「消費税減税」は財政破綻を招くというウソ 国民の不安をあおる「自民党」と「財務省」の主張にだまされるな…古賀茂明

「消費税減税」は財政破綻を招くというウソ 国民の不安をあおる「自民党」と「財務省」の主張にだまされるな 政治・経済

「消費税減税」は財政破綻を招くというウソ 国民の不安をあおる「自民党」と「財務省」の主張にだまされるな 古賀茂明(AERA 2025/06/10/ 06:00)

古賀茂明

減税批判は極めて多岐にわたるが、いくつか例を挙げてみよう。

第1に、これから高齢化が進み、社会保障のコストは増える。その財源となる消費税を減税すべきでない。

第2に、消費税を減税すると、消費額が多い富裕層ほど減税される額が大きくなる。

第3に、消費税の減税は、法律改正が必要で、さらに末端の小売店などを含め、システムの改修、値札の付け替えなどの膨大な作業負担が生じる。準備のための猶予期間も必要で、現在の物価高対策としては、あまりに時間がかかりすぎる。

第4に、物価高に対応して一時的に減税を行うと言っても、一度減税すると元に戻すことは困難で、物価高対策だったはずなのに、事実上の恒久措置になってしまう。

第5に、選挙が近いから国民に迎合するために減税提案がされているだけだ。それに騙されてはいけない。

第6に、日本の財政状況は非常に厳しい。このまま「ばらまき」ばかりの放漫財政を続ければ、いずれは立ち行かなくなり、財政破綻する。将来の国民の苦しみは、今とは比べものにならないほど厳しいものになる。

第7に、第6とセットであるが、「ザイム真理教」と呼ばれる財務省信奉者の存在だ。これに対して、財務省は「悪」で、その財務省が常に引き上げを狙っている消費税だから、「悪」が考えている増税と反対のこと、つまり減税することが正しいという議論も一部で強い支持を得ている。

一時は、世論調査で国民の過半が消費税減税を求める結果が出ていたが、最近は、以上のような反対論の流布で、調査によっては、賛成と反対が拮抗する状況になっている。

さらに最近石破茂首相が力説する「金利のある世界」という話がここへきて、非常に説得力を持ってきた。

少し前まで、日本はデフレ下からの脱却を目指して安倍政権以来、異次元の金融緩和を続けてきた。これにより、マイナス〜ゼロ金利状態が長く続き、国債を発行しても利息を払わなくて済んだ。政府はばらまきを続けて、国の借金はGDP比で200%を超えた。ところが、金融の正常化に入った現在は、政府の国債は従来より高い利回りで発行せざるを得ない。国の利払いは徐々に増え、いずれは財政が立ち行かなくなるかもしれない。

ただし、日銀が非常に慎重に動いているために、その心配はない、と皆が思い込んでいた。しかし、最近驚くようなことが起きた。それは30年物や40年物の新発の超長期国債の利回りが急激に上昇し、各々5月21日に一時3.185%、22日に同3.675%と史上最高になったのだ。日銀が積極的に買わない上に、市場参加者が、これからもっと金利が上がるから今買うと損をすると考えたために、利回りが上がっても国債が売れず(価格は下がり)、それを見た市場参加者は様子見を決め込むからますます売れなくなるという悪循環になる。

「財政が悪い」から減税はダメだという主張

これは超長期国債に限定されない。やがては長期金利の指標となる10年物国債も売れなくなるという連想が広がる。

国債を売ろうとしても売れないということは、ある意味で財政の破綻である。今は、全く売れないわけではないから破綻とは言えないかもしれないが、国債の金利が下がる(価格が上がる)という見通しはないので、このままだと本当に国債が売れなくなりそうだ。

そして、この懸念に拍車をかけたのが、石破首相だ。

日本の財政は、事実上の財政破綻に陥ったギリシャと比べ、「ギリシャよりも悪い」とわざわざ宣伝してしまった。国家のトップは、国家財政が悪くて国債が売れないときには、我が国の財政は心配ありませんとアピールすべきだが、全く逆だ。

この発言は独り歩きして、世界中でニュースになった。

石破首相は、消費税減税に反対して、「何もしない首相」などと批判されたことで、参議院選挙に響くと心配したのだろう。減税しないことの正当性を力説するあまり、日本の財政が悪いので減税はダメだという主張についつい熱が入り、思い切り日本財政の悪口を言ってしまったようだ。

石破首相まで日本の財政はギリシャより悪いと言えば、国民も驚いて本当に財政危機なのだと理解し、消費税減税なんてとんでもないねということになるかもしれない。そうなれば、減税反対派の勝利。財務省も祝杯をあげるということになるのだろう。

そして、もう一つ喜ぶグループがいる。それは新聞社だ。

消費税減税反対論が盛り上がる背景には、実は、新聞社による非常に狡猾な世論誘導の影響があることはご存じだろうか。

例えば、読売新聞の5月13日付社説には、「消費税を減税する場合、別の財源を新たに手当てしない限り、社会保障サービスを削ることは避けられないだろう」「参院選の受けだけを狙った減税論は無責任と言わざるを得ない。各党の見識が問われている」と野党の減税案に反対意見を表明している。

朝日新聞の4月27日付社説は減税案を出した立憲民主党の野田佳彦代表について、「財源確保は『指示した』とするにとどめ、具体策は示さなかった……あまりにも無責任だ」と、こちらも減税提案した立憲の野田代表をこき下ろした。

毎日新聞も4月27日付社説に「立憲公約に消費税減税 責任政党の自覚問われる」というタイトルをつけ、「財政規律を無視した政策論が幅をきかせ、将来に禍根を残すことは避けなければならない」などと、減税案反対を打ち出した。

日本経済新聞は5月10日付社説のタイトルを「参院選対策の消費減税公約は無責任だ」として立憲を名指しで批判した。

新聞各社が「消費減税」に反対のワケ

いずれも消費税の減税を明確に批判している。

新聞による消費税減税反対の世論誘導のやり方は非常に狡猾だ。

例えば、日経新聞の5月26日付朝刊の世論調査を報じる見出しは、「消費税率『維持を』55% 本社世論調査 年代上がるほど多く 食料品ゼロに反対48%、賛成45%」だった。消費税率の引き下げに反対の人が55%もいて、食料品のゼロ税率については、国民の半数近くが反対で、賛成を上回っていると多くの人は思うだろう。

しかし、その答えを導くために、日経新聞は、質問の答えに細工をした。

消費税率について、「社会保障の財源を確保するために税率を維持するべきだ」という答えと「赤字国債を発行してでも税率を下げるべきだ」という二つの答えだけを用意したのだ。それ以外の重要な選択肢として、富裕層や大企業への増税や大企業への補助金や税制優遇措置の廃止縮減、防衛費減額などによって財源を確保して消費税の減税を行うべきだという答えを用意しなかったのである。

消費税を減税したら社会保障費は削られるが、それでも良いですかと聞いているのと同じだ。そう聞かれれば、それは困るという答えが増えるのは当然だ。この質問は、国民が消費税減税に反対しているという答えを作るためのものだとしか考えられない。

政党の「見識を問う」前に自らの見識を問うべきだと言わなければならない。

それにしても、これほどまでに必死に減税反対論を展開するのはなぜだろうか。

実は、新聞社は、自分たちの利権を守るために、食料品の税率を下げるのには大反対の立場だ。なぜなら、新聞は、食料品と同様、8%の軽減税率の対象になっているからだ。

今回もし、食料品の税率ゼロが実施されるとき、さすがに新聞も0%にしろとは言えない。そうなると、食料品と新聞の税率の連動性がなくなり、将来の消費税増税の際に、食料品並みのゼロないし低税率をという要求ができなくなる。他の消費財と同じ税率に引き上げられることになるだろう。

そこで、食料品と新聞を切り離す事態を絶対に避けるために、食料品だけ税率を下げるのは絶対に反対なのだ。

また、財務省と新聞社の間には、新聞に軽減税率を適用する代わりに、消費税の増税には反対しないという密約があると言われる。

増税に反対しないという約束は、減税には反対すべきだという意味になる。もし、そうしないなら、新聞の軽減税率はなくすぞという脅しが財務省からなされているか、あるいは新聞社側が自ら財務省の意向を忖度して反対論を唱えているのだろう。

新聞社がだらしないと怒る人もいるだろうが、相手の弱みにつけ込んで世論誘導の手先に使うという財務省の汚さをより強く批判すべきかもしれない。「ザイム真理教」が蔓延る理由がよくわかる。

私は、財源論なき減税論は無責任だということを否定するつもりはない。むしろ、富裕層増税などについて積極的に議論すべきだと考える。しかし、財務省と新聞が誘導する財源なき減税論は、全くおかしいと考えている。

「財源がない」と言いながら防衛費は増額

まず、消費税が社会保障の財源として使われるとしても、それ以外に財源を求めてはいけないということにはならない。社会保障は国家の責務の中でも最優先されるべきものだ。もし消費税で足りなければ、外から財源をもってくるべきである。その財源は、法人税でも所得税でも良いし、租税特別措置を含む大企業補助や防衛費などの他の歳出の削減でも良い。富裕層に対象を限定して社会保険料のアップや年金給付額の削減を行っても良い。

そうした議論は一切紹介しないまま、消費税を削減するときだけは「財源がない」と批判し、防衛費を増額したり、大企業に補助金を出したりするときに財源論をスルーするのはいかにも不公平だ。

逆に言えば、今挙げたような財源論を伴った減税案であれば、「責任ある減税案」として認めて良いはずだ。そうした議論をなぜ促進しないのか。

そのことをあえて議論から消して、あたかも、あらゆる消費税減税論が無責任であるかのように世論誘導する新聞の論調に騙されてはいけない。

4月22日配信の本コラム「『消費減税』をポピュリズムと決めつけるのは思考停止 立憲・江田憲司氏の『食料品税率ゼロ案』を真剣に議論すべきだ」で紹介したとおり、2021年の立憲の選挙公約には、「富裕層や超大企業への優遇税制の是正で所得再分配を強化」というタイトルで、法人税に累進税率を導入すること、所得税の最高税率を引き上げ、現在分離課税になっている金融所得について国際標準まで強化すること、社会保険料の月額上限を見直し富裕層に応分の負担を求めることなどが書かれている。

これらの提案をより具体的な公約として掲げたらどうであろうか。例えば、大企業への法人税に累進税率を導入すれば、円安でボロ儲けしているトヨタなどの大企業への大増税になる。

しかし、立憲の支持母体である連合に属するトヨタなどの大企業の労働組合が反対するので触れる勇気がないのだろう。だとすれば、確かに無責任な提案だと批判されても仕方ない。

最近一時の勢いに翳りが出ているとも言われる国民民主党は、カナダの制度を参考にして、高所得者の年金のうち国庫負担分の全部または一部を返還させる措置について検討することを提案した。

富裕層への給付の制限の一つの形であり、前述のような私の財源論と問題意識を共有するものである。

また、共産党はかねて独自の財源案を提示している。

全ての野党が、消費税を減税するための財源論とともに、貧富の格差是正を含む税制と社会保障の抜本改革をタブーなく議論して新たな提案をできれば、そのときこそ、責任ある政党の連立による政権交代を実現できると思うのだが、いかがだろうか。