【参考・引用・出典 記事】
台風でも安定的に発電できる風力発電機「垂直軸型マグナス式風力発電機」(知識図鑑 2022.01.14)
「垂直軸型マグナス式風力発電機」の概要
「垂直軸型マグナス式風力発電機」は、全方向の風向きに対応できる“垂直軸型”の風力発電機。円筒を回転させることで発生するマグナス力(物体を回転させた際に風向きに対して垂直方向に働く力)を活用して発電する。
発電機にはプロペラがなく、従来では破損の可能性があり発電に課題のあった台風並みの強風(風速40m/秒)まで安定的に発電し電力供給が可能。
また、回転速度が緩やかなため、騒音やバードストライクといった環境負荷を抑える構造になっている。今後、台風が頻繁に襲来する地域や洋上風力発電の主力となることが期待されている。
垂直軸型マグナス式風力発電機を開発したベンチャー企業は、東京にある「チャレナジー」。清水敦史さんが社長をつとめる。
清水敦史 (しみずあつし)
東京大学大学院修士課程を修了後、大手電機メーカーにてFA機器の研究開発に従事。その間独力で「垂直軸型マグナス風力発電機」を発明。2014年10月に株式会社チャレナジーを創業し、代表取締役CEOに就任。台風でも発電できる独創的なアイデアは、第1回 テックプラングランプリ(2014年3月)最優秀賞、TOKYO STARTUP GATEWAY 2014(2014年11月)ファイナリスト、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)「シード期の研究開発型ベンチャー」「スタートアップイノベーター」など数々のコンテストで受賞、助成プログラムとして採択されている。
マグナス効果を利用 試行錯誤の末に
マグナス効果とは、空気の流れ(風)の中に回転する円筒や球を置いたときに、流れの方向に対して垂直方向の力(揚力)が発生する現象のこと。
例えば、野球や卓球、サッカーなどの球技で、球を放出するときに回転を加えると、曲がったりあるいは浮き上がったりするが、これはマグナス効果によるものだ。
垂直軸型マグナス風力発電機は、モーターにより円筒を駆動させマグナス力を発生させる。強風下であっても円筒の回転数を調整すれば、風車が暴走することなく、発電し続けることができる。万一の場合には、円筒の回転を止めてしまえばマグナス力がゼロになり、ブレーキなどを使わずとも確実に運転を止めることもできる。
しかし、この方式には致命的ともいえる問題がある。
マグナス力の向きは、風向きと円筒の回転方向で決まる。単純に円筒を風車に複数個取り付け、時計回りに回して風車全体の回転で発電しようとすると、円筒が風上にあるときに発生するマグナス力は風車を時計回りに回す方向になる。風車が回転して円筒が風下に移動してもマグナス力の向きは同じなので、今度は風車を反時計回りに回す方向になり、相殺して風車の回転が止まってしまう。
実は、これこそが垂直軸型マグナス風車がこれまで実用化されていない理由であり、この問題を克服しようとする特許が世界中で出願されているが、いずれも実用化には至っていない。
清水氏は、反対方向に回る2本の円筒を1組として据え付け、風に当たる円筒は常に同じ回転方向になる(風下側の円筒は風上側円筒の影に隠れる)方式を発明した。しかし、いざコンピューターシミュレーションしてみたところ、発電効率が絶望的に低いことが分かった。
それまでに考えた方式をいったん白紙に戻して、・・・。ついに新しいアイデアに到達。
そして、チャレナジーの台風発電プロジェクトは風車の研究開発を進めながら実証実験へ。2016年、沖縄県南城市に定格出力1kWのフィールドテスト機を設置し、発電量の変化や耐久性をテストしている。
特徴
風速 4m/秒~40m/秒
木の葉や小枝が動くほどの風速4m/秒~風速40m/秒まで対応し様々な風力で発電でき、台風のような強風まで、安定的に電力を生み出せる。既存のプロペラ式風力発電機の稼働限界は風速25m/秒。
360° あらゆる方向の風に対応
従来の風力発電機では、プロペラを風に向ける必要があったが、本発電機は垂直軸型のため、あらゆる風向きに対応する。
台風のような暴風にも耐える
プロペラに比べて低コストで、強風によりプロペラが折れるといったケースが少ないのも特徴で、最大風速70m/秒(台風のような暴風)の風に耐えられるように設計されている。
周辺環境への配慮
・鳥が視認できるほどの低速回転 ⇒ 鳥がぶつかりにくい
・風切り音が起きにくい低速回転 ⇒ 騒音が起きにくい
・常に一番高い位置に避雷器がある構造 ⇒ 雷が落ちにくい