送電線がないようなへき地にいくつか置けるかもしれないーというような話だ。既存炉との置き換えにはならない。
既存の大型の商業炉はもう行き場がない。新設や増設はなかなか見込めない雰囲気になっている。輸出もペースダウンしている。そうした中、業界として夢を見ようとしているだけなのではないか。研究開発の人たちは、いろんな夢を抱いて「素晴らしいものです」「気候変動対策になります」などと言うが、実態は業界としての生き残り策ではないか。仮に実用化したとしても、へき地での活用に限定され、広く普及することはない。ということは、コストが下がることもない。
化石燃料以外で「不安定な再生可能エネルギーを補えるのは原発しかない」とも言われている。
既に技術が完成されていて、確実に安全というなら、一つの選択肢になるかもしれないが、SMRはまだできていない話だ。実用化するとしてもかなり先で、コストは高い。それほど簡単に、順調に開発が進むとも思わない。小型といっても、既存原発の3分の1くらいの出力で、それなりに大きいものもある。「手軽で、安く、簡単なもの」ではない。
それでもなお、やる需要があるのか。結局、考えるべきは需要。「利用者が本当に電気を欲している」という需要があるなら分かるが、特に原子力の場合は「供給ありき」の印象が強い。
特に問題になるのは、安全性と経済性の関係だ。経済性が良くならないと、どこかで安全性を妥協するかもしれない。安全水準を満たすため、コストはさらに上がるはずだが、経済性を求めるとなると何らかの無理をすることになり、結局、それは危険な話になる。
日本でSMRは選択肢になるか。
送電に困っているため原発を必要としている、というへき地は聞かない。日本で考える場合、福島第1原発の経験があるので、より難しい。事故がなければ、もっと楽観的に「市街地に近いところに設置しても可」となったかもしれないが、幻想は吹き飛んだ。「近くに置けます」というのは、むしろ怖いメッセージだ。一方、へき地では需給バランスが取れない可能性がある。だから矛盾が出てくる。
小型炉はキャッチーでいいイメージがあるが、どうしても社会問題、政治問題、国際問題が絡む。それを加味して考えないといけない。
かなり批判的に見ているようだが。
批判的ではなく、普通にあり得る話。夢を語ることはできるが、今までの原発の流れは、そう簡単ではなかった。「現実的に考えたらこうですよ」という話だ。燃料輸送や使用済み核燃料のこともある。他の発電技術と競争しなければいけないとか、発電コストとか、福島の経験とか、多くの障害があり、より現実的に考えたらこうですよ、ということだ。
もちろん研究開発は夢を持ってやらないといけない。その研究が何かにつながるかもしれないし、少しでも気候変動対策になれば意味があるかもしれない。だが、ほかに対策がないわけではなく、そこまで電力需要が不足しているかというと、そうでもない。
原発業界や脱炭素政策を掲げたい人がSMRを利用しているということか。
政治家であれば、SMRを「夢を語る道具」として扱っても決して悪いとは思わない。ただ、ちゃんと勉強してほしい。福島の事故処理が終わっていないのに推進してはいけないとか、そういう倫理的なことを置いておいたとしても、それなりにSMRの問題点を知った上でないと。無条件に良いというのではなく、リスクも伝える。それこそが福島の経験かもしれない。
原子力発電は、生まれた当初から夢のエネルギーと言われていた。昨今、キャンペーンとしてSMRが大々的に出てきた感じはあるが、常にこういう問題はあった。一見素晴らしい夢の話のようだが、水面下では「このままだと危ない」という原子力業界の焦りのようなものを感じる。
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勝田忠広(かつた・ただひろ)
明治大法学部教授(原子力政策)。使用済み核燃料の管理やプルトニウム処分の問題などを研究する。原子力規制委員会の安全性に関する審査会メンバー。