岸田首相、原発政策を唐突に180度転換 次世代型原発は技術的に未確立、最長60年運転をさらに延長で危険性増大、有事の際には攻撃対象

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<社説>原発新増設検討 福島事故の教訓どこに=北海道新聞=

<社説>原発新増設検討 福島事故の教訓どこに(北海道新聞 08/26 05:00)

岸田文雄首相が原子力発電について、次世代型原子炉の開発を検討するよう関係省庁に指示した。年末にも結論を出すという。

東京電力福島第1原発事故後、原発依存度を可能な限り低減させ新増設や建て替えは想定しないとしてきた歴代政権の方針を転換しようとするものだ。将来も原発を使い続けることにつながる。

原発の過酷な事故は多くの人々の生活を破壊し、賠償や廃炉に膨大な費用が生じる。政府は福島の事故で地震国の日本に原発は適さないという認識に立ったはずだ。

岸田政権は原発が脱炭素に不可欠だとし、ロシアによるウクライナ侵攻で揺らぐエネルギー供給の安定にも資すると強調する。

福島の事故の全容はいまだ解明されていない。国民の不安を解消せぬまま、福島の教訓を踏まえた政府方針を唐突にほごにすることは認められない。

首相は指示を撤回し、エネルギー供給のあり方を国会などで改めて徹底的に議論すべきである。

新増設や建て替えは、昨年改定された国のエネルギー基本計画に記載がない。首相も最近まで「想定しない」と繰り返していた。

ウクライナ危機では、有事の際に原発が攻撃対象になる危険性が指摘されている。

それなのに首相は、脱炭素社会の実現に向けた非公開の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」を2回開いただけで、新たな指示を出した。

政府方針を転換しようとする理由や、これまでの発言との整合性について説明はなく、あまりに無責任と言わざるを得まい。

首相は新規制基準の審査に合格している原発7基を来年夏以降に再稼働させることを目指すほか、最長60年としている運転期間の延長も検討するとした。

合格済みの一部原発では、再稼働の条件になっている地元自治体の同意や避難計画策定が進んでいない。そのため首相は「国が前面に立つ」と踏み込んだ。

だが、そもそも政府が主導してきた福島原発の事故処理作業は完了のめどが立っていない。処理水問題では経済産業省が東電とともに取り組んできたが、地元漁業者の理解を得られないままだ。

そのほか原発を巡っては「核のごみ」の最終処分場など、未解決の問題が山積している。

そうした状況で原発政策の転換を突然打ち出すことは、国民の不信感を一層高めかねない。その認識を首相は著しく欠いている。

<論説>原発政策転換 丁寧な説明を求める=佐賀新聞(共同通信)=

原発政策転換 丁寧な説明を求める(佐賀新聞<共同通信> 2022/08/29 05:15)

政府は将来的な電力の安定供給に向けて次世代型原発の建設、原発の運転期間の延長を検討する方針を打ち出した。合わせて来年以降には、新規制基準に合格している7基を追加で稼働させることも目指すという。正式に決定されれば、原発の新増設やリプレース(建て替え)はしないとしてきた東京電力福島第1原発事故以来の政策を百八十度転換することになる。

自民党は電力需給逼迫を受け、参院選の公約に「安全が確認された原子力の最大限の活用を図る」とは盛り込んでいた。しかし今回は新増設が柱になっており、公約からは大きな飛躍があると言わざるを得ない。

政府は年末までに結論を出す方針というが、拙速は許されない。まずは秋に見込まれる臨時国会で丁寧な説明を求めたい。加えて徹底的な情報公開が不可欠だ。

日本は福島第1原発事故を経験し、その反省から安全確保を最優先し、徐々に原発依存を低減していくことを基本にしてきた。

脱炭素化を達成するための化石燃料使用の抑制、ロシアのウクライナ侵攻による原油、天然ガス相場の高騰など厳しい環境が続いているが、だからといって、原発事故を契機にした基本姿勢をゆるがせにしてはならない。

脱炭素化と安定供給の両立は達成しなくてはならない命題だが、その解決策として原発の積極活用にかじを切るのは安易ではないか。原発には使用済み核燃料の処理など課題が山積しており、その解決が見通せない中で、軸足を原発に移すのは危うい。

原子力規制委員会の審査に合格した原発は17基あるが、このうち東電柏崎刈羽6、7号機(新潟県)など7基は地元同意や安全対策工事の遅れで1回も稼働できていない。岸田文雄首相は「政府が前面に立つ」と強調したが、地元の意向は尊重されなければならない。電力会社や政府への不信感を払拭することが最優先課題だ。

運転期間は原則40年と定められ、規制委が認めれば1回に限り最長20年延長できるルールだが審査に伴う稼働停止を運転期間に算入しないことで実質的に延ばすことを検討するという。

極度の電力需給逼迫に見舞われたり、ウクライナ危機などで世界のエネルギー状況がさらに厳しくなり、天然ガスが安定して確保できなくなったりすれば、延長が一時的に必要になるかもしれない。だが、それはあくまでも例外ととらえるべきで、恒久的な枠組みにしてはならない。

これまで維持してきた「新増設やリプレースはしない」方針を維持していけば、原発はいずれなくなる。この間に効果的な省エネシステムを構築し、太陽光などの再生可能エネルギーを拡大することが国民的コンセンサスに近いのではないか。

原発新増設を打ち出した「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で検討するべき優先課題は、原発回帰ではなく、再生エネの弱点を克服するための官民を挙げた取り組みを促す社会経済改革だ。

太陽光などによる発電を余すところなく活用できるようにするための送電網や蓄電池の技術革新が緊急課題だ。公的資金投入や人材育成に全力を挙げたい。この技術で強みを持てば世界市場でも存在感を高めることができる。

<社説>原発政策の転換 依存の長期化は許されない=朝日新聞=

(社説)原発政策の転換 依存の長期化は許されない(朝日新聞 2022年8月26日 5時00分)

足元の「危機克服」を理由に、長期的な国策を拙速に転換すれば、必ず禍根を残す。考え直すべきだ。

岸田文雄首相が、原発の新増設や建て替えの検討を進める考えを示した。原則40年の運転期間の延長も検討する方針で、「原発回帰」の姿勢が鮮明だ。東京電力福島第一原発の事故以来の大きな政策転換になる。

脱炭素の加速化や、ロシアのウクライナ侵略に伴うエネルギー不安を前に、電力の安定供給策の検討は必要だ。だが、その答えが原発事故の教訓をないがしろにすることであってはならない。原発依存を長引かせ、深める選択はやめるよう求める。

事故の教訓忘れたか

11年前の原発事故は、3基の炉心溶融という未曽有の事態に至り、甚大な被害をもたらした。周辺の住民は故郷を追われ、日本社会全体に深刻な不安が広がった。

今も多くの人が避難を強いられ、賠償も不十分だ。廃炉などの事故処理は、いつ終わるのかの見通しすらたたない。

事故を受けて原発の安全規制は強化された。だが、地震や津波、噴火などが頻発する国土への立地は、他国と比べ高いリスクがつきまとう。

そもそも、日本にとって原発は不完全なシステムだ。高レベルの放射性廃棄物は、放射能が十分に下がるまでに数万~10万年という想像を絶する期間を要するにもかかわらず、最終処分地が決まっていない。

使用済み燃料中のプルトニウムは核兵器の材料になり、国際的に厳しく管理される。日本は減量を国際公約しているが、利用の本命だった高速炉の開発は、巨費をつぎ込んだあげくに頓挫したままである。

苦い経験と山積する課題を直視すれば、即座にゼロにはできないとしても、原発に頼らない社会を着実に実現していくことこそが、合理的かつ現実的な選択である。

政府も、依存度の低減をうたい、新増設は「想定していない」と述べてきたのは、そうした判断を重視してきたからではないのか。

首相は今回の検討指示にあたり、事故の教訓や原発の難点にどこまで真摯に向き合ったのか疑わしい。政策転換を正当化する根拠は極めて薄弱だ。

疑問ある決定過程

議論の進め方も問題だ。

首相が今回の発言をしたのは、脱炭素を議論するGX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議の22回会合だ。7月の初回に、首相が政治判断が必要な項目明示を求め、経済産業省などがまとめた。

この会議は、原発を推進する産業界や電力会社の幹部も加わり、議論は非公開だ。従来のエネルギー基本計画の有識者会議が公開で議論しているのに比べ、多様性、透明性に乏しい。国民生活に深く関わる政策の基本路線をこの場で転換しようというのは、不適切だ。

首相は7月の参院選前には、原発の新増設への考えを尋ねられても答えていなかった。選挙が終わるや「検討」を始め、年末に結論を出すというのでは、およそ民主的決定とはいいがたい。

しかも、新増設するという原発に、技術的裏付けはまだない。高速炉はもとより、小型炉も開発途上だ。既存炉の安全性を高めるという「次世代革新炉」の姿も明確ではない。首相も「実現に時間を要するものも含まれる」と認める。

経済性の面でも、経産省の直近の試算でさえ、2030年に新設の原発は事業用の太陽光発電よりも割高になる。新型炉には開発初期のリスクもある。

安全規制ゆるがすな

こうした不確実な技術を、当面の安定供給への対応策として持ち出すのは、国民に対するごまかしにほかならない。原発依存に逃げ、世界が力を入れる再生可能エネルギーの技術開発に後れをとれば、国際競争力をさらにそぐだろう。

首相が指示した検討項目には、原発の運転期間の延長や、再稼働への関係者の「総力の結集」も挙げられた。再稼働に向けては、国が「前面に立ってあらゆる対応をとる」という。

電力事業者が原子力規制委員会の指摘をきちんと履行するよう促す、あるいは住民避難のあり方に国も責任を持ち、事故のリスクへの疑問にも正面から答えるといったことならば、理解できる面もある。

だが、科学的に厳格な検討や審査、地元の合意手順が必要な事項に、政権が圧力をかけることは許されない。原発のある自治体の判断や規制委の独立性をゆるがせにしないことも、事故の重要な教訓である。

今回の転換の名分にされたロシアのウクライナ侵略では、原発への武力攻撃のリスクも顕在化した。ロシアの行為が許されないのは当然だが、狭い国土で原発に依存し続ける危険性は減るどころか増えているのが現実である。安易な「原発回帰」が解ではないのは明らかだ。